子曰わく、道に聴きて塗(みち)に説くは、徳を之れ棄(す)つるなり。(「陽貨第十七」12)
(解説)
孔子の教え。「受け売りをするのは、自分で不道徳となってしまうことだ」。(論語 加地伸行)
他者から中途半端に知り得た知識(道徳)をそのまま説こうとすれば、中途半端な話になってしまい、自分を安売りするようなもので、自分の「徳」を傷つけるということであろう。
「公冶長第五」14に、「子路 聞くこと有りて、未だ之を行なうこと能(あた)わずんば、唯聞くこと有るを恐る」とある。
「先生から教わったことはすぐに実行に移したい。しかし、まだそれが成果をあげていないうちに、また次の教えを聞くと、それも実行したくなり、あぶ蜂とらずになる恐れがある。だから、一つのことを成就するまで次の教えを聞くのが恐ろしい」、と桑原武夫は解説した。
知行合一 本当の知は実践を伴わなければならない。知識と行為は一体であるということ。
米100ドル紙幣に肖像が描かれているベンジャミン・フランクリンは「自伝」に自らの信念を十三の徳目(フランクリンの13徳)にまとめたという。それは「道徳的完全に到達する大胆で難儀な計画」といい、フランクリンはその実行のため、毎週、その一週間をひとつの徳目の一つを実践し、年に4回この過程を繰り返したという。
フランクリンに叱られるかもしれないが、米国版子路という感じであろうか。
節制 飽くほど食うなかれ。酔うまで飲むなかれ。
沈黙 自他に益なきことを語るなかれ。駄弁を弄するなかれ。
規律 物はすべて所を定めて置くべし。仕事はすべて時を定めてなすべし。
決断 なすべきをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
節約 自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち、浪費するなかれ。
勤勉 時間を空費するなかれ。つねに何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて断つべし。
誠実 詐りを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出だすこともまた然るべし。
正義 他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすべからず。
中庸 極端を避くべし。たとえ不法を受け、憤りに値すと思うとも、激怒を慎むべし。
清潔 身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
平静 小事、日常茶飯事、または避けがたき出来事に平静を失うなかれ。
純潔 性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行い、これにふけりて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他の平安ないし信用を傷つけるがごときことあるべからず。
フランクリンも孔子の影響を受けたのだろうかと思ってしまうほどに、類似点が多くはないだろうか。
「為政第二」17で、孔子は子路に、「知る」ということを誨(おし)える。
「之を知るは知ると為し、知らざるは知らずと為す、是れ知るなり」。
一方、フランクリンは謙譲の精神をそのソクラテスに学べという。
そのソクラテスは、自分が知らないということを自覚し、その当時の賢者に教えを乞うとするが、逆に「何も知らないのに知っていると思い込んでいる」ということ気づく。そこから「汝自身を知れ」へとつながっていく。
これはギリシャ哲学では画期的なことと言われる。ソクラテスが孔子の影響を受けた否かはわからないが、類似するところも多くあるのではなかろうか。
「道に聴きて塗に説くは、徳を之れ棄つるなり」と聞き、子路の生き様であった「知行合一」を連想する。
「知行合一」は、「為政第二」13で、子貢が孔子に「君子を問うた」ことに端を発したと言われる。
「先ず行なう。其の言や而(しか)る後に之に従う」。
「行動」「行動」と、昨今もそういわれるが、「知」の探求無くして、行動を起こすこともまた難しいのだろう。「知行合一」、子路の精神に学びたい。
(参考文献)