2026年7月、日本の金融市場と政治は一連の強烈な「不信任のシグナル」に見舞われている。
東京市場では、原油先物価格の急騰を背景に「株安・円安・国債売り(金利急騰)」が同時に進行するトリプル安の様相を呈した。
原油先物価格が上昇、東京市場「トリプル安」…日経平均は反落し終値6万4611円 : 読売新聞
歴史的安値でも買われぬ円 米国投資家「通貨防衛の姿勢見えず」 - 日本経済新聞
外国為替市場では1ドル=163円台後半という歴史的安値水準に沈みながらも、米国の機関投資家からは「通貨防衛の明確な意思が見えない」と冷視され、買われぬまま放置される事態が続いている。
小さすぎる日本株、海外投資家悩ます 円安で大型株も受け皿になれず - 日本経済新聞
さらに、記録的な円安はドル建てで見た日本企業の資産価値を激減させ、グローバル投資家が投資の受け皿を見出せない「日本株の小粒化」という皮肉な現象まで引き起こしている。
時を同じくして発表された世論調査では、高市内閣の支持率が発足以来初となる5割割れを記録した。
高市内閣の支持率が急落、発足以来初の5割を切る動き…識者が指摘する「若い世代の支持離れ」を招いたワケ:東京新聞デジタル
桁違いの成長目標を掲げた政策が始動した直後であるにもかかわらず、なぜこれほどまでに市場と国民の双方が急速に離れつつあるのだろうか。
専門知の拒絶と、与党足元からの悲鳴
市場や世論の冷ややかな反応の背景には、政策の現実性やプロセスに対する深刻な疑念が存在する。
日本経済新聞が実施した調査によれば、経済学者の7割が「骨太の方針」に盛り込まれた高い成長率を前提とする財政健全化目標について「達成不可能」と回答した。
財政目標「達成できない」70% 骨太巡り経済学者、高成長頼みに警鐘 - 日本経済新聞
歳出の厳格な改革や現実的な税収見通しを避け、「成長すれば財政は勝手に健全化する」という楽観論に依存する構造に対して、専門知の側から明確な警鐘が鳴らされた形だ。
さらに深刻なのは、ロイターが伝えた政府・与党内部の空気である。大詰めの特別国会を前に、政府関係者や自民党メンバーからも「将来の出口や財政の裏付けが見えず、非常に不安だ」といった声が漏れ始めている。
マクロスコープ:大詰めの特別国会 関係者が「非常に不安」と吐露する高市財政の課題 ー ロイター
「17分野370兆円投資」「GDP1,100兆円への倍増」という威勢の良い数字(言)がどれほど躍ろうとも、具体的な制度設計やリスク管理といった丁寧な対話(信)が欠落しているため、内からも外からも「空中楼閣」として見透かされているのだ。
「信頼」とは
子夏曰く、君子は信ぜられて後に其の民を労す。未だ信ぜられざれば、則ち以て己を厲(や)ますと為す。信ぜられて後に諫(いさ)む。未だ信ぜられざれば、則ち以て己を謗(そし)ると為す。(「子張第十九」10)
弟子の子夏が信頼の原則を極めてシンプルに提示している。
第一に、「リーダーは、信頼関係を築いてから人々に役割や負担(労)を求める。信頼がまだ形成されていない段階で負担ばかりを強いると、人々は『自分たちが苦しめられている、利用されている』と感じる」。
第二に、「信頼関係を築いてから意見や修正(諫言)をする。信頼がないまま意見すれば、相手はそれを『自分への攻撃や中傷(誹謗)』と捉えてしまう」。
現代の日本が直面しているトリプル安や支持率の急落は、まさにこの「未だ信ぜられざれば、則ち以て己を厲ますと為す」という言葉の通りではないだろうか。
丁寧な対話や通貨防衛の明確な姿勢という「信」の土台を固めないまま、巨大な投資計画や不確実な成長の物語(負担とリスク)を一方的に提示した結果、国民も市場もそれを「未来への希望」ではなく「物価高と財政悪化の押し付け(苦痛)」として受け止めてしまったのではないのか。
また、外部からの警戒感や専門家の異論(諫言)に対しても、真摯に向き合って軌道修正するのではなく、自らへの批判や攻撃として退け続けてきた姿勢が、かえって不信を決定的なものにしてしまったのではないだろうか。
言葉の強さから、信の丁寧さへ
政治や社会の課題を議論する際、二項対立を煽り、ただ一方的に誰かを悪者として糾弾するだけでは、深まりゆく不信の溝を埋めることはできない。それ自体が、子夏の言う「未だ信ぜられざれば、以て己を謗ると為す」という不毛な対立の連鎖に陥るからだ。
163円台の円安、ドル建てで縮みゆく企業価値、経済学者の冷笑、そして支持率の下落――これら全方位から押し寄せる不信任のファクトは、威勢の良い数字や力強さの演出(大言壮語)がいかに無力であるかを如実に物語っている。
『論語』が示しているのは、真のガバナンスとは強気なスローガンを叫ぶことではなく、まず市場や専門家、そして国民との間に一つひとつ「信」を積み上げ直す地道なプロセスに他ならないのだ。
「信」なき大言壮語は、社会に混乱と不信しか残さない。いま求められているのは、言葉の強さを競うことではなく、「信頼」という根を静かに作り直す誠実な姿勢がもとめられているのではないだろうか。
「参考文書」
ゴールドマンCOO、日本経済「最大のリスクは円安」 日銀の対応注視 - 日本経済新聞
東京の月収世界39位、iPhoneは最安 円下落で物価の割安感加速 - 日本経済新聞














