「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

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【君子は一言以て知と為し、一言以て不知 と為す。言 慎しまざる可からざるなり】 Vol.502

 

陳子禽(ちんしきん) 子貢(しこう)に謂いて曰わく、子は恭を為す。仲尼(ちゅうじ) 豈(あに)子より賢(まさ)らんや、と。子貢曰わく、君子は一言以て知と為し、一言以て不知 と為す。言 慎しまざる可からざるなり。夫子の及ぶ可からざるや、猶天の階して升(のぼ)る可からざるがごとし。夫子の邦家(ほうか)を得れば、所謂(いわゆる)之を立つれば斯(すなわ)ち立ち、之を道びけば斯ち行き、之を綏(やす)んずれば斯ち来たり、之を動かせば斯ち和(やす)らぐ。其の生(い)くるや栄え、其の死するや哀(かな)しむ。之を如何ぞ、其れ及ぶ可けんや、と。(「子張第十九」25)

 

(解説)

陳子禽が子貢にこう述べた。「子貢は謙遜されています。孔子がどうして子貢より賢(まさ)っていましょうか」と。子貢は答えた。「君子 教養人たる者は、一言で賢者とわかり、一言で愚者とわかる。ことばは慎重であらねばならぬ。孔子がとても我々の及ぶことのできないお方であることは、ちょうど天にはしごをかけて昇ることができないようなものである。もし、孔子が諸侯(邦)や卿大夫(家)の地位を得たならば、いわゆる民を立たせようとすれば民は立ち、民を導けば思うところに民は行き、暮らしをゆったりと落ち着かせば集まり、元気つければ仲良く暮らすことになろう。孔子は生前は華々しく、他界に人々は哀しみ、傷んだ。どうしてこの方に及ぶことができようか」と。 論語 加地伸行

 

 

  

「夫子の及ぶ可からざるや、猶天の階して升(のぼ)る可からざるがごとし」、

「言語には子貢」と評されるだけあって、これもすぐれた比喩なのだろう。

「政を為すは徳を以てす。譬(たと)うれば北辰の其の所に居りて衆星(しゅうせい)之と共にするが如し」(「為政第二」1)との孔子の美しい言葉がある。

 

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 北辰に立つ為政者によって徳治政治が施されれば、その徳を慕って人々が集まってくる。子貢は、孔子を天高く北辰にあるとみたのだろうか。

☆ 

「子貢」、姓は端木、名は賜、字は子貢。孔門十哲の一人と言われる。孔子より32歳年少。   

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 子貢は、利殖の道にもたけ、孔門第一の金持になった。

 

 

 

 子貢は、孔子の死後、衛の宰相となったといわれる。

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 子貢は、「孔子より賢っている」と言われても、こうして巧みな喩えで常に孔子を賞賛する。それだけ孔子のことを敬っていたのだろう。それが「言語には子貢」、「弁舌にすぐれた秀才」との評価にとどめてしまったのかもしれない。

「君子は一言以て知と為し、一言以て不知 と為す。言 慎しまざる可からざるなり」

 子貢、合理的でスマート過ぎたということであろうか。弱点であった実直さがもう少しあれば、歴史的な評価も異なっていたのかもしれない。 

 

「陳子禽」、姓が陳、名は亢、字名が子禽。孔子の弟子だが事跡は明らかでない。子貢の弟子、孔子の孫弟子という説もあるという。

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 子禽が、他の孔子の弟子たちのようにもう少し有能であれば、子貢の学説が世に残ることになったのかもしれない。 

 

 

「関連文書」  

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(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  • 作者:加地 伸行
  • 発売日: 2009/09/10
  • メディア: 文庫
 
論語 (ちくま文庫)

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  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫