「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

SONYの盛田さんとマイケル・ジャクソン【北辰の其の所に居りて衆星之と共にするが如し】 Vol.22

  

子曰わく、政を為すは徳を以てす。譬(たと)うれば北辰の其の所に居りて衆星(しゅうせい)之と共にするが如し。(「為政第二」1)

  

(意味)

「為政者は民衆の模範となる有徳者でなくてはならない。(そうであれば、その徳を慕って人々が集まってくる。)比喩的に言えば、北辰がその位置に定まり、その他の星がそれを尊びつつ共に動くように。」論語 加地伸行

 

 天空の中心である「北辰」に衆星が取り巻き回転するさまから、その状態を政治組織に見立てると、中心にいる為政者は無の状態であり、その行為は、私心なく自然にして適切な対応となるので、いわば「無為にして静清」と加地は解説する。

 

 

 「政(まつりごと)を為すは徳を以てす」、 現在の政治家の中に有徳者を探しだすことは、なかなかもって難しくなっている。(SNSで話題になっている河野太郎さんには何かユニークさを感じるが)

 城山三郎さんの「男子の本懐」に描かれ、ライオン宰相と呼ばれた浜口雄幸昭和天皇の信任の厚かった鈴木貫太郎あたりが日本政治における有徳者であったのであろうか。

男子の本懐 (新潮文庫)

男子の本懐 (新潮文庫)

 

 

桑原の解説

「政を為すに徳を以てする」、無為にしてかすることだと注釈は教えているという。知力(理知と権力)に頼らないで、君主の徳性によって教化するということでだろうが、そう言い換えてみても現代の私たちにわかりにくいと桑原はいう。

 君主はつねに人民をわが子のように愛するという基本姿勢において、人民の生活にできるだけ干渉しないようにして、ただ災害から守る配慮をしつつ、最低の租税を取り立てさせる、という程度のことと解しておきたいと桑原は言う。

 徂徠は徳を以てするとは、有徳の人を任用することだとして、「舜(しゅん)に臣五人有りて天下治まれり」(「泰伯第八」20)を引用するというが、桑原はそれで話は明瞭になるが文学としての美しさは消えてしまうという。北辰と衆星のイメージが矮小化され、千代田城中の密室を思わせるという。  

dsupplying.hatenadiary.jp

  

 この章は、徳による政治を行えば、その統治者を中心にしてすべてが見事に円満に展開する、という意味に解して、そのテーゼよりも比喩として類例のない美しさを味わいたいと桑原は言う。

 

 

 「せまい部屋の、しかし明るい灯火の下で、夜を過ごすことになれたわれわれと違って、古代の人は、毎晩のように、天空をふりあおいだに違いない。夜の星空は、古代人にとって、はなはだ親しい存在であった。ことに、北中国の空は、湿気の多い日本と違って、夜の星空は、すぐそこに、美しいカーテンをひろげたように、広がっている。(中略)共は拱(きょう)の音通であるとし、星たちが北極星の方に向かっておじぎをし、挨拶をしている、と説く漢の鄭玄の説を、私はとりたい。砂子をまき散らしたように、大空いっぱいにひろがる星が、北極星の方に向かって、おじぎ、といっても、それはからだを折り曲げたことごとしいお辞儀ではなく、今の中国人がよくするように、軽く両手を前に組合せてのおじぎをしている、というのは、道徳による政治の効果の比喩として、美しいイメージである」とは吉川幸次郎氏の注釈、中国の廷臣たちが両手を前にささげて天子をあおぎみるイメージの美しさは、他の読みを押しのけると桑原は言う。

 

 広くビジネス界に有徳者を探すとすれば、やはりSONYの故 盛田昭夫さんのことを思い出します。アサヒビールの元経営者であった樋口廣太郎さんの著作「つきあい好きが道を開く」で盛田さんのことがこう書かれている。

自然に人の心を和ませるセンス  盛田昭夫さん

おつきあいをしてみると、盛田さんは言葉とか、態度とかではなく、本当に自然に人の心を和ませてくれる不思議な魅力の持ち主であることが分かります。実は、そのゴルフの日、そうした盛田さんの人間味を感じさせるもう一つの出来事がありました。「帰りに家に寄って行きませんか。食事でもしましょう。家内の手料理ですが…。」と誘われて、みんなでお言葉に甘えました。盛田家で食事をしている最中に電話がなりました。

「マイケルジャクソンから電話で『今から行ってもいいか』と言っているけれど、構いませんか」と、盛田さんは私たちに聞かれました。当然、「結構ですよ。」とお答えしました。小一時間もすると、私たちのいる居間にマイケルジャクソンが、あたかもそうあるのが当たり前のように、すーっつと入ってきました。日本語で「こんにちわ」と挨拶しましたが、まるで、盛田さんのご子息が帰宅して、お客さんに挨拶するような風情でした。付き人もおらず、全く一人だったせいかもしれませんが、ほんとうに自然なのです。

 マイケルは、二時間ぐらいいたと思いますが、その間、二言三言話しただけでした。盛田さん夫妻も格別、話し相手になるわけではありません。ソファに深く座って、雑誌をペラペラとめくっていました。いつも自分の家でそういしているかのように、ゆっくりくつろいでいました。

(つきあい好きが道を開く 樋口廣太郎)

 

  

【北辰の其の所に居りて衆星之と共にするが如し】

 

 盛田さんのためにあるような言葉の気がする。

 

  

  故人ばかり書いていますので、もうひとり故人のこと。東西ドイツ統一時の首相だった故ヘルムート・コール氏。東西ドイツの統一という偉業を成し遂げ、現首相のメルケルを見出したことは彼の功績と言われているようです。

後から振り返れば、コール氏の決断がなければ東ドイツがあれだけのスピードで復興することはなかったと思う。私が訪れたときには約40%だった旧東ドイツ地域の失業率は今やその4分の1程度に縮小し、完全雇用に近づいている。多少の経済格差は残っているが、世界最強のドイツ経済にガッチリ組み込まれているのだ。

コール氏の功績を最後にもう一つ挙げるなら、アンゲラ・メルケルという強力なリーダーを見出したことである。ぶれない信念に基づいた行動と言動で今や揺れ動くEUの守護神にさえなっている。西ドイツのハンブルクに生まれながら、牧師だった父親の関係で東ドイツ育ち。物理学者だったメルケル氏はベルリンの壁崩壊を契機に政治家に転身、統一前に西ドイツで行われたCDUの党大会でコール氏と出会っている。 

自分の政治の師に引導を渡す「鉄の意志」は、ある意味で師匠譲りといえる。政策的にもメルケル首相はコール氏の路線を踏襲し、徹底してヨーロッパファーストを貫いている。今やドイツの象徴であるばかりか、ポピュリズムや右派勢力が台頭するヨーロッパではメルケル首相が唯一の希望の星だ。(出所:プレジデント) 

president.jp

 

www.newsdigest.de

 

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

 

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