「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

光輝くパラアスリートたち、努力の天才なのか、それとも不屈の賢者なのか ~セルフヘルプと論語 #9

 

 パラアスリートたちの活躍が続いています。ボッチャの杉村選手が金メダルを獲得し、ゴールボール女子、車いすバスケ男子がそれぞれ準決勝進出を決めました。

 使える能力を最大限に活用するアスリートたちの姿に感動します。

 目隠しして競技するゴールボール選手たちの鋭敏な感覚には驚かずにはいらません。畏怖の念を抱きます。

 一般的に、情報の7割は視覚から入力されるといいます。それが遮断されているにもかかわらず、飛んでくるボールをキャッチし、今度はゴールを狙って、ボールを投じる。どんなことをイメージ、想像しているのでしょうか。そのイメージのためには、事前の入力が欠かせなかったはずです。コートやゴールの大きさを体得、理解してはじめて、ゴールを際どいコースに決めることができるのでしょうか。

 昨日の萩原選手の活躍にほんとうに驚きました。

 

天は自ら助くる者を助く

「自尊心、自助の精神、持続力、勤勉、誠実――どの徳目をとってもそれは習慣であり、信念ではありません」とサミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」でいっています。

「自助」、自分で自分を助けようという精神は、人が真に成長するための根本といいます。

すべてを失っても、勇気と快活さと希望と美徳と自尊心が残っていれば、ゆたかです。そのような人にとって、世界はいわば依託された財産のようなものです。つまらない心配ごとは超越して、紳士として胸を張って歩くのです。

(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P186)

 

論語の教え

「性 相(あい)近し。習い相遠し。子曰わく、唯(ただ)上知(じょうち)と下愚(げぐ)とは、移らず」と、「陽貨第十七」2にあります。

「人は先天的に差はない。後天的に差が生まれてくるのだ」、「天才と凡才とは、どのようにしてもその差は埋められない」との意味です。

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 賢明な人は、境遇や環境に左右され堕落することがなく、一方、愚かな者は、どんなに良い境遇や環境のもとにおかれても賢者にはなれない。

上知と下愚とは、移らず

 加地伸行は「上知」を天才と解し、「下愚」を凡才と解します。

「天才」とはどんな境遇にあっても学習を続けることのできる人と言えるのでしょうか。

 ボッチャの杉村選手が「自分としては、障がい者がすごいプレーをしているとあまり見てもらいたくなくて。1人のアスリートとして、すごいなって感じてもらえたら。未来の『火ノ玉』選手の活躍につながるようなきっかけになれば」と話されたといいます。

人は先天的に差はない。後天的に差が生まれてくるのだ」といった孔子の言葉が重く圧し掛かってきます。

 

対立のない棲みよい社会、米軍撤退を明るい兆しに ~セルフヘルプと論語 #8

 

 国家ということにあまり執着せずに、地球上のあらゆる人々が交わり、楽しく愉快に暮らすことができれば、平和な世界になっていく、そう改めて感じます。

 2001年、米国で起きた同時多発テロはたいへんショッキングな事件でした。あの惨劇の報復のために米国は20年という時間を費やしてきました。しかし、そこから得たものはあったのでしょうか。

 対立は対立しか生まなかった、それを改めて学んだだけかもしれません。

 米国がアフガニスタンから撤退しました。賛否両論があるのでしょうが、対立や争いが終結したことは歓迎したい、率直にそう感じます。人と人が争い、命を奪い合いような行為はもうそろそろ、ほんとうにやめるべきではないかと痛切に感じます。

 

 オリンピックやパラリンピックなど大きなスポーツ大会があると、国家というものを意識します。国と国の争いは、ルールがあるスポーツの場だけになればと思います。

 そう思えど、現実には国家があり、競争がなくなることはありません。

  日本の凋落、そんなことを聞くとあまりこころよくはありません。争いを積極的に是認したくはないですが、自分が棲むコミュニティが落ちぶれていくのかと思うと、少々危機感を覚えます。自分の身の回りが元気でないと、楽しく愉快から遠退いてしまいます。

「日本企業はとことん競争し、勝つべし」

今や企業としての成長や利益だけでなく「社会性」こそ重要だという発言をよく聞きますが、利益や成長と社会性を対立概念のように誤解されやすい言い方をするのは危険です。

短期的な成長や一時的な利益は分かりませんが、「社会性」のない会社が中長期的に利益を出し成長することなどできないわけです

社会や顧客の圧倒的な支持を得るために、とことん競争し、日本の企業はもっと勝たなければなりません。 (出所:日経ビジネス

 そう語るのは、DeNA南場智子会長。

「日本企業の生産性の低さもよく語られており、G7(主要7カ国)の労働生産性比較では最下位が指定席になっています」と指摘します。

 自分が属するコミュニティが、凋落していく現実を見過ごすべきでないし、それよりは持続的に成長する方がよいのでしょう。

 

 ほがらかでいると、精神が柔軟になります

「善き人間と触れ合えば、必ず善が自分に伝染(うつ)り、そのいくぶんかはずっと自分のものとなって残ります」とサミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」で説きます。

「高貴な人柄に接すると、自分自身も高貴な存在になったような、高い目標や目的のある世界に引き上げられたような気がしました。そしていつも別れ際になって、常日ごろ自分がなじんでいる世界はなんて低級なんだろうと感じたのです」。

 (引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P168)

「高貴な人柄の感化力というのはこのようなものです」と、スマイルズはいいます。

 それと意識しないうちに高められ、その人と同じようにものごとを感じ、同じようにものを見る習慣が身につくといいます。

熱意ある精神は、つねに健康で、幸せな精神です

「朗らかな心でいれば、憂鬱な幽霊は消え、困難があっても絶望しません」と、スマイルズはいいます。

きわめてありきたりな仕事でも、そのような気持ちによって威厳に満ちたものとなります

そして、もっとも成果のあがるのは、心いっぱいの熱意のこもった仕事です。楽しい心で仕事する人の手と頭から生み出される仕事なのです。

(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P169)

 

 不思議なことにお金が余っていると言われています。どこの国の政府も金融緩和を続けているのですから、そうなのでしょう。しかし、そのお金の使い方に淀みがあるような気もします。

「日本の経済には新しいけん引役が必要だ」、ご自身の経験からのでしょうか、南場氏はスタートアップ企業がもっと活性化すべきとのお考えをお持ちのようです。

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 余ったお金が、高い志をもって「社会性」を改善しようとする人々のために役立っていけばいいのでしょう。

 コロナに、地球温暖化、自分たちのコミュニティが住み難くなっています。それらを解決するのは結局自分たちの仕事でしかありません。自分の暮らしをよくしたいという熱意がないとその実現が難しそうです。

論語の教え

「近き者説(よろこ)び、遠き者来たる」(「子路第十三」16)と論語にあります。

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「近隣の者が喜ぶと、遠地の者が移ってくる」との意味です。

  対立がなく、棲みよい社会を作っていく、それが自分の仕事と自覚し、熱意をもって励めば、それが経済成長の源泉になるのでしょう。そうあれば活気あるコミュニティになりそうです。それができていないから、凋落なのでしょうか。

 

緊急事態宣言下で開催された音楽フェス、言い訳する主催者、悪いの誰か ~セルフヘルプと論語 #7

 

  緊急事態宣言が発令中の愛知県で、日本最大級のヒップホップのビーチ野外フェス「NAMIMONOGATARI(波物語)2021」が開催され、8000人を集め、観客がステージ前に押し寄せ、マスクを外し、歓声を上げていたそうです。また、その会場では酒類も提供されていたといい、問題になっています。

「愛知密フェス」主催者がサイトにおわび 知事は「連絡取れない」 | 毎日新聞

 愛知県は主催者である「office keef(オフィスキーフ株式会社)」を非難し、オフィスキーフは、謝罪文を公表、言い訳を述べ、弁明しています。

 

君子は諸れを己に求む、小人は諸れを人に求む

 論語「衛霊公第十五」21にある言葉で、「君子は何事も自己の責任に帰し、小人は責任を他人に求める」との意味です。

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 フェス主催者は、「今回の出演者はイベント制作には一切関係ありません。全て制作会社の弊社に責任があります事、よろしくお願い申し上げます」と、出演者には一定の配慮はしているようですが、謝罪文に記した顛末には県に相談し、コロナ対策を行ってきたとあり、また、当日も注意喚起としたと言い訳しています。

 「小人の過つや、必ず文(かざ)る(「子張第十九」8)

 「小人 知識人は過失があると、必ず言い訳をする」。

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 その過程は重要ですが、結果で評価されてしまうのも常です。言い訳したところで、その過去を取り返すことができません。

 言い訳すれば、許されるような悪習だけが残るのではないでしょうか。

 

 善い行いも悪い行いも、未来の人間に影響します

「模範的なお手本を示しておくことが重要なのです」

サミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」で説いています。

人間は、これまでの過去の文化によって作られ、育てられている果実です

今生きている世代の人間は、今までの蓄積されてきた行いと実例の滔々たる流れを引き継いで、遠い過去と遥か先の未来を結びつけるという役割を担っています。どんな人の行いも、完全に死んでしまうことはありません。 (引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P164)

さらに、「肉体は土に還っても、その人の善い行い、あるいは悪い行いは、同種の果実をいつまでも実らせ続け、未来永劫、来るべき世代の人間に影響をおぼ良し続けます」と、スマイルズはいいます。

人間が生きる上での大きな危険と責任は、このような重大な事実にあるということを、忘れないようにしなければなりません

どんなちっぽけなことでも、周りの他人の人生に知らぬまに影響するのです

「人間の言葉一つ、行動ひとつをとっても、それが延々と影響を及ぼし、それがどこまで伝わっていくのかを想像もつかないのだと思うと、厳粛で、そら恐ろしい気持ちになります」とスマイルズはいいます。

 

 共同通信によると、大村知事は「自分たちのやりたいことだけやって後の対処を一切しないというのは大変残念だ」と批判したといいます。また、経済産業省はイベントに補助金交付が決まっていたと明らかにした上で、取り消しの可能性があるとしているそうです。

 汚点とならぬよう、また禍根を残さないような厳粛な処置が求められます。

 

感染者が続出する伊勢丹新宿店、営業を続ける百貨店に万全な対策はあるのか ~セルフヘルプと論語#6

 

 日本一の百貨店、伊勢丹新宿店。その店舗で、連日のように新型コロナの感染者が確認され、7月中旬から8月中旬にかけては150人以上にもなっているといいます。

「これだけ感染者が増えても「クラスター(集団感染)」として認定されないのは謎だ」、と日経ビジネスはいいます。

伊勢丹新宿店は新型コロナのクラスターが発生している可能性があるのに隠そうとしているように感じた。百貨店に出店する企業に謎のPCR検査のルールを押し付けていた」。同店で働くある従業員はこう証言する。 (出所:日経ビジネス

 記事は伊勢丹新宿店を厳しく批判しています。しかし、ほんとうにそうなのでしょうか。新宿店でコロナ対策を担当する人たちはどんな想いを持って働いているのしょうか。

 

 タイムズスクエア新宿、マロニエゲート銀座などのバックヤードに何度か入る機会があり、社員食堂も利用していました。表の広々とし明るく華やかな世界とは裏腹に、狭く暗くのがバックヤードでした。コロナ対策からすれば、密になりやすく、指摘の通りなのかもしれません。

 伊勢丹新宿店には、約1万1500人が働き、自社雇用が約2000名で、残りの約9500名は外部の取引先企業の従業員といいます。コロナ感染者の大多数は、外部の従業員から発生しているそうです。伊勢丹を擁護するわけではないですが、社員2000名の中に、何人のコロナ対策の専従がいるのでしょうか。感染対策はさすがに外部に任せることはできないのでしょう。

 感染症の専門家でなければ、その対応に苦慮することが容易に想像できます。表の対応とバックヤードの対応。バックヤードの環境からして、対応が後手後手に回るのかもしれません。しかし、同じ状況が何日も続くのなら、容認することはできず、責められても致し方ないのでしょう。専門家の助力を仰いでいるのでしょうか。

 

 時間の余裕を作り出す

「君は自分の道を切り拓かなければならない。君がこの先飢えるか飢えないか、それは君自身の努力次第だ」と、サミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」でときます。

「目の前の仕事を片付けよ」、やらなければならないは、どんなことであれ直ぐにやれ、といいます。 

1日に15分でよいのです。自分を高める努力をするなら、1年経ったとき、あなたはきっと違いを感じているでしょう。(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P105)

 「時間の余裕を作り出すには、時間を節約しながら使うこと、これこそが正しい方法です。そうすることで、仕事に追い立てられるのではなく、じっくりと仕事に取り組んで、前進させることができます」とスマイルズはいいます。

 これと逆に、時間の計算を誤れば、いつまでもバタバタと慌てるばかりで混乱し、面倒ばかり起きるといい、間に合わせのやっつけ仕事になっては、大破局を迎えることになるといいます。

 

君子は憂えず懼(おそ)れず

 司馬牛(しばぎゅう)に君子とは問われた孔子が述べて言葉です。さらに孔子は「内に省みて疚(やま)しからざれば、夫(そ)れ何をか憂え何をか懼れん」、といいます(「顔淵第十二」4)。

 「己の心を省みて少しも疚しいところがなければ、一体何を憂え、何を懼れることがあろうか」との意味です。

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 気の抜けぬ緊張した日々が続き、バタバタと毎日起こることばかりに気をとられていては、根本の対策に手が回らない。ありがちなことなことです。

 自己を省みる時間があれば、正すべきことに気づきがあるのかもしれません。万能に何でも対応できる人などいないのでしょう。助力、協力が求められているのかもしれません。助力や協力を求めることは何も恥ずべきことではないはずです。緊急事態であればなおさらです。孔子が指摘するように、自分の中にやましいことがなければ、正当に要求できることなのですから。

.....もちろん伊勢丹新宿店がこれまでにないような逆境に直面しており、収益確保に悩んでいることは理解できる。緊急事態宣言が何度も延長され、訪日外国人の激減も続く中で、大黒柱である基幹店の営業をなんとかして続けたいと考えるのは当然だろう。

それでも経営を持続するために大事なのは、顧客だけでなく、現場を支える従業員を全力で守ることだ。1つの店舗で150人以上のコロナ感染者が出て、毎日のように新規感染者が出ている状況では、従業員の不安は消えない。クラスターが起きていた可能性を疑う従業員がいても不思議ではない状況だ。

伊勢丹側は「当社店舗に限定してのクラスターとは認定されていない」とする一方で、「店内で感染したか、家庭や街中で感染したかがわからない状況だが、(伊勢丹新宿店と)何らかの関連性がある可能性があると、(保健所から)指摘されている」(三越伊勢丹)と説明する。

従業員の不安を解消できないまま営業を続け、現場からの信頼を失えば、会社の未来が危ういのは言うまでもない。 (引用:日経ビジネス

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「言うは易く行うは難し」、悪気はなくても、そう見えてしまうこともあるのでしょう。極度の緊張下でどれだけ正しい行動をできる人がいるのか、ということでもあるのでしょう。

 

【時なるかな、時なるかな】予約不要のワクチン接種会場に群居する若者、コロナ対策は何処へ

 

 渋谷の予約不要のワクチン接種会場に多くの若者たちが集まったといいます。目に余る混乱ぶりです。

 読み違いがあったのでしょうか。こんなに大勢が集まると想像すらできなかったのでしょうか。それまでは、若者はワクチンを打ちたがらないといわれていました。その情報は何をもとにしていたのでしょうか。それとも情報がアップデートされずにいたのでしょうか。

色斯(しきし)として挙(あが)り、翔(かけ)りて後に集まる

 論語「郷党第十」21にある言葉で、「時宜を知る」雌雉を褒める孔子と弟子の子路のやり取りを記したものです。

「色斯(しきし)として挙(あが)り、翔(かけ)りて後に集まる。曰わく、山梁(さんりょう)の雌雉(しち)、時なるかな、時なるかな、と。

子路(しろ)之に共(きょう)す。三嗅(さんきゅう)して作(た)つ」。

 

「雌の雉(きじ)は、驚くと飛び去り、上昇して何度も飛び回り、様子をうかがって安心と見ると、そのあと静かに降りてくる。それを見ていた孔子はこういった。

「丸木橋にいた、あの雉は時宜を心得ている。時だな、時だな」と。

 すると子路は、その雌雉を捕えようと餌を与えた。その雌雉は何度も匂いを嗅いだあと飛び立った」との意味です。

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 この章に登場する雌雉が渋谷に集まる若者たちに思えます。人も雌雉も、その心理は同じなのかもしれません。若者に限定することもないのでしょう。

 人の心を憶測し、対策を講じることは難しいのかもしれません。要らぬ余念を排除し、顕在化した事象から対策することができれば、有効な策とすることができるのではないでしょうか。行き当たりの対応だけではなく、並行してコロナ対策を見直す機会なのかもしれません。

 

自分のことを知れば知るほど、人は謙虚になる

「人間として大きく成長し、社会の役に立つ仕事をたくさんし、人間としての義務を十分に果たした人生こそが、成功した人生なのです」とサミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」で説きます。

 働く人たちがこうした精神を養っていれば、このコロナ対策も混乱することはないのかもしれません。

人生でもっとも重要な目的とは、自分の中の人間を鍛え、肉体と精神を、頭脳を、良心を、思いやりを、そして魂を、できる限り大きく発達させることです。これこそが最終目的です。その他のことは、すべてそれを達成するための手段とみなさねばなりません。(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P132)

  また、スマイルズは若者に対してはこういいます。

若者は自分自身をよく研究し、自分自身の行動をよく観察し、自分の考えや行動を、自分が立てた原則と照らし合わせようとしなければなりません。自分のことを知れば知るほど、人は謙虚になります。そして、自分自身の力を過信しなくなるでしょう」。

将来のより高い目標を見据えて、現在の小さな満足を退けることによって、一本の太い人間の芯ができます。これこそが、もっとも価値あるものです。そして自己教育のもっと高貴な成果といえます。(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P128)

 コロナウイルスも自ら生き延びようと変異を繰り返し、より強靭になるようです。そんなウイルスに打ち勝つにはどうすればいいのでしょうか。

 人が唯一できることは思考を改めてたり、行動習慣を変えることはないでしょうか。

 変わるウイルスに臨機応変に対応できなければ、感染リスクは高まるばかりです。自己防衛本能が作動し、ウイルス同様、自衛しようと意識を働かせることは自然なことではないでしょうか。そうした人間の自然な心理を上手に取り入れた対策が必要になっていそうです。

 この禍は、自らの精神を鍛え直す機会であるのかもしれません。

 

【失敗という試練、そして知恵】パラ選手村で自動運転バスが事故、自動運転に暗雲なのか

 

 パラリンピックの選手村で巡回バスとして利用されているトヨタの自動運転車「e-Palette(eパレット)」が事故を起こし、運行を中止したといいます。

 この事故で、柔道 視覚障害の北薗選手が転倒、頭などに全治2週間のけがを負ったといいいます。出場予定だった試合は欠場することになったそうです。

 絶対にあってはならない事故。それに自動運転が関わっているのなら、なおさらではないでしょうか。豊田章男社長は謝罪し、事故の原因は調査中としたといいます。

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豊田社長によると、事故は車両がT字路を右折する際に起きた。曲がる前の直進は自動運転で走行し、横断歩道前でいったん停止。その後、乗車していたオペレーターのマニュアル操作で再スタートした瞬間に接触したという。「スピードにして(時速)1、2キロ。時間にして1、2秒の間に接触が起こった」と語った。 (出所:ロイター)

 

「e-Palette(eパレット)」の開発に携わった人たちにとっても、たいへんショッキングなことだったのではないでしょうか。

 徹底的に原因を分析し、その対策を講じる。断じて妥協はない。

 他の報道では「交通誘導の警備員を感知し停止した」とあり、また「接近を知らせる音量をこれまでの2倍にするなどの対策を講じる」との報道がされていることからすれば、人為的な操作ミスということが1次原因ということなのでしょうか。仮にそうであれば、なぜ操作、判断ミスがおこったのか。安全確認が不十分で再スタートした前提でなぜ再停止することができなかったのか、操作、判断ミスがある前提での予防策、再発防止などが徹底的に検証され、安全対策を再構築することになるのでしょうか。

失敗という厳しい試練、しかし、そこでしか得られない知恵がある

失敗と苦難からしか得られない知恵があります」とサミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」で説きます。

 何がうまくいかないのかわかってはじめて、逆に何がうまくいくのか発見することが多いものです

失敗したことのない人間が何かを発見したなどということは、古今東西なかったのではなかったのではないでしょうか。

(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P150)

  蒸気機関のワットも、機械工学でもっとも必要とされるものは、これまでの失敗の歴史を書いた本だと述べていたそうです。

偉大なものごと、偉大な思想、発見、発明などは困難のなかで誕生し、悲しみのなかで温められ、最後に、たいへんな苦労のなかで一人前に成長して世に送り出されるものなのです。(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P151)

失敗と苦難はきびしい試練だが、そこでしか得られない知恵がある

 

我々には、過去の汚点の歴史が必要だ

 想定通りにいかないから、事故が起きるのでしょうか。失敗を教訓しなければなりません。

 ロイターによると、豊田社長は、車両に搭載された自動運転技術について、「パラリンピックという特殊な環境の中で、目の見えない方もおられれば、いろいろと不自由な方もおられる。そこまでの環境に対応できなかった」と説明し、「普通の道を普通に走るのはまだ現実を帯びていない」と語ったといいます。

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(写真:トヨタ自動車

 中国は自動運転の先進地になり、つい先日も上海市浦東新区で、客を乗せた自動運転バスのテスト走行が行われたといいます。

 JETROによれば、滴水湖を一周するテスト走行が行われ、ルートは8.5キロ、停留所は8つあり、1周するのに約30分かかるそうです。テスト走行用の道路ではさまざま情報源を活用して交差点の通行効率を引き上げ、歩行者の安全性を確保しているといいます。

 また、米国ではアルファベット傘下の自動運転スタートアップWaymo(ウェイモ)が、サンフランシスコで限定利用者向けにロボタクシーサービスを始めたといいます。

 TechCrunchによれば、利用は無料で、セーフティドライバーが運転席に同乗、運行状況の監視と安全の確保を行うそうです。また、利用者は利用に関する詳細なフィードバックを数多く返すこと、また守秘義務契約に署名することになるといいます。

 大きな市場を獲得しようとみなが競争する。それはそれでよいのでしょうが、自動運転である以上、絶対に安全は蔑ろにすることは出来ないはずです。

我々には、過去の汚点の歴史が必要だ」とスマイルズはいいます。

 競争することばかりに専念するのではなく、失敗を共有することができれば、もっと早く安全な自動運転システムの実用化ができるのかもしれません。

 

学を好めり。怒りを遷さず、過ちを弐びせず

 論語「雍也第六」3にあることばです。若死にした弟子の顔回を回想した言葉です。

 その顔回は、「いつも修養に努め、八つ当たりなどせず、同じ過ちを繰り返すことがなかった」といいます。

 桑原武夫によれば、「怒りを遷さず」というのは新注では、甲への怒りを乙に移さない、つまり八つ当たりはしないといことになるそうですが、ここでは古注に従って、正当な理由があれば怒りはするが過度にならず、またその方向づけを誤らない、という意味にとっておきたいといいます。 

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 進歩がある以上、失敗が無くなることはないのでしょう。その反応の方向を間違えず、同じ失敗を繰り返さないようになれば、進歩ということなのでしょう。

 さて、コロナ対策はどうなのでしょうか。東京はピークアウトに向かっているようですが、全国ではあまり事態が好転していないようです。同じような過ちをいつまで繰り返えせば、気づきを得られるのでしょうか。

 

多様性の矛盾なのか、もっと個性が評価されていいはずなのに

 

「多様性のある社会で、お金の価値がやけに高くなる理由」、深津さんが書かれたnoteの記事が気になります。

社会が多様化(or 分断化)するほど、「ブレない共通言語」として機能する「数値」の役割は、ますます重要になります」といいます。

多様性社会のパラドックス

 また、「あなたにとって命をかけられるモノが、多様な人々にはまったく価値のないことも多々ある。それが多様性社会の宿命です」といいます。

note.com

あなたの「特別な何か」は、社会全体の多様な人々にとっては「否定しないけど、お金を払う価値ほど興味がない」ものです。逆にあなたの価値観と関係なく、多様な人々に刺さるモノ(メジャーなもの)は、天井知らずの価値がつきます。

あなたが命をかけたものが、他の人にとってはそこまで大事でない。ちょっと凡庸でも、大衆に届くメジャーで分かりやすい作品に天井知らずの価値がつく。(引用:note 深津貴之)

 

 全てがお金に換算される社会では、誰もがこの現実をつきつけられると深津さんはいいます。

「お金はメジャーな評価指標なのに、お金でしっかり評価されるモノやコトやヒトは、マイノリティなんです。これが、多様性社会においてお金が嫌われる最大の理由」といいます。

多様性社会の全体評価に乗っかる限り、残念ながらほとんどの人の「特別」や「大切」には値段がつきません(自分とは価値観が違う人が多いから)。

自分は社会から、それほど評価されない。 (引用:note 深津貴之)

 さらに、「多様で流動性のある社会において、絶対的な価値指標を作ってしまえば、大半の人々の営みは絶対価値指標の高い場所に集中してしまうでしょう。結果的に、多様性は破壊されてしまう」といいます。

 そうなのかもしれません。「数値」や「金銭」ばかりに囚われることなく、もう少しを大切にすべきではないのでしょうか。

上流でありたいという、「見栄」

「上流でありたいというおそろしい野心が、世間に広まっています」と、サミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」で説きます。

 見かけ上の体面を保つため、不正直な手段に出てしまうことすらよくありますといいます。

 その理由には、虚妄に過ぎない上流社会の人間であろうという見栄を満足させたいがためといいます。 

「我々の社会という闘技場には、最前列に立たなければというプレッシャが瀰漫(びまん)し、絶えず闘争が繰り広げられています」

 そんななかに巻き込まれると、無私無欲な人間になろうという気高い決心は踏みつぶされ、善良な良い人間は押しつぶされるのは必然の成り行きです。そして、たとえ見掛け倒しでも、ぎらぎらと輝く世間的な成功を見せつけて他人をまぶしがらせてやろうという野心をもつ輩のせいで、どれほどの不毛な努力と破滅がもたらされてきたか、今さら申し上げるまでもないでしょう。 

(引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 P126)

 

 「どうやってお金を儲けるか?」

 この偉大な秘密を大衆に伝えるために、通俗書が山ほど出版されているとスマイルズは指摘し、そこには何も秘密はないのですといいます。人間古来の経験と知恵をあらわした「ことわざ」で十分といいます。

「勤勉は幸運の母だ」「労苦無くして儲けなし」「働けよ、さすれば持てる者とならん」.....

スキ数はあってもよい、でもスキ数による絶対ランキングは作らない

そういうバランス感覚が大事かと思います。共通価値に対する調整こそが、多様性社会では重要なのでしょう。(引用:note 深津貴之)

 スマイルズの時代とは異なり、現在は容易に「数値」で自己の評価を得やすくなっているのかもしれません。

友、遠方より来たる

「有朋遠方より来たる、亦た楽しからず乎。人知らずして慍らず(いからず)、亦た君子ならず乎」との言葉で論語ははじまります(「学而第一」1)。

「友人が遠方からわざわざ私のために訪ねてきてくれることは、なんと嬉しいことでではないか。他人が自分を認めてくれないからといって不平不満を言うことはありません。なんと徳のある人ではないか」との意味です。

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  俗に言うインフルエンサーをまねてフォロワー数を競っても意味がないということなのでしょう。それでは独創性も個性もありません。多様性が認められる社会になったのだから、「数値」にこだわるよりも、まずは自分を磨き、独創性を育んだ方がよいのかもしれません。自分も多様性ある社会の構成員なのですから。

学んで時に之を習う、また説(よろこ)ばしからず乎(や)。有朋遠方より来たる、また楽しからず乎。人知らずして慍らず(いからず)、また君子ならず乎」。

 名利はあとから時間をかけてついてくるのでしょう。

 こればかりはテクノロジーが進歩しても、昔も今も変わりがなそうです。