「冷酷無情でまったく誠意がなく、行動も奇をてらって不真面目な人が、かえって社会から信用され、成功の栄冠に輝くことがある」と、渋沢栄一は「論語と算盤」でそう指摘します。
「天道は是か非か」
その一方で、「くそ真面目で誠意に篤く、良心的で思いやりに溢れる人が、かえって世間からのけ者にあれ、落ちこぼれる場合も少なくない」といいます。
思い当たる節が多々あるように感じます。昔も今も変わらないということなのでしょうか。
栄一は、「志」と「振舞い」が関係しているといいます。
「志」がいかに真面目で、良心的かつ思いやりに溢れていても、その「振舞い」が鈍くさかったり、わがまま勝手であれば、手の施しようがない。「志」において「人のためになりたい」としか思っていなくても、その「振舞い」が人の害になっていては、善行とは言えないのだ。(中略)
これに対して、「志」が多少曲っていたとしても、その「振舞い」が機敏で忠実、人から信用されるものであれば、その人は成功する。 (引用:「論語と算盤」 渋沢栄一 P75-76)
実社会では、「人の心の善悪よりも、その「振舞い」の善悪に重点がおかれている」と栄一はいいます。
人の心の奥底を知ることは容易ではないが、「振舞い」であれば、観察することで、善悪を見分けることができるのかもしれません。
栄一は、「振舞い」に優れ、善く見えるのであれば「信用」されやすいといいます。
凹む内閣支持率
内閣の支持率が、政権運営が困難な「危険水域」といわれる3割を切り、29.3%となったと時事通信が報じています。
支持率3割割れは「加計学園」問題で安倍政権が揺れていた2017年7月以来4年ぶり。
政府は今月8日、東京都に4回目の緊急事態宣言発令を決定し、酒類提供店に対する「圧力」問題も起きた。日常生活に制約が続く不満や五輪開催への懸念が支持率に影響したとみられる。 (出所:JIJI.COM)
栄一の言葉を借りれば、「振舞い」が鈍くさいということなのでしょうか。
天道は是か非か
「なぜ天道様は、こんな不正義を許すのか、お天道様は正しいのか、間違っているのか」と、その意味を栄一は説明し、「悪賢い人や、表面をうまく取り繕う人は、比較的成功し、信用される場合がある」といいます。
しかし、今回の世論調査の結果からすれば、やっぱり天道様はちゃんと見ていっらしゃるということなのでしょうか。
論語の教え
「天道は是か非か」、これについて、孔子は確定的な答えを出していないといわれます。
論語では、孔子が述べた「天道」という言葉はなく、ただ「天何をか言うや、四時行われ、百物生ず。天何をかいうや。」といったのみとされています。この言葉は弟子の子貢との問答に出てきます。
「紫の朱を奪うを悪(にく)む。鄭声(ていせい)の雅楽を乱るを悪む。利口の邦家を覆すを悪む、と。
子曰わく、予 言うこと無からんと欲す、と。子貢(しこう)曰わく、子 如(も)し言わざれば、則(すなわ)ち小子(しょうし)何をか述べん、と。
子曰わく、天 何をか言わん。四時(しじ)行なわれ、百物生ず。天 何をか言わん」。(「陽貨第十七」16)
現代語にすると、「間色の紫色が流行して、正色の朱色より増えているのをとがめる。官能的な鄭系の音楽が流行して優美な正統系の音楽よりも世に受けているのを非難する。耳に心地よい弁舌が、国家を覆すのを憎む」と。
孔子は言った。「私はもう発言して教えることをやめようと思う」と。子貢はこういった。「先生がもし黙ってしまわれますならば、我々弟子たちは何を伝えてゆけばよろしいのですか」と。
孔子「天は何も指導していない。しかし、四季は自然とめぐるし諸物は生育しておる。天は何も教えていないのだ」(論語 加地伸行)となります。
「利口の邦家を覆すを悪む」(耳に心地よい弁舌が、国家を覆すのを憎む)との言葉が気になります。
栄一のいう「振舞い」のことなのでしょうか。
グリーンウォッシュ
環境によいと見せかけてその実は……という「グリーンウォッシュ」なる言葉があるけれど、グリーンウォッシュ企業があれば、グリーンウォッシュ消費者、グリーンウォッシュインフルエンサーだって生まれてしまう。
社会の目が厳しくなり、ハイレベルな倫理的規範を求められていくなかで、課題やマイナス面をひた隠しにし、よさげな面ばかりPRしてしまうのだ。
そしてたちまち世の中が、ぱっと見のきれいな嘘ばかりで埋め尽くされてしまう。(引用:雑誌『広告』note「おてんとさまが見てるよ」)
グリーンウォッシュを解説するこの文章が、栄一がいう「悪賢い人や、表面をうまく取り繕う人は、比較的成功し、信用される場合がある」ということを巧く言いあらわしているのかもしれません。
「見栄を張って嘘をつくよりも、現在地をちゃんと知るほうがよっぽど本質的だろう。問題を共有し、科学者たちの意見を聞き、正しい方向に進んでいく。そういう愚直な姿を、おてんとさまは見ていてくれるんじゃなかろうか」と、記事執筆した塩谷舞氏は言います。
古の愚や直、今の愚や詐(さ)なるのみ
「昔の愚 律儀者は心から愚直であったが、今のそれは詐、ただ見せかけだけの嘘つきだ」との孔子の言葉を思い出します。
現代は、孔子が生きた戦国春秋時代のような雰囲気に近いのでしょうか。VUCAの時代(混沌とした予測困難な状況)なんていうのだから、そうなのかもしれないとも言えそうです。
「関連文書」
「参考文献」