「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【君子は其の衣冠を正し、其の瞻視を尊び、儼然たれば、人望んで之を畏る】 Vol.504

 

子張(しちょう) 孔子に問うて曰わく、何如(いか)にせば斯(すなわ)ち以て政(まつりごと)に従う可きか、と。子曰わく、五美を尊び、四悪を屏(しりぞ)けば、斯ち以て政に従う可し、と。

子張曰 わく、何をか五美と謂(い)う、と。子曰わく、君子は恵にして費やさず、労しても怨みず、欲して貪(むさぼ)らず、泰(たい)にして驕(おご)らず、威ありて猛(たけ)からず、と。

子張曰わく、何をか恵にして費やさずと謂う、と。子曰わく、民の利する所に因りて、之を利す。斯れ亦(また)恵にして費やさざるにあらずや。労す可きを択(えら)んで之を労せば、又誰をか怨みん。仁を欲して仁を得たり。又焉(いずく)んぞ貪らん。君子は衆寡(しゅうか)と無く、小大と無く、敢えて慢(あなど)る無し。斯れ亦泰にして驕らざるにあらずや。君子は其の衣冠を正し、其の瞻視(せんし)を尊び、儼然(げんぜん)たれば、人望んで之を畏(おそ)る。斯れ亦威ありて猛からざるにあらずや、と。

子張曰わく、何をか四悪と謂う、と。子曰わく、教えずして殺す、之を虐(ぎゃく)と謂う。戒めずして成るを視る、之を暴と謂う。令を慢(ゆるが)せにして期を致す、之を賊と謂う。猶(なお)之れ人に与うるとき、出納の吝(やぶさか)なる、之を有司と謂う、と。(「堯曰第二十」2)

 

 

 

(解説)

子張が孔子に質問した。「どのようなことが、「政」行政指導者に必要でしょうか」。孔子はこう答えた。「五美を尊重し、四悪を除けば、行政は可能だ」と。

子張「五美とはどのようなものでしょうか」。孔子「君子 行政指導者としての教養人は、適切な給与はするがばらまきはしない。必要な動員はするが不満を起こさせない。欲することはあっても、貪欲にならない、ゆったりと構えてはいるが傲慢ではない。威厳はあっても猛々しくはない」と。

子張「恵して費やさずとはどういうことでしょうか」と。孔子「人々が自分からこれは得だと望むものを得させるようにする。これが、適切な給与をし、ばらまきはしないということでないであろうか。同じく人々が必要と思う労働を択んでの動員であれば、人々は誰を恨むであろうか。仁 人の道を求めて、仁 人の道に至る。どうして欲張りということになろうか。君子 教養人は、多少にかかわらず、大小にかかわらず、相手を侮ることはしない。これがゆったりと構えているが傲慢ではないということではないであろうか。君子 教養人は、きちんとした服装で、まっすぐに視る。そこには威厳はあっても、野卑な猛々しさはないので、人々は歓迎し、また畏敬の念を持つ」と。

子張「では四悪とはどんなものでしょうか」と。孔子「道徳教育をしないでおいて、死刑にする。これを虐という。あらかじめ注意を与えないでおいて、よくできたかどうかを検査する。これを暴という。行政上の連絡をきちんとしないでおいて、期日どおりでないとして罰する。これを賊という。当然に民に与えるべきものをあれこれ出し惜しみする。これを有司 役人根性という」と。 論語 加地伸行

 

「五美」、五つの長所。美徳

「四悪」、四つの短所。悪徳

 

 

 

「子張」、姓は顓孫、名は師、字名が子張。陳の人で、孔子晩年の弟子。もっと若く秀才といわれる。「礼」の専門家。人となり才が高く、意が広く、人の感情などに拘らないところがあったという。

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「堂々たるかな張や」

 子張は「礼」、その形式を身につけることはできても、孔子がもっとも重要視したこの「仁」を身につけることができずにいるように描かれる。他者の感情に配慮することをできなかったことによるのだろうか。  

「君子は衆寡と無く、小大と無く、敢えて慢る無し。斯れ亦泰にして驕らざるにあらずや」。

「仁」、人間愛。暖かい、和むが抽象化されたという説もある。加地はこれを人の道と解す。

 

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 優れた政治家「陳文子」を孔子は清潔な人という。同僚が主君を倒したとき、その無道を怒って他国へ亡命したことを個人道徳としては立派であろうが、それでは「仁」にならないという。

 

「仁を欲して仁を得たり。又焉んぞ貪らん」。

 

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 「子張」、孔子に「仁」の個人指導を受けながらも終世それを理解することはなかったのだろうか。

史記」にも、「師や僻なり」とあるように、時として正統を離れる異説を好んだようである。

「君子は其の衣冠を正し、其の瞻視を尊び、儼然たれば、人望んで之を畏る。斯れ亦威ありて猛からざるにあらずや」

  若き子張は、威厳があるように振舞うが、ただ猛々しかっただけなのだろうか。

 優秀ではあっても、そうした性格があってのことか、子張は政治の表舞台には立っていないようである。

 

 

 

「子張」、孔門十哲に含まれていないが、子路、子貢に次いで登場回数が多く、それだけ影響力もあったのだろう。 

 

「関連文書」  
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(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  • 作者:加地 伸行
  • 発売日: 2009/09/10
  • メディア: 文庫
 
論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)

  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫