「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

我は則ち是れに異なり【可もなく不可もなし】 Vol.474

 

逸民(いつみん)は、伯夷(はくい)、叔斉(しゅくせい)、虞仲(ぐちゅう)、夷逸(いいつ)、朱張(しゅちょう)、柳下恵(りゅうかけい)、少連(しょうれん)あり。

子曰わく、其の志を降(くだ)さず、其の身を辱(はずかし)めざるは、伯夷・叔斉か、と。柳下恵、少連を謂(い)う。志を降し身を辱しむ、言は倫(りん)に中(あ)たり、行ないは慮(りょ)に中たる。其れ斯れのみ、と。虞仲、夷逸を謂う。隠居放言し、身 清に中り、廃 権に中る。我は則(すなわ)ち是れに異なり。可も無く不可も無し、と。(「微子第十八」8)

 

(解説)

「人格が高潔だが世から忘れられた人として、伯夷、叔斉、虞仲、夷逸、朱張、柳下恵、少連の七人がいる

孔子は「志、自分の生き方を捨てずに、主取りのためならどんなことでもすると這い蹲(つくば)ったりしないのは、伯夷、叔斉であろう」と批評し、柳下恵、少連をこう評した。「志、己の生き方を曲げ、主取りならと這い蹲った。しかし、その発言は道理にかなっており、その行為も思慮に当たっている。そこのところがいい」と。さらに虞仲、夷逸をこう評した。「世を避け暮らし、言いたい放題だった。しかし、身辺は清潔であり、世を棄ててからの生き方は、均衡がとれている。私の場合は、彼らと異なる。可もなく不可もない」と論語 加地伸行)  

 

 

  

 この章に登場する七人は、七賢人とも言われる。「賢者は世を辟(さ)け、其の次は地を避け、其の次は色を避け、其の次は言を避く」(「憲問第十四」37)

 

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伯夷、叔斉」、殷王を倒し、逆賊となった武王が建国した周国の作物を食べることを拒否して、首陽山に逃れる。

「旧悪を念(おも)わず。怨み是(ここ)を用(もっ)て希(まれ)なり」(「公冶長第五」23)

餓死してまで、武王を諫めることができなかったことを恥じた。 

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 「柳下恵」、姓が展、名が禽。字名は季。柳下に住み、恵と諡(おくりな)されたことで柳下恵といわれる。魯の大夫で裁判官。直道を守って君に仕えた賢者といわれる。

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「夷逸」、名が分からなかったので「逸」と記されたか、または斉の大夫の夷仲年ではないかと加地は解説する。

「朱張」、呉の人で字名が子弓、荀子孔子と並べたほどの人物と評したという。

「少連」、礼記に喪礼をいつも守った人物として記されているという。

 

 

 

 「虞仲(仲雍)」、呉の祖「泰伯」の弟。 周王朝が建てられる前、周国の君主に三人の子がいた。父は末弟の季歴を後継にしようと思っていたので、長子の泰伯は父のその意向を尊重して、次弟の虞仲(仲雍)とともに南方に行き身を隠した。泰伯が死んだとき子がなかったため、弟の虞仲(仲雍)が跡を呉を継いだ。 

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 虞仲、夷逸を謂う。隠居放言し、身 清に中り、廃 権に中る。

「廃」は世を捨てる。「権」はおもりで、「衡(さお)」と合わせて権衡、はかりを意味し、その均衡をいう。


 こうした自分の意志を貫いて世を捨てた人物たちと比較し、「我は則(すなわ)ち是れに異なり。可も無く不可も無し」と孔子はいう。

「ある生き方がよいともしないし、ある生き方がだめだともしない」。

 極端には走らず、調和のとれた状態、中庸が孔子の生き方でもある。

 

可もなく不可もなし」、これが転じて、「よくも悪くもない」、という意味で使われるようになったという。

 

  

 「逸民」には世捨て人、隠棲者、隠者との意味もあるのだろうか。民間に隠れて高潔に生きる人々であろうか。

 「堯曰第二十」1で、「滅国を興し、絶世を継ぎ、逸民を挙ぐれば、天下の民、心を帰す」という。

 民の声を示す暗黙の批判者としての「逸民」を尊重することが,為政者の務めということなのであろう。 

 

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 現世の日本に「逸民」はいるのだろうか。 ただの批判者とは異なりそうだ。

 

「関連文書」

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(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  • 作者:加地 伸行
  • 発売日: 2009/09/10
  • メディア: 文庫
 
論語 (ちくま文庫)

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  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫