日本製鉄が進めてきた構造改革が実を結び始めているのでしょうか。
構造改革についてきてくれた社員に報い、2022年の賃金改善額は1998年以来の高水準となり、賞与もまた14年ぶりの高さになったといいます。
日本製鉄の改革 「利益なき顧客至上主義」への戒め: 日本経済新聞
余剰生産能力を整理し、DX推進による要員の合理化を進めてきた結果なのでしょうか。世界的な鉄鋼不況の中、粗鋼生産量が前の期比12%落ちても連結事業利益は8700億円と7%減にとどまっているといいます。
社員の給与の総額をどれだけ増やせたかが、私にとっての経営のKPI(重要業績評価指標)ですよ。橋本英二社長はストレートにこう語る。(出所:日本経済新聞)
結果が伴えば、何を言ってもその言葉には説得力が増すのでしょう。
電磁鋼板の特許侵害でトヨタ自動車を提訴したり、鋼板価格を大幅に値上げするなど、強引に見えたその手法も、社員の努力が犠牲になっていたからだといいます。
また、橋本日鉄社長は対話力に長け、市場との対話が増やしたことで、日鉄が置かれている状況が分かりやすくなったといいます。それが改革の背中を押すことにもつながったのでしょうか。
記事によれば、「安定的な鋼材供給を続けるためには、適正なマージン(利益)の確保が必要であり、従来と異なる値決め方式を導入した」といった説明などを行い、脱炭素対応についても「環境コストを社会的負担として受け入れてもらわないといけない」といったメッセージも発信したといいます。改革への意欲を示し、また理解を求めたということでしょうか。
論語に学ぶ
仁 遠からんや。我 仁を欲すれば、斯(すなわ)ち仁に至る。(「述而第七」29)
人間愛ともいわれる「仁」は最高の徳だが、だからといって決して高遠無比、手の届かないところにあるものではないという。自分が本気でそれを欲求しさえすれば、「仁」はたちまちここに現前すると意味します。
「仁」は至難でもなければ安易でもない。それを現前せしめるのは人の意志の問題と孔子は主張しているそうです。
「天は自ら助くる者を助く」といいます。自らを助ける改革を、自らの身を切り実行しない限り、その実りを享受することはできないのでしょう。
「天」は、それが正しく実行されることを見守り、それが道から外れるときには厳しい結果を与えようとするのかもしれません。
多少強引に映った日本製鉄の身を切る改革も、社会の理解を得られたことで、企業の業績は改善し、また従業員の努力に賃上げという形で報いることができるようになったのでしょう。
企業も自助論に従って、常に自らをより良くすることにつとめていなければ、いつ何時に苦境に陥ってしまうかわからないということでもあるのでしょう。
「天は自ら助くる者を助く」、政府も自ら身を切る改革を断行し、国を健全化させ、それによってもたらされる便益を国民に還元する義務があるのでしょう。
しかし、現実には国力は低下する一方です。国民負担は増しているにもかかわらず、さらに負担を重くする機会を窺っているようです。多くの人が不安を感じて当たり前のなのでしょう。
今も昔も、政府が国を助けることせずにきた結果なのでしょう。政府はいつになったら、その間違いに気づくのでしょうか。
まずは政府自らが改革をしなければならないはずなのに、国民ばかりに自助を強いることはあってはならないのでしょう。
「参考文書」