「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【台湾有事】世界最大手半導体製造のTSMCのしたたかな戦略

 

 世界最大手の半導体受託製造のTSMC 台湾積体電路製造、この会社は今、地政学リスクの真っ只中にありますが、冷静さを失うことなくこの難しい危機に対応しているといいます。 

TSMCの周到な長期戦略 米国に新工場のワケ(The Economist): 日本経済新聞

 米中対立が深刻化し、特に半導体を巡る対立は冷戦期の「鉄のカーテン」ならぬ「シリコンカーテン」とも呼ばれているそうです。また、対立はこの数カ月間日増しに激しさを増しているともいいます。

 TSMCは最先端の半導体技術を開発し、生産される半導体はアイフォンなどの最先端機器に使用され、また軍事においても必要不可欠なものといいます。まさに火中の会社です。

工場の多くは台湾西岸にあるため、中国が台湾海峡を経て侵略してくる危険に常にさらされている。だが同社がうろたえることはない。(出所:日本経済新聞

 そのかたわら、中国でも大々的に生産を続けています。一方で、米国や日本にも新工場を建設しています。さらに台湾内でも新工場を建設しているともいいます。

 この危機にあっても、周到に、そして、したたかに対処していこうとの現われなのでしょうか。

 

 

決定的な対立を避けるために

TSMCは長期的に考えると地政学上、柔軟な対応をとることがビジネスに有利に働くと考えているようだ。つまり、ビジネスの利益を最優先するために極めて高度な外交も展開しているのだ(出所:日本経済新聞

 リスクに対応するように日米に新工場を建設しつつ、研究開発の大部分と生産能力の約8割は台湾にとどめたままといいます。

 記事は、TSMCが「米中が冷静さを維持し、対立を決定的に深めることはないとみている」といいます。

「それが正しいと判明するかもしれない。しかし、仮に間違っていたとしても、同社は少なくとも長期的な視点からあらゆるリスクに備え始めている」といいます。

 TSMCは政治に翻弄されているのでしょう。一方で、各国政府とのパイプから読み取れる空気感もあったりするのでしょうか。

 白黒を今はっきりとさせるのではなく、半導体で決定的な対立につながらないよう行動していくという覚悟を決めたということなのかもしれません。

 それがビジネスにとっても好都合であるし、また国 台湾を守ることにもなるのでしょう。

 

 

論語に学ぶ

 孔子が、弟子の子路、曾皙(そうせき)、冉有(ぜんゆう)、公西華(こうせいか)に、「もしお前を買おうという人が出てきたとき、何をしようとするのか」と問いかけます。子路は、「もし大国が、他の諸大国との間で切迫した状態にあったとしましょう。それだけではなくて、戦争があり、そこから来た飢饉があるとしましょう。そこの行政を私めが担当して三年に近づくころには、人々を勇気があり節度にかなった生活をするようにさせることができます」と述べたといいます。すると孔子は微笑したそうです。

 子路以外の弟子にも問いかけ、冉求は「小国でありますならば、行政を担当して三年になりますころになれば、人々に安定した生活をさせることができましょう。礼楽を教えるなど教化の方面につきましては、然るべき教養人を求め、その人に任せたいと思います」と答え、公西華は「何ができるというわけではありません。もっと学びたいと思っております。そして、諸侯におきましての祖先の祭祀や会合などのときに、正装を身に着け、君侯のその儀式を担当する官となりたいと思います」と答えます。曾点は政治ではなく、平穏な暮らしを語ります。すると、孔子は大きく溜息をついて「私はお前の気持ちと同じだ」と言ったといいます。

dsupplying.hatenadiary.jp

亦各々其の志を言うのみ、と。曰わく、夫子、何ぞ由を哂(わら)うや、と。曰わく、国を為(おさ)むるには礼を以てす。其の言譲(じょう)ならず。是(こ)の故に之を哂う、と。唯(ただ)求は則ち邦に非ざるか、と。安(いずく)んぞ方六七十、如しくは五六十にして、邦に非ざる者を見ん、と。唯赤は則ち邦に非ざるか、と。宗廟会同、諸侯に非ずして何ぞ。赤や之が小たらば、孰(たれ)か能く之が大たらん、と。(「先進第十一」24)

 「各々が自分の気持ちを述べたまでだ」といい、「国を運営するとなれば、をもってしなければならない。だが、子路のことばには謙譲さがない。それで笑ったのだ」といいます。一方、冉求は小国ならといい、公西華は儀式担当官という。しかし、力量のある公西華がそれで終わるならば、誰が執政となることができようか」といったといいます。

 

 

謙譲さ

 この危機下におけるTSMCの対応の周到さ、したかさを支えているのは、もしかして謙譲さなのかもしれません。

「謙譲」とは、自らへりくだって譲ることであり、ひかえめな態度を取ることと意味します。また、自らを低めることによって相手に敬意を表することの意味もあります。

 こうした「徳」を全うすることが、自らと国の利益につながるということを知っているのかもしれません。

 自らの事業が対立の渦中にあり、選択を間違えれば、それが決定的なことになりかねません。自身の役回りも理解しているのでしょう。

徳とは

 「徳」は人間の道徳卓越性があり、西洋哲学における「美徳」に相当すると、哲学者のマイケル・ジョゼフ・サンデル教授はいいます。

 また、「徳」の獲得によって、はじめて人間は優れた人物となるといいます。また「徳」が統治原理の根幹を形成するのが孔子の教えとも評します。

危機感

 孔子の言葉に登場する子路と岸田首相がだぶってしまいます。謙譲さの欠如が共通しているところなのかもしれません。

 子路は後々、衛の国で政治を行うようになりますが、内乱に巻き込まれ戦死することになります。優れた政治の才はあるとされますが、勇気に過ぎるところがあり、それを制御すべきと孔子は何度も諭します。しかし、子路はそれを正すことができなかったようです。子路が「徳」の有用性をもっと早く理解できていれば、悲劇的な結末はなかったのかもしれません。

 歴史に「if」はありませんが、こうしたことから、現代を生きる私たちは「学び」を得なければならないのでしょう。

 岸田政権の日本が危ういのではないかと感じる所以でもあるのです。

 

「参考文書」