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奢りたかぶる人たち、「財政再建派は絶滅危惧種」と愚弄 ~ 炉辺閑話 #86

 自民党内で財政政策を巡る主導権争いが起きていると、毎日新聞が報じています。 積極財政の旗を振る高市政調会長に対し、首相は財政再建重視を主張し、それぞれが直轄機関を置く異例の事態となっているといいます。

岸田首相VS高市氏 財政方針巡り火花 政策主導権争いが表面化 | 毎日新聞

 リーダーに仕えるのなら、そのリーダーの構想を実現することが仕える者の役割です。ただリーダーが道理を外れているなら、苦言し、諫め、諫言しなければなりません。それもまた道理であり、役割といいます。そして、どうして聞き入れないなら、そのリーダーから離れるべきといいます。

 高市氏は本部長に「過度のインフレにならない限り財政赤字は気にしなくてよい」とする「現代貨幣理論」(MMT)を支持する西田昌司参院議員を抜てき。

アベノミクス」として、機動的な財政出動を推進した安倍晋三元首相を最高顧問に招き、「積極財政を進める」とのメッセージを打ち出した。(出所:毎日新聞

 重要な役職にあり、一国の宰相とは異なる構想を打ち出し、そこに異なるリーダーを据えることは道理に適っているのでしょうか。もしかしたら、こういうことも反乱なのかもしれません。

 毎日新聞によれば、積極財政派は勢いづき、党内からは「財政再建派は絶滅危惧種だ」(中堅)との声すら出ているといいます。また、党内最大派閥・安倍派の後ろ盾を得て、22年度予算編成の基本方針では、高市氏側が財政健全化に関する文言を弱め、同氏に近い議員は「官邸より党の力が高まった事例だ」と自賛したといいます。首相側近は「高市氏を重要案件に関わらせたくない」と述べたそうです。

 奢りたかぶるものにはしっぺ返しはつきものです。党内改革が避けられないのでしょうか。

 

 

ついつい役職につこうと奔走するけれど

「子禽、子貢に問うて曰わく、夫子は是の邦に至るや、必ずや其の政を聞く、之れを求めたる与(か)。抑そも之れを与えたる与。子貢曰わく、夫子は温・良・恭・倹・譲、以て之れを得たり。夫子の之れを求むるや、其れ諸(こ)れ人の之れを求むるに異なる与」と、論語「学而第一」10にあります。

 孔子が訪れる国で、その国の君主と「政」について話し合っていましたが、それは「孔子みずから望んで行ったものなのか、それとも、求めに応じたものなのか」と、弟子の子禽が聞くと、同じく弟子の子貢は、「先生は、温(温和)、良(善良、良心)、恭(うやうやしさ)、倹(倹約)、譲(謙譲)の五徳を兼ね備えていたので、政治にあずかる地位をおのずと得られた」と答えます。そして、「先生がそれをお求めになったとしても、それはどうもほかの人の仕方とは違っていたようだ」と云った、と意味します。

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 自分の理想を現実政治にあらわして、天下人民を安んじることに熱意を示していた孔子は、つねに仕官を求めていたそうですが、子禽はその外面性をとらえて、孔子猟官運動のテクニックを、子貢に尋ねます。すると子貢は、孔子の五徳、その人格が信頼されておのずともたらしたのだと答えます。

 そこらの野心家たちの物欲しげな態度とは異なるということなのでしょう。積極財政派の面々には、孔子が兼ね備えていたとされる五徳をもっている人がどれだけいるのでしょうか。この五徳と真逆な人たちが多数派を占めていないでしょうか。

 数を頼りに正論を愚弄するのは道理にかなっているのでしょうか。 

 

 

論語の教え

「蓋(けだ)し知らずして之を作る者有らん。我は是(こ)れ無きなり。多く聞きて其の善き者を択(えら)びて之に従う。多く見て之を識(しる)すは、知るの次なり」と、「述而第七」27にあります。

「本当に理解することなくして、新説を作り出す者がいる。しかし、私はそういうことはしない。まず可能な限り学んで、その内のこれぞというものを選び取り、それに従う。可能な限り多くの資料に当たり、それらを記憶するというのは、理解することの前段階」との意味です。

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 学問が進め進むほど、様々な学説が登場するものなのでしょう。しかし、孔子は安易に新説には従わず、作らず、まずはこれまでの学説を可能限り学び、そこから最善を選ぶといいます。 都合のよい新説を採用して、それを言い訳材料にしてはならないのでしょうし、まして拘ってはならないのでしょう。

 新しいリーダーをのっけから、古い論理で攻撃、虎視眈々、機会をうかがうのはどうなのでしょうか。これが為政なのでしょうか。理にかなっているのだろうか。