「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

渋沢栄一が教える「政は正なり」、どうなのか文書交通費、自社株買い規制など ~ 炉辺閑話 #74

 

 嚙み合わない議論よりは、論点が定まり活発に議論がなされている方がいい。国会論戦が少しはまともになってきたのだろうか。

 一方、「議論だけを聞いてその人を信じてしまうと、往々にしてその人物の鑑定を誤る事がある」と渋沢栄一はいう。

「論(ろん)篤(とく)なるのみに是れ与(くみ)せば、君子者(くんししゃ)か、色荘者(しきそうしゃ)か」と、論語「先進第十一」19 にある。

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「色荘者」とは、体裁のよい所謂巧言令色の人のことで、言葉のみではその人物が分らない、真にその人間を知るにはその行いを見なければ分らないということだ、この章の意味を渋沢栄一は解説する。

 

 

 話は立派ではあるけれど、その実、やっていることはといえば、我が身のためのようなことがこれまで多くあったように感じる。

アベノマスク

 国会で首相が使われずに約8千万枚が在庫となっている「アベノマスク」に言及し、「反省すべき点があった」と述べ、在庫の解消策については「予断を持って申し上げるのは控えたい」といったという。

アベノマスク含む大量在庫、見えぬ解消策 岸田首相「反省点あった」:朝日新聞デジタル

逢坂氏が布マスクの配布計画の妥当性を検証すべきだと主張したのに対し、首相は「そうした考え方はしっかり受け止め、具体的にどこでどう検証するかを一度考えてみたい」と一定の理解を示した。(出所:朝日新聞

 首相には「色荘者」とならず、必ず行い、在庫処理とその経緯を明らかにしてもらいたい。

文書交通費

「話の趣旨はすこぶる結構なことなで、ぜひその目的を達成させたいと陰ながら思っていても、その事を一向に実行しないというような人が多い」と、栄一が嘆く。今も同じような人物が多々いるのではなかろうか。

甚だしきに至っては、これを口実にして、その実は自分の糊口の資に供している人もある。これは多くの人がそうであるという訳ではないけれども、世間にはかかる例が決して少なくない。議論ばかりでウカと人を信ずる事の出来ない所以である。(参考:「実験論語処世談」 渋沢栄一記念財団

「文書通信交通滞在費」について、首相が「国民が納得いかないと疑問に思うのは当然ではないか」と述べたという。

 まさかこの費用が議員の糊口(=生計)になっていることもあるまい。使途を含め今すぐ公開するよう法改正すべきではなかろうか。できない理由などないはずである。面倒であれば、それこそデジタル化で効率化すべきだけのことである。

 原資は税金のはずだ。首相のリーダーシップが求められているのだろう。

 

 

自社株買い規制

首相が衆院予算委員会で、企業の自社株買いに関連したガイドラインを作る可能性に言及したという。企業が投資家から資金を調達すべき株式市場が投資家に資金を供給する場所になっているとして質問に立った立民の質問に答えたという。

岸田首相が自社株買い規制に言及、「ガイドライン」検討-株価下落 - Bloomberg

自社株買いの制限は、新しい資本主義を実現する観点から「大変重要なポイントでもある」とも述べた。ただ画一的に規制することは「少し慎重に考えなければいけない」としている。(出所:ブルームバーグ

 ブルームバーグによれば、伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは「金融所得課税について言及した時と同じで、株式市場への影響を考えていないとみられる発言だ」と指摘しているという。「前向きに検討すると捉えられるような発言をするのは軽率だ」と批判したそうだ。

日本経済新聞によれば、「自社株買い」は企業の株主還元策として活用されている一方、稼いだ利益がさらなる投資や従業員の給与に回りにくくなるとの指摘があるという。

「自社株買いの原資が利益ならいいが、近年は赤字決算による株価への悪影響を相殺させるために自社株買いを行うケースや借金によって自社株買いを行うケース」が見られると、ピクテ投信投資顧問の松元浩常務は指摘したという。

 言語道断というべきではなかろうか。借金はコストであり、その金利負担もばかにならない。こうしたことが賃上げに悪影響をおよぼすのだろうか。

 岸田首相がこうした事例を規制するために「何らかのガイドラインを考えている可能性もある」と指摘した。(出所:ブルームバーグ

 伊藤忠総研のエコノミストの発言が奇妙に聞こえる。株価が下がるより上がることはいいことなのかもしれないが、今はもう株価がすべてではないはずだ。

 

 

論語の教え

「季康子(きこうし) 政を孔子に問う。孔子対(こた)えて曰わく、政とは正(せい)なり。子帥(ひき)いるに正を以てすれば、孰(たれ)か敢(あ)えて正しからざらん」と、「顔淵第十二」17 にある。

「政は正しきことである。国中の民が正しきことを行って、曲った行いのないようにすることである。しかして、これを正しくするにはどうするかといえば、まず上位にある者から、身を以て率いると云うことにしなければならない。自己が正しきことを行えば、下はこれに倣うものである」と、栄一はその意味を解説する。

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例えば、私が正しきことを行えば私の家も正しくなる。又政府にしても政党にしてもそうである。自己が勝手気儘なことをしていながら、他に善事を行えと云っても、それは出来るものでない。先方の悪いことを責めて、善事を求めるのは小人のやることである。(参考:「実験論語処世談」渋沢栄一記念財団


 首相自ら「正」を示すことに期待したいが、さてさて現実はどうなるのだろうか。