渋沢栄一、日本資本主義の父と言われ、日本発展の礎となる500社余りの会社の設立にかかわったという。しかし、栄一自身は、資本主義という言葉を用いず、合本法、合本組織をいう言葉を使い、それに従って事業を進めるのが最適と考えていたといわれる。
栄一が推奨したといわれる「合本主義」は、元来、公益を追求するはずの株式会社よりも、より強い規範を伴ったものとされ、これは、道徳と経済の一致させるという考え方の上に成り立っている。栄一はこれを論語算盤説と称した。
その『論語と算盤』を社是に取り入れる企業がある。ゼネコン大手の清水建設。
明治期に相談役に迎えた渋沢栄一翁から学んだ「論語と算盤」の教えです。
「道理にかなった企業活動によって社会に貢献することで、結果として適正な利潤をいただき発展する」。
この「論語と算盤」の理念は、お題目として唱えるものではなく、私たちが考え、行動するうえでのいわば作法であり、いつの時代にも絶対に変えてはいけない考え方です。(出所:清水建設)
しかし、その清水建設も過去においては、リニア中央新幹線の建設工事では談合事件を起こし、独占禁止法違反で課徴金納付を命じられたことがある。高い理想を掲げても、実践することは難しい。
気候変動対策先進地欧州の偽善
EU 欧州連合のフォンデアライエン欧州委員長が、プライベートジェットを多用し、「偽善だ」と非難を浴びているという。
気候変動対策で世界の主導役を自負しているにもかかわらず、二酸化炭素排出量が問題視されるプライベートジェットの使用を衝かれ、矛盾を印象付けた格好とJIJI.COMは指摘する。
EUトップらに「偽善」批判 プライベートジェット利用で―COP26:時事ドットコム
JIJI.COMによれば、フォンデアライエン委員長はCOP26での演説で、「温暖化抑制へ何でもするよう全ての人に求める」と力説していたという。こうした行動は、発言の説得力に疑問符を付け、「市民を侮辱している」と、反発も招いているという。
欧州委員会の報道官は4日の会見で、PJ利用は「日程などの制約で他の手段が使えない時だけだ」と釈明。しかし、ドイツ紙ビルトによると、「変化を望むなら模範を示すべきだ」などと、フォンデアライエン氏の母国でも非難が広がる。(出所:JIJI.COM)
論語の教え
孔子の弟子に子貢という秀才がいた。ややもすれば、口先ばかりで行動をおろそかにところがあったという。その子貢が孔子に「君子とは」と質問する。すると孔子は、
「先ず其の言を行い、而して後にこれに従う」と答えたと、「為政第二」13 にある。
この章が「知行合一」のもとになったと言われている。
「知行合一」、知識と行為は一体であるということ。本当の知は実践を伴わなければならない。
王陽明によれば、「知っている以上は必ず行いに現れる」そうで、真の知行とは「好き色を好むが如く、悪臭を悪むが如し」と王陽明は説いたという。
フォンデアライエン委員長も気候変動の問題を政治で解決することを求めるばかりに、己を省みる余裕を失ったのかもしれない。委員長にも知行合一が求められているのだろう。
合本主義と「論語と算盤」
兎角、優秀と世間にもてはやされる人は、傑出した点があるに相違なのだろうけれども、ある一面に非常に長所があっても、他の半面には大なる欠点を有しているが常であると栄一は指摘する。
その反面、孔子は非凡な人ではなく、平凡な人であったという。これは、「井上哲次郎博士の孔子観」をもとにしたもので、博士は、孔子を「仁義をわきまえ、礼義を知り、健康を保持し、その他人間としての備えるべき総ての条件をことごとくい具備していた」と話され、「従って後世の人の以て模範とすべきもの」と言われていたそうだ。
COP26では気候変動対策が話し合われ、一方で、この問題解決と経済の両立が求められている。「論語と算盤」、道徳と経済を合一させることなくして、この問題の解決はなさそうである。資本主義を栄一がいうように、より規範性が高い合本主義への昇華させる必要があるのかもしれない。今、重大な岐路にあるのだろう。