パラリンピックで使用される様々な形状の車いす。その性能次第で勝敗を左右するのかと、観戦しながらそう思っていた。その陸上競技用の車いすをホンダが作っているという。自動車レースF1に参戦している会社だからなのだろうか。少し興味を抱いた。
パラリンピックでは、この車いすを使ったスイスのマニュエラ・シャー選手が金メダル2個、銀メダル3個を獲得したという。
ブルームバーグによると、シャー選手が雨のレースの後に、グリップが滑るという課題に「ホンダが良い素材を見つける手助けをしてくれた」と謝意を述べたという。
ホンダによれば、そのハンドリムは、カスタマイズ対応で、ダイヤモンドコーティングを施すことができるという。また、粒度も2種類から選択できるといい、シャー選手もこうしたカスタマイズを利用したのだろうか。
ホンダと車いすとの関わりが始まったのは、本田宗一郎が障がい者の支援施設「太陽の家」を訪問した1978年のことだったという。
このとき、宗一郎は、「どうしてだ?涙のやつが出てきてしょうがないよ」、「よし、やろう。Hondaもこういう仕事をしなきゃだめなんだ」と語ったという。
その後、宗一郎はホンダ太陽を設立し、その会社内には、自己啓発グループ「車いすレーサー研究会」が発足したという。自分たちが乗る陸上競技用車いすをつくることを目指すことになったそうだ。
その後、この活動がホンダ社内に伝わり、深い感銘を受けた本田技術研究所の技術者が協力し、「世界一軽い陸上競技用車いすを製作する」という活動につながっていったそうだ。
仁者は仁に安んじ、知者は仁を利す
「不仁者は以て久しく約に処(お)らしむ可(べ)からず。以て長く楽に処らしむ可からず。仁者は仁に安んじ、知者は仁を利す」と、論語「里仁第四」2 にある。
仁者はその境遇によって左右されないということを意味するといわれ、仁者、知者を対比する。
「心なき者には貧しい生活を長くさせてはならない。逆にまた豊かな生活を長くさせてはならない。仁者、心ある者は自分の境地に満足して生き、知ある者は己の境地の価値を社会に活かす」。(出所:論語 加地伸行)
「仁者は仁に安んじ、知者は仁を利す」
宗一郎の「仁」が、ホンダの知性によって、競技用車いすとして結実した、そう読んではいけないのだろうか。
10年近く開発に携わる本田技術研究所の高堂純治エキスパートエンジニアは「翔」(競技用車いす)について、「特定のアスリートだけでなく、みんなが乗ってみたくなるような見た目のかっこよさも一つのコンセプトに開発した」と話す。(出所:ブルームバーグ)
SDGsは「誰一人取り残さない」ことを理想に掲げ、誰もが分け隔てなく当たり前に参加できる「インクルーシブな社会」を目指す。
「技術は人のためにある。技術を使って障害者の方が生き生きできる世界ができれば一番いい」
と、前出 高堂エキスパートが語っているという。
「仁者は仁に安んじ、知者は仁を利す」
「利」、金儲けを意味する利益ではなく、目に見える形で、社会に役立てると解釈すべきなのだろう。