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【所信表明演説から】なぜ「新しい資本主義」なのか、それでも変わらない施策はなぜ ~ 論語の教え #17

 

遠きに行くには必ず邇(ちか)きよりす」と、礼記「中庸」にある。

「順序を追って手近な事からやっていくべきである」、物事は一足とびにはできないことのたとえといわれる。

 この言葉を引用して岸田首相が所信表明した。

 コロナ対策を第一優先とすることはいいことなのかもしれない。そして、その後にはいつものように「経済あっての財政であり、順番を間違えてはなりません。経済をしっかり立て直します。そして、財政健全化に向けて取り組みます」と続く。

 異論があるところなのかもしれない。

 どちらが最終目的なのだろうか。景気がよく、安定し、人々が幸福に暮らせることが目指すべきところのような気がする。そうであれば、健全な財政運営をいち早くとり戻し、その上で、持続的な経済発展を目指す、としたほうが筋がありそうな気がする。財政健全化という難題を先送りにしたいだけと聞こえてしまうのは私だけだろうか。

 

 

新しい資本主義

 新しい資本主義、分配戦略と聞くと、いかにも「仁政(=恵み深く、思いやりのある政治)」のようにも感じるが、どうもしっくりこない。

「士は以て弘毅(こうき)ならざる可(べ)からず。任 重くして道 遠ければなり。 以て己が任と為す。亦(また)重からずや。死して後已(や)む。亦遠からずや」と、論語「泰伯第八」7 にある。

 家康の遺訓のもとになった曾子のことばだ。

徳川遺訓

「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。
不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。
堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。おのれを責めて人をせむるな。及ばざるは過ぎたるよりまされり」

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 首相は所信表明で、「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る」、米第35代大統領、ジョン・F・ケネディの言葉を引用し、「一日も早く、日本経済を回復軌道に持っていかなければなりません」とスピード感を重視する。

 一方、家康は「急ぐべからず」という。

 新しい資本主義なるものが必要になる理由を、首相は「1980年代以降、世界の主流となった、市場や競争に任せれば、全てがうまくいく、という新自由主義的な考えは、世界経済の成長の原動力となった反面、多くの弊害も生みました」といい、「市場に依存し過ぎたことで、格差や貧困が拡大し、また、自然に負荷をかけ過ぎたことで、気候変動問題が深刻化しました」という。

 今までの資本主義の弊害が顕在化したということであろうか。

 そうであるなら、どうも「一日も早く、日本経済を回復軌道…」というのが胡散臭い。まずは何かを正せねば、持続性はありえないのではなかろうか。

 

 

規律なきデジタルプラットフォーマーたち

 公取委が、またしても楽天に対し、優越的な地位を利用した独占禁止法違反の可能性があるという判断を示したという。

 問題となったのは「送料無料の制度」、この制度に参加しない店に、サイトの上位に表示しないと説明するなどにしていたという。

楽天 送料無料制度“独禁法違反の可能性”で改善措置申し出 | IT・ネット | NHKニュース

 NHKによれば、楽天はこうした行為を取りやめ、制度の参加には店の意思を尊重するという改善措置を申し出たそうだ。公取委は改善事項の履行状況を見極めて、年内には調査を終了させる見込みという。

 ただ、公取委は「インターネット上で取り引きの場を提供している巨大IT企業などの「デジタルプラットフォーマー」への調査について「時代環境を踏まえて問題が見られれば積極的に調査する」と述べたという。

 こうした企業において、コンプライアンス精神とか企業倫理の問題が巣くっているのかもしれない。

論語の教え

「林放礼の本を問う。子曰わく、大いなるかな問いや。礼は其の奢らんよりは、寧ろ倹せよ。喪(そう)は其の易(おさ)まらんよりは、寧ろ戚(いた)めよ」と、「八佾第三」4 にある。

 質素倹約を旨とするのは結構しんどいものかもしれない。気を緩めてしまえば、ついつい楽な方へと流れてしまい、規範の乱れにつながってしまうのだろう。だから、孔子は「礼は奢らんよりはむしろ倹せんよ」というのかもしれない。

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 これまでも繰り返しデジタルの必要性が説かれ、大量の資金が費やされてきた。しかし、人手不足問題は解消せずに、逆に、格差社会が進行してしまったのかもしれない。

 そして、また首相が「世界最先端のデジタル基盤の上で、自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、スマート農業などのサービスを実装していきます」という。もういささか聞き飽きたような気分になる。

 不必要とは言わないが、今でもそれなのであろうか。

 

 

 現実に物流、農業、林業、介護や保育など様々な産業で人手不足が顕在化し、その救いが求められている。こうした産業は現に私の暮らしを支えている。

 まずはこれら産業に、みなが誇りと強い使命感をもって働けるようにすべきではないのだろうか。デジタルは所詮それを支援するツールにしか過ぎない(逆に言えば、それだけ必要であるともいえることなのだが)。

「礼は其の奢らんよりは、寧ろ倹せよ」

 政府もこれまでデジタルを牽引し、社会インフラの一部になったプラットフォーマーたちも、この言葉を嚙み締めるべきときなのかもしれない。

「礼の礼たる要は、社会全般にわたって秩序を維持するという処にある」と、渋沢栄一はいう。

故に、礼の一字に含まるる範囲は広く、大は一国の政治刑律より、小は人の一挙手一投足にまでわたり、外は威儀典礼の末より、内は心の持ち方にまでも及んでいるのである。(参考:「実験論語処世談」 渋沢栄一記念財団

 栄一は、論語 顔淵篇にある「己れに克て礼に復るを仁と為す。一日己れに克ちて礼に復れば、天下仁に帰す」を引用して、「礼を修めてならんとすれば、まず己れに克って私慾私心を棄ててしまわねばならないことになる。また、己に克って礼を修むれば天下はに帰して秩序が整然となる」という。

「これ政道の極意では無いか」という。

 首相が所信表明で引用した言葉は、孔子の孫の子思の作とされる礼記「中庸」にある。また、首相の座右の銘の「春風接人」は、江戸時代の儒学者佐藤一斎の言葉だという。

「以春風接人 以秋霜自粛」(春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛む)

 もう少し孔子の教えを参考にしてもいいのではなかろうか。

 

「関連文書」

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