「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【仁 以て己が任と為す。亦重からずや。死して後已む。亦遠からずや。】 Vol.194

 

 曾子曰わく、士は以て弘毅(こうき)ならざる可(べ)からず。任 重くして道 遠ければなり。仁 以て己が任と為す。亦(また)重からずや。死して後已(や)む。亦遠からずや。(「泰伯第八」7)

  

(解説)

曾子の教え。志のある者は、度量があり、また強い人間でなくてはならない。その負担が重く、達成まで遠いからである。人の道を己の任務とする。なんと重いことだ。それも死ぬまで続く。なんと遠いことだろう。」論語 加地伸行

  

 桑原の解説。

 「弘毅」とは、大らかで強い意志を持つこと。「士」とは、本来貴族階級の成年男子を指す。ただ孔子の時代には卿、大夫、士、庶民の四つの身分があり、士とはなんらかの特殊任務をもった役人のことである。孔子学団はそれの教育機関であったという。

 孔子はあまり士について論じていないが、時代の下った曾子が新興階級としての士を特に取り上げた、というのが貝塚氏の説であるという。

 「死して後已む」というのは、生命を投げ出して死ぬことによってのみ、任務が完成しうるという意味ではない。「身を鴻毛(こうもう)の軽きに比す」という言葉の大好きな日本人は、生命さえ捨てれば万事解決、と思いがちだが、「死して悔いなき者は、吾れ与(とも)にせざるなり」(「述而第七」10)というのが孔門の本領である。人間は死の瞬間まで務めねばならぬ、生きているかぎり任務から解放されることはないとするのだ。

 

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  まずは弘毅の必要をずばりといい、任務の達成にそれが必要だから、と出し、次にその任務とは他ならぬ仁の完成である以上、それは重大にして高遠でなくて、どうしよう、と二回まで押して納得させる。美しい文書であると桑原はいう。

 

 

 徳川家康の遺訓「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし、急ぐべからず.....」

は、この章をふまえたものだが、気品の喪失はいかんともしがたいと桑原は言う。

「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。
不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。
堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。おのれを責めて人をせむるな。及ばざるは過ぎたるよりまされり」

 

曾子」、姓は曾、名は参。字名は子與。親孝行で有名だという。孔子より46歳年少で門下の年少グループに属したが、孔子の死後やがてその学団の長となって、儒教の正統を伝えた人といわれる。曾子から子思(しし:孔子の孫)へ、さらに孟子へと伝わったといわれる。

 

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(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  
論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)

  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫