「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

世界で最も影響力のある100人「Time 100」に選ばれる人たち ~炉辺閑話 #38

 

 米誌タイムが毎年恒例の「世界で最も影響力のある100人」を発表した。日本からは「アイコン(象徴)」部門で、テニスの大坂なおみ選手、米メジャーリーグ エンゼルス大谷翔平選手が選出され、「イノベーター(改革者)」に、建築家の隈研吾さんが選ばれた。

TIME100: The Most Influential People of 2021 | TIME

 隈研吾さんの紹介文をTimeに寄稿したのは、滋賀県立美術館の館長の保坂健二朗氏。隈氏が手掛けた東京五輪のメイン会場の新国立競技場についてふれている。

 全国の都道府県から調達した木で作れた庇(ひさし)が周囲の緑ある庭に溶け込み、失われていく建築の理想、つまり周囲の環境にとけ込む手の込んだ複雑な建物を擁護したという。建築家にとって、公共プロジェクトは表現の自由を制限することが多いが、それでも自然な共感を得て、コミュニティに歓迎される新しい空間を作り出したという。

 これまでの無機質になりがちだった都会に、木材を利用し、自然と調和するオアシス的な場所を創造してことが認められたのだろうか。

 

 

 「タイタン(大立者)」の部門には、アップルのティムクックCEOが選出されている。日本にゆかりのあるNIKE創業者のフィル・ナイト氏が彼を紹介する。

ティム・クックCEO、TIME誌「世界で最も影響力のある100人」2021年版に選出 - iPhone Mania

クック氏を卓越した判断力と、リーダーにとって最も重要な資質である知性を持つ人物と評価し、クックにとって最大の困難は、スティーブ・ジョブズ氏からAppleのCEOを引き継いだ時だった、と振り返ります。 
世界から天才として敬愛されたジョブズ氏からの、不可能とさえ思われた継承をクック氏は優雅さと気品をもって成し遂げ、自分は二代目スティーブ・ジョブズではなく、初代ティム・クックであることを静かに宣言した、とナイト氏は綴っています。 (出所:iPhone Mania) 

 そのティム・クック氏は、ジョブズ氏が成し得なかったアップルを世界一の企業に導き、環境やプライバシー保護でも世界をリードする存在になっている。

論語の教え

「犁牛(りぎゅう)の子も騂(あか)く且つ角あらば、用うる勿(なか)らんと欲すと雖(いえど)も、山川其れ諸(これ)を舎(す)てんや」と、論語「雍也第六」6にある。    

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「犁牛」とは農耕用のまだら牛のこと。ふつう山川を祭るさいの犠牲としては特に飼育された赤牛が用いられるのだが、たとえつまらぬまだら牛の子であっても、その毛色が赤く、形の正しい角を持っていたならば、これを用うべきであって、もし人間がこの子牛を無視して犠牲に使うまいとしても、山川が捨てはしない、見捨てておくはずがない (出所:論語 桑原武夫

 時代、時代に求められる人物を世の中が見捨てるはずはないともいえるのだろうか。

 「牛」にたとえられたのは、孔子の弟子「仲弓(冉雍)」。天子や大名になる資格があるとまで賞められたが、出身が賤しいうえに、その父親の行状がよくなかったという。孔子は、人間を評価するのに、その出身によるべきではなく、本人の徳行と才能によらねばならないと考えていたので、彼を「牛」にたとえて彼を評価したという。

 しかし、なぜ「犠牲」を例としたのだろうか。

「犠牲」、ほかの人やある物事のために生命や名誉・利益を投げ捨てること、また、いけにえとも読む。

 

 

 タイムに大坂選手の紹介文を寄せたのは、NFLアメリプロフットボールリーグのラッセル・ウィルソン選手。NHKによれば、大坂選手が人種差別に抗議の意志を示したことに加え、メンタルヘルスの問題で苦しんでいると明らかにしたことにも触れ、「自分の弱さを共有してくれたことは、とても意味のあることだ」と称えたそうだ。

 一人のコーチにその実力を見出され、あっという間に、世界のトップに躍り出て、東京オリンピックでは聖火の最終ランナーにも選出された大坂なおみ選手。

 もしかしたら、こうした人々が繰り返し登場し、その努力を犠牲にしないと、今、社会が標榜するプライバシー保護や環境、ダイバーシティ&インクルージョンが定着していかないのかもしれない。