「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【栄一と家康の遺訓】時代の児といわれた渋沢栄一 ~論語と算盤 #3

 

 「論語と算盤」との出会いはとある書店。表紙の渋沢栄一との文字にひかれたのがきっかけでした。

 信用していた人のうそによって、仕事上、少しばかり挫折感を苛まれた時期だったので、引き込まれて読んだ記憶があります。そんな背景があったからこそ、なおさら「論語と算盤」という響きに新鮮さを感じたのかもしれません。

 

 

 今年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公は、その渋沢栄一大森美香さん作のドラマは、のっけから徳川家康が登場し、意表をつくはじまりでした。

 栄一著作の「論語と算盤」の冒頭に家康の遺訓があります。もしかして、それがヒントになったのでしょうか。

人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。

不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。

堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。おのれを責めて人をせむるな。及ばざるは過ぎたるよりまされり

 苦節の果てに天下泰平の基礎を築きあげた家康らしさを感じさせます。

 が、この遺訓は、家康自身の作ではなく、明治維新後、幕臣の池田松之助が水戸藩徳川光圀の「人のいましめ」をもとに創作したものとの説があるといいます。

 

 ことの真意は別として、栄一は、この遺訓は「論語」から出来ているといいます。そして、彼が説く士魂商才の「士魂」を養えるといいます。

 栄一は、こう説明します。

人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」とは、論語にある曾子のことばに符合する。

「士は以て弘毅(こうき)ならざる可(べ)からず。任 重くして道 遠ければなり。仁 以て己が任と為す。亦(また)重からずや。死して後已(や)む。亦遠からずや」(「泰伯第八」7) 

 指導的立場にある人物は、広い視野と強い意志力が持たなければならない。なぜなら、責任が重く、道も遠いからである。なにしろ、仁の実現をわが仕事とするのだ。重い責任と言わざるを得ないではないか。さらにそういう責任を背負って死ぬまで歩き続けるのだ。遠い道と言わざるを得ないではないか。(引用:「論語と算盤」P18) 

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 「おのれを責めて人をせむるな」というのは、「自分が立とうと思ったら、まず人に立たせてやる。自分が手に入れたいと思ったら、まず人に得させてやる」という句の意味からとったものだ。

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さらに、「及ばざるは過ぎたるよりまされり」は、「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」とに一致している。 

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堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え」は「自分に打ち克って、社会秩序に従う」という意味から取ったものだと栄一は説明し、すべて「身のほどを知れ」という教えに他ならないといいます。

 そして、これらは「論語」の各章で繰り返し説かれているともいいます。 

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 栄一は、家康のことを「世間との付き合いがうまかった」といいます。それがあったからこそ15代続く徳川の世をひらくことができたとします。

 以降200年余り続く天下泰平の世、「人々が枕を高くして寝ることができた」、これほど素晴らしい偉業はないといいます。 

 そして、「社会で生き抜いていこうとするならば、まず「論語」を熟読しない」と、私たちに諭します。 

 

  最初に渋沢栄一の名前を知ったのは、読書の中でした。たびたび登場するその名前に興味を覚えてたどり着いたのが城山三郎の「雄気堂々」。

 三井、古河、オークラ、浅野(今日の太平洋セメント)など知っている会社の名も多数登場し、興味をもって読んだ記憶があります。  

  その「雄気堂々」の解説に、幸田露伴の栄一評が記されています。

...... 時代の要求するところのものを自己の要求とし、時代の作為せんとすることを自己の作為とし、求むるとも求めらるるとも無く自然に時代の意気と希望とを自己の意気と希望として、長い歳月を克(よ)く勤め克く労したのである。

故に栄一は渋沢氏の家の一児として生まれたのは事実ではあるが、それよりはむしろ時代の児(こ)として生まれたと云った方がよいかとも思はれる。

時代に係けて誕生を語るのは蓋(けだ)し然るべきことであらう、実に栄一は時代に造りだされたものであるからである。 (引用:「雄気堂々」城山三郎 下巻P460)

 そう評される栄一ですが、本人は生涯、「武州血洗島の一農夫」で押し通したといいます。

 時代の児、渋沢栄一、「論語」を愛し、論語の文献を集め、講読会を開き、儒教倫理を説いていたと、城山三郎はそう紹介します。

論語と算盤」、栄一の遺訓としてもいいのかもしれません。その言葉たちを現代に活かしていくことが求めているように思います。

 

 SDGsとESGの時代、道徳と経済を両立させることができるとした栄一の遺訓を活かすときなのでしょう。

 

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  
論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)

  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫