「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【述べて作らず】コロナ渦の東京オリパラと陛下の憂慮 ~炉辺閑話 #13

 

 新型コロナが再び増加傾向に転じたようです。減少傾向が続いてきた全国の新規感染者数が横ばいから微増になったと、厚生労働省の専門家会合が分析しているようです。

 東京都の新規感染者数が再び700人超え、そう聞くと少し心配になります。東京オリパラの開催に影響はあるのでしょうか。

 天皇陛下も東京オリパラを憂慮されているようです。宮内庁の先週の定例記者会見で、西村長官が「陛下が新型コロナの感染状況を大変心配され、国民に不安の声がある中で、東京オリ・パラの開催が感染拡大につながらないか、懸念されていると拝察している」と述べたといいます。

 この陛下のご懸念に対して、加藤官房長官は定例記者会見で、「宮内庁長官自身の考え方を述べられたと承知している」と話したそうです。

 

天下道有れば、則ち庶人議せず

「天下道有れば、則ち礼楽(れいがく)征伐は、天子自(よ)り出(い)づ。天下道なければ、則ち礼楽征伐は、諸侯自り出づ」。

「諸侯自(みずか)ら出づれば、蓋(けだ)し十世(じっせい)失わざる希(まれ)なり。大夫(たいふ)自ら出づれば、五世失わざる希なり。陪臣(ばいしん)国命を執(と)れば、三世失わざる希なり」。

天下道有れば、 則ち政(まつりごと)大夫に在らず。天下道有れば、則ち庶人議せず」(「季氏第十六」2)

 天下に道義が行われているときは、規範や秩序は、すべて天子が主導する。天下に道義が行われていないときは、規範や秩序は諸侯が主導することになる。

 諸侯が主導するとしても、その君主のあと十代保つのは稀である。諸侯に代わって、家臣の大夫が実権を握ったときは、その子孫は五代と保たない。まして陪臣が国政を動かす振る舞いに至っときは、その子孫は三代と保ちはしない。

 天下に道義が行われておれば、諸侯の政権は大夫にはない。まして庶民があれこれと論(あげつら)い非難するようなことはないとの意味です。

dsupplying.hatenadiary.jp

 多くの人々が心配し、時に政権を非難します。現在の社会に道義がなくなっているのかもしれません。

国民の象徴

 宮内庁西村長官の「拝察」が、陛下のご懸念ばかりでなく、国民感情に近いようにも感じます。陛下も、もしかしたら、象徴であるというご自身の立場を理解されたうえで、西村長官に何か示唆されたのでしょうか。

 

 現代と古代では政治体制も異なり単純比較はできませんが、国民の象徴となった天皇陛下のご懸念、憂慮はどう扱われるべきなのでしょうか。

 加藤官房長官の言葉につれなさを感じます。

三家者(さんかしゃ)雍(よう)を以て徹す。子曰わく、相(たす)くるもの維(こ)れ辟公(へきこう)あり。天子穆穆(ぼくぼく)たり、と。奚(なん)ぞ三家の堂に取らん、と。(「八佾第三」2)

dsupplying.hatenadiary.jp

 天子に代わって政を行う三家老が祖先祭祀を行なうとき、天子にならい、雍の詩を演奏していた。これを孔子が批判しました。雍の詩に、祭りの助力に集える諸侯がた、天子は気高く奥床しとある。三家老が祭祀を行っても諸侯が応援に来るはずもないし、彼らの天子気取りは僭越。そこから、どうして雍の詩の意味を取れようかとの意味です。

f:id:dsupplying:20210701054604j:plain

 『拝察』という表現は、天皇や皇族のお気持ちを伝える際に宮内庁長官などがよく使う手段ではありますと女性自身は元宮内庁職員の言葉を紹介します。

jisin.jp

今回も陛下のお言葉として懸念を表明すると問題が大きくなりますので、長官は水面下で政府に懸念を伝えたうえで、あくまで長官自身の考えとして陛下のお気持ちを国民に伝えたかったのでしょう。 (出所:女性自身)

述べて作らず

述べて作らず、信じて、古(いにしえ)を好む」(「述而第七」1)といいます。

 天皇陛下のご心境なのでしょうか。

昔からあることを伝え、新たなことは創作しない」。

 道義を尊び、国民に寄り添う。みずからは「政」は行わないが、期待するとのことでしょうか。

 

このような試練に世界が直面している今こそ、医学をはじめ自然科学、人文社会科学の学問諸分野の叡智を結集し、世界の人々が互いに力を合わせることにより、この困難な状況を乗り越え、希望に満ちた未来を築いていくことを期待します

と、述べられた陛下のお言葉を女性自身は紹介しています。

 

dsupplying.hatenadiary.jp

 

「参考文献」