子貢曰わく、我 人の諸(これ)を我に加うるを欲せざるや、吾も亦(また)諸を人に加うること無からんと欲す、と。子曰わく、賜(し)や、爾(なんじ)の及ぶ所非(あら)ざるなりと。(「公冶長第五」12)
(解説)
「子貢が孔子に申し上げた。「私としましては、他人が良くないことを私に押しつけてくるのを望みませんので、同じく私も良くないことを他人に加えることはすまいと思っております」と。孔子はこうおっしゃってられた。「賜君よ、お前にはそれはまだまだというところだな」と。」(論語 加地伸行)
桑原はこの章を古注で読むことを勧める。
「加は陵(しのぐ)也」という馬融の古注に従う。陵とは上に出ること、したがって対象の人間になんらかの圧力を加え、おかすという意味である。
秀才の子貢が、他人が自分の上に出て自分にいささかでも圧をくわえるようなことを容赦できない。同様に自分も他人の上に出て、これを抑えるようなことのないように努力したい、きわめて筋の通った利発な考えを述べたのに対して、孔子が、賜よ、それはお前にはできそうもないことだな、とどうやら理屈ばかりが先走りして、実行がおろそかになりやすいこの秀才を軽くたしたしなめたのである。」
朱子の新注では、子貢のいった二句を論理的に結び付け、加地のように読む。「このほうが社会倫理的になり、論理は整うように見える。しかし、古代人はいつも論理的に連関性をもって発想していたわけではなく、むしろ個々直覚的に、だから、などといってつながらずに、語ったのではなかろうか」と桑原は解説する。
確かに桑原の読みの方が、ハラスメントが増える現代にもわかりやすい訳になるような気がする。
ブラック企業大賞2019の発表があり、三菱電機(メルコセミコンダクタエンジニアリング)が大賞に選ばれ、「ウェブ投票賞」は、ネット大手の楽天が選ばれた。楽天は、男性社員が会議中に上司から暴行を受けて、労災認定される事件が発生していたと弁護士ドットコムニュースが伝えた。
「我れ人の我れを加(しの)ぐことを欲せず。吾れも亦人を加ぐこと無からんと欲す」
孔子は秀才である子貢にはできそうもないとたしなめたという。
実践することは難しいことなのかもしれないが、会社生活に活かすことができればいいのかもしれない。そんな努力から、他人に圧を加えるようなことを避ける習慣を身についていきたい。
(参考文献)