「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【速やかならんと欲する無かれ。小利を見ること無かれ】 Vol.321

 

子夏(しか)筥父(きょほ)の宰と為り、政を問う。子曰わく、速やかならんと欲する無かれ。小利を見ること無かれ。速やかならんと欲すれば則(すなわ)ち達せず。小利を見れば、則ち大事成らず、と。(「子路第十三」17)

 

  (解説)

子夏が筥父という地の長官となり、政治の心構えを尋ねた。孔子はこう教えた。「成果を急がないことだ、目先の小利を求めないことだ。速く成果をと思うと、到達しない。小利に目がくらむと、大きな仕事が完成しない」と。論語 加地伸行

  

「筥父」、魯君の直轄地 

「子夏」、姓は卜(ぼく)、名は商。孔子より44歳若く、孔子学団の年少グループ中の有力者。文学にすぐれた、つまり最高の文献学者だったという。孔子晩年の弟子。 

「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」

子貢が、子張と子夏のどちらがすぐれていますかと尋ねときに、孔子がそう答えたという。

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「師(子張)は多いな、商(子夏)は少ないな」

 子夏と議論したときは、子夏の激しい調子を批判し、孔子のゆったりと相手の意見を聞く態度を学んでいないといい、さらに、小人の議論は、自分の意見だけが正しいと言い張り、目を怒らせ、腕をむき出しにし、早口で口から涎(よだれ)がたれ、目が赤くなり、勝を得ると喜びまわる等々と言ったという。

 

 

 孔子はそんな子夏に、「君子儒と為れ、小人儒と為る無かれ」(「雍也第六」13)、という。

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 孔子が外出しようとしたとき、雨が降ったが、傘がなかった。弟子が「子夏がもっていますよ」というと、孔子は「あれはケチだからなあ」と答えたという。続けて「人の長所を言い、短所を忘れることによって、長くつきあいができるのだ」と言ったと、加地は「孔子家語」の一節を紹介する。  

 

 速やかならんと欲する無かれ。小利を見ること無かれ。

 孔子は、子夏の人物なりを考慮し、エールを送ったのだろうか。なにも長官の職における政治的なアドバイスということではないのだろう。企業活動においてもそうであろうし、そればかりでなく、人生においても同じことが言えるのかもしれない。

 

 

 最近、報道を見ていると先を先を読もうとしていないだろうか。そんな論調の影響だろうか、世相もまた先を急ごうとしているようになっているのではないであろうか。

 ギリシャ語には「クロノス(Chronos)」と「カイロス(Kairos)」という2つの時間nの概念を示す言葉があるという。

 時計に表示される「時間」という概念がクロノスで、他方カイロスは一瞬の刻「時刻」や人間の主観的な時間と言われる。「時間」が過去から未来へと、一定速度で一定方向に機械的に連続して進み、それを水平の流れと表現するのであれば(クロノス)、カイロスは「刻」を縦に掘り下げ、一瞬や刹那に意味を持たせるということなのであろうか。ギリシャ語では機会(チャンス)という意味もあるという。

 内なる自分を見つめる刻が重なり、時間として流れていく。ただ流れる時間では何も達することはない、まして先へ先へと急げば猶更のことなのかもしれない。

 

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

 
論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)

  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫