「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【之を用うれば則ち行ない、これを舎つれば則ち蔵る】 Vol.161

 

子 顔淵に謂いて曰わく、之を用うれば則(すなわ)ち行ない、これを舎(す)つれば則ち蔵(かく)る。唯 我と爾(なんじ)と是れ有るか、と。

子路曰わく、子 三軍を行(や)らば、則ち誰と与(とも)にせん、と。

子曰わく、暴虎馮河(ぼうこひょうが)し、死して悔ゆる無き者は、吾 与にせず。必ずや、事に臨んで懼(おそ)れ、謀(はかりごと)を好んで而(しか)して成す者たれ、と。(「述而第七」10)

  

(解説)

孔子が顔淵にこうおっしゃった。「君主が登用すると勤務し、解職すると引退する。この私とお前ぐらいだろう」と。

すると、子路がこうたずねた。「先生が軍を指揮されますときは、だれとならご一緒なさいますか」と。

孔子はこう答えられた。「素手で虎を捕えようとか、大河を舟なしで歩いて渡ろうとか、そういう無謀なことをして、死んでもかまわないとするような者は、お断りだ。こうだ、戦争を前にしては十分に慎重にし、戦略・戦術を巧みにして最後に勝利を得る者だ」と。論語 加地伸行

    

 桑原の解説。

孔子が顔淵にむかっていった。自分を任用しようという者があれば、世の中へ出て活動する。しかし、見捨てられたら隠遁する。つまり、就職活動はしないが、求められればあえて辞せずに世に出て経綸を行なう。しかし、認められない場合には、静かに隠れてわが道を楽しむ。そうしたとらわれのない自由の境地、そこに到達しているのは、わしとお前だけだね」。

 側にいた子路が少しやっかんで口を出したという。

 子路はやがて衛の内乱で斬り死ぬことになる。その知らせを聞いた、孔子は、かつての暴虎馮河の発言を、思い出したであろうか。

 孔子は、衛の政変のニュースを聞くと即座に、「由や死せん」といい、やがて子路の死体が塩漬けにされたと聞くと、わが家の塩漬けのすべてを捨てさせ、以後これを口にしなかったという。

 

 

 暴虎馮河し、死して悔ゆる無き者は、吾 与にせず。必ずや、事に臨んで懼れ、謀を好んで而して成す者たれ、と

 

 子路孔子のいうことを身につけることができなかったということであろうか。

 

 「暴虎」とは素手で虎と組打ちすること、「馮河」は大河をかちわたりすること、ともに無謀な冒険を指すという。

 孔子は、子路をたしなめていった。「虎と組打ちしたり、大河を渡渉したりして、死んでもかまうものか、などという手合いとは、一緒に仕事することはできない。私の仲間としたいのは、ことにあたって慎重に構え、十分に計画を練って成功するような人間だ」と。

 

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(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  
論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)

  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫