子路(しろ) 成人を問う。子曰わく、臧武仲(ぞうぶちゅう)の知、公綽(こうしゃく)の不欲、卞荘子(べんそうし)の勇、冉求(ぜんきゅう)の芸の若(ごと) き、之を文(かざ)るに礼楽を以てせば、亦(また)以て成人と為す可し。曰わく、今の成人は、何ぞ必ずしも然(しか)らん。利を見て義を思い、危うきを見ては命を授け、久要(きゅうよう) 平生(へいせい)の言を忘れざれば、亦以て成人と為すべし、と。(「憲問第十四」12)
(解説)
子路が人格の完成者とはどのようなものであるかと質問した。孔子はこう答えた。「臧武仲の智謀、孟公綽の無欲、卞荘子の勇猛、冉求の才芸、そのどれかがあった上で、さらに礼で整合し、楽で和合するようになれば、人格の完成者と言える」と。またこうとも言った。「しかし、今日の人格の完成者は、そこまでに及ばなくとも構わない。利益を前にしても道義を優先させ、危機のときには生命を捧げる覚悟をもち、若いころにした古い約束について、その後になっても忘れない。そのようであれば、同じく人格の完成者と言うことができる」と。(論語 加地伸行)
「成人」、徳を完成した人のことをいう。
「臧武仲」、魯国の大夫。
「孟公綽」、魯国の重臣である孟孫氏の一族のひとり。欲の少ない人といわれる。
「卞荘子」、魯国の大夫で、剣をもって虎と戦ったという。
「冉求」、孔子より29歳年少の弟子。字名は子有。政治的手腕があり、季子の宰となった。孔門十哲の一人と言われ、多才であったという。
「子路」、本名は仲由、子路は字名。顔回(顔淵)とともに「論語」の二大脇役と桑原はいう。子路は晩年、衛の国に仕えるが、内乱に巻き込まれ殺される。
「関連文書」
(参考文献)