「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

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【称賛と非難の差】新生児の命を救えなかった保健所の忸怩たる思い

 

 混乱のアフガニスタンで、米兵士がひとりの赤ちゃんを抱きあげたといいます。心温まる画像です。

 AFPによれば、兵士に託された赤ちゃんは病気だったといいます。その後、その赤ちゃんは空港にあるノルウェーの病院で治療を受け、父親の元に帰されたといいます。

www.afpbb.com

 そのとき、兵士と父親の間でどんな会話が交わされていたのでしょうか。

 

 千葉県柏市で、新型コロナに感染した30歳代の妊婦が、入院先が見つからずに自宅で出産し、赤ちゃんが亡くなったと聞きました。

 保健所の担当者が会見で、「保健所としても忸怩たる思い。助けられたかは不明だが、もう少し早く入院できれば、手厚いケアはできたと思う」と述べたといいます。

 その妊婦は、「陣痛ではないか」と保健所に連絡を入れたといいます。それなのになぜこんなことになってしまったか。少し想像しただけでも、心が引き裂かれそうになります。

 混乱していたのでしょう。しかし、対応次第では、一人の命が守られていたかもしれません。

 

  弱い立場にある人への対応について考える機会にすべきなのでしょう。先日もメンタリストの差別発言があり、非難もありました。

「人道や経済の面から、弱者を救うのは当然のことだ」と、渋沢栄一は「論語と算盤」の中で説いています。

 「貧しくなってから直接保護していくよりも、むしろ貧しさを防ぐ方策を講ずるべきではないだろうか」といいます。

いかに自分が苦労して築いた富だ、といったところで、その富が自分ひとりのものだと思うのは、大きな間違いなのだ。要するに、人はただ一人では何もできない存在だ。国家社会の助けがあって、はじめて自分でも利益が上げられ、安全に生きていくことができる。もし国家社会をなかったなら、誰も満足にこの世の中で生きていくことなど不可能だろう。これを思えば、富を手にすればするほど、社会から助けてもらっていることになる。

だからこそ、この恩恵のお返しをするという意味で、貧しい人を救うための事業に乗り出すのは、むしろ当然の義務であろう。できる限り社会のために手助けしていかなければならないのだ。(引用:「論語と算盤」渋沢栄一 P96)

仁者は、己立たんと欲すれば人を立つ。己達せんと欲すれば人を達す

孔子の弟子子貢が、「如(も)し博く民に施して能(よ)く衆を済(すく)う有らば、何如。仁と謂う可(べ)きか」、と質問すると、孔子は、「何ぞ仁を事とせん。必ずや聖か。堯(ぎょう) 舜(しゅん)も其れ猶諸(これ)を病めり。夫れ仁者は、己立たんと欲すれば人を立つ。己達せんと欲すれば人を達す。能(よ)く近くに譬(たと)えを取るは仁の方と謂う可きのみ」、と答えたといいます(「雍也第六」30)。

子貢が「もし広く人々を物・心ともに豊かにし、人々を救うことができましたとき、いかがでありましょうか。それは仁者と言えるでしょうか」と質問すると、孔子は「どうして仁者あたりにとどまろうか。まちがいなく聖人だ。堯や舜でさえも、それは難しいと、気がかりであった。

よいか、仁者 人格者は己を世にしかと示そうと思えば、先に他者をそのようにさせる。己が目的を遂げようと思えば、先に他者をそのようにさせる。近くにかくありたきことの類型を実現させようとする、それが人格者が用いる方法と言うことができる」と答えた。 (出所:論語 加地伸行

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  栄一は、この章を「高い道徳をもった人間は、自分が立ちたいと思ったら、まず他人を立たせてやり、自分が手に入れたいと思ったら、まず人に得させてやる」と解します。 さらに、「自分を愛する気持ちが強いなら、その分、社会もまた同じくらい愛していかなければならない」といいます。

 「仁とは、人間と人間の善意の結びつきであって、孤独の個人の努力だけでは、決して仁の境地に到達しうるものではなく、人間はつねに近くから遠くへと、善意の網の目を広げていかなければならない」と桑原武夫はいいます。

 

 アフガンで赤ちゃんを救った兵士はマニュアル通りに行動するだけではなく、自分の良心に従ったということだったのでしょうか。

米軍が警戒に当たる中、戦闘服を着た兵士が布に包まれた赤ちゃんを抱いて座り、まるで実の父親であるかのようにほほ笑んでいる。(出所:AFP BB NEWS)

 人には元来思いやりの気持ちがもっているのです。それが心配や不安の気持ちをやわらげてくれるのかもしれません。また、そうした行為を目にすると称賛したくなります。

 見られていようがいまいが、それを自分の仕事を通して表現できればいいのかもしれません。実践することは口で言うほど簡単なことではありませんが、近づいていく努力は怠ることのないようにしていかなければならないのでしょう。

 

「参考文献」