世界で初めて、100m2規模の「人工光合成」による、ソーラー水素を製造する実証試験に、NEDO 国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構が成功したといいます。
人工光合成というので、二酸化炭素を直接利用する技術かと思ったのですが、光触媒パネル反応システムを使用、水を分解、生成した水素と酸素の混合気体から、高純度の水素を分離・回収することに成功したということのようです。
一方、この光で化学反応を起こす「光触媒」に関して、ショッキングな報道がありました。
「光触媒」を発見し、ノーベル賞候補にも名前が挙がる藤嶋昭・東京大特別栄誉教授(元東京理科大学長)が8月末に、自ら育成した研究チームと共に中国の上海理工大に移籍したそうです (出所:毎日新聞)。
財源不足などにより日本の研究環境が悪化する中で、産業競争力にも直結する応用分野のトップ研究者らの中国移籍は、日本からの「頭脳流出」を象徴する事例 (出所:毎日新聞)
研究者にとって研究することが本分なのでしょう。それを優先すれば、場所を問わずということなのでしょうか。NEDOと組んだ産官学での研究開発は、できなかったのでしょうか。
国力、産業、文明は、一人ひとりの人格によって決まる
「優れた人格は、社会のなかで燦然と輝く王冠にして、栄光に他なりません」と、サミュエル・スマイルズは「セルフヘルプ(自助論)」で説いています。
優れた人格は、長年にわたって高潔で、公正で、ぶれずに一貫した態度を持ち続けることによって作られるものです。 (引用:大人の気骨 サミュエル・スマイルズ 編訳:山本史郎 p173)
グローバルの時代なのだから、国境を越え国々が協力して、人類共通の課題を研究するのが理想なのかもしれません。しかし、現実にはまだそうしたことが無条件に許される環境が整っていないのではないでしょうか。
だからこそ、最初の1歩が重要であるとも言えるのでしょうが.....
「どの国も、国力、産業、文明のすべてが、個々の国民、一人ひとりの人格によって決まっています」、とスマイルズもいいます。
研究者の本分は理解できるのですが、まだ時期尚早な気もします。どうなのでしょうか。
論語の教え
「憲(けん) 恥を問う。子曰わく、邦に道有れば穀(こく)す。邦に道無くして穀するは、恥なり。
克(こく)、伐(ばつ)、怨(えん)、欲 行なわれざる、以て仁と為す可きか、と。子曰わく、以て難しと為す可し。仁は則(すなわ)ち吾知らざるなり」、と「憲問第十四」1にあります。
憲は弟子の原憲。彼は孔子の知行地の宰になる人物であるが、また貧しい学究であったともいいます。
その原憲が「恥」とは何でしょうかと孔子に質問すると、「邦に道義に基づいた政治が行われているとき、出仕するのがいい。しかし、道義なき政治で乱れているのに仕えているのが、恥である」と答えたといいます。
「勝ちたがり、自慢する、恨む、欲深、こういうことをしなければ、仁となるでしょうか」と再度原憲が質問すると、孔子は「難しい。それで「仁」人の道を踏んだことになるのかな」と答えたそうです。
難しい問題です。スマイルが指摘するように教授はすぐれた人格をお持ちのかもしれません。ただ、孔子がいう「仁」の境地にはまだ達していないということなのかもしれません。
それとも邦に道がないのだから、仕方あるまいということだったのでしょうか。
君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る。(「里仁第四」16)
「喩る」とは、判断の基準のこと。教授の判断は「義」に適っているのでしょうか。現時点での「義」からは少し離れているような気もします。
遠回りする道もあるはずなのですが.....