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日本製鉄がトヨタを提訴する、電磁鋼板における長い特許争い ~ 論語の教え #4

 

 鉄鋼最大手の日本製鉄が「無方向性電磁鋼板」について、特許を侵害されたとして、トヨタ自動車と中国の鉄鋼大手「宝山鋼鉄」にそれぞれに対し、約200億円の損害賠償を求めて、東京地方裁判所に提訴したといいます。

 NHKによれば、トヨタに対し、特許侵害されたとしているこの「無方向性電磁鋼板」を使用したモーターを搭載する電動車の、国内での製造と販売の差し止めを求める仮処分も、併せて申し立てたそうです。

日本製鉄 トヨタと中国「宝山鋼鉄」を特許侵害で提訴 | NHKニュース

日本製鉄によりますと、宝山鋼鉄は、中国で製造した無方向性電磁鋼板を日本で販売してトヨタに供給し、トヨタが、その製品をハイブリッド車などに使って販売しているとしています。

日本製鉄は「特許の侵害についてトヨタと協議をしてきましたが、解決に至りませんでした。電磁鋼板は当社の戦略上、非常に重要な技術で、特許侵害を看過することができませんでした」としています。 (出所:NHK

 

 

 提訴されたトヨタは、材料メーカー同士で協議すべき事案であるとし、訴えられたことについて大変遺憾だと発表しました。また、宝山鋼鉄との取引締結時には、特許侵害がないことを書面で確認したといいます。

日本製鉄株式会社による弊社への電磁鋼板に関する訴訟について | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト

長年に渡り、日本の自動車産業、また弊社のクルマづくりを支えて頂き、また弊社の大切な取引先であります日本製鉄が、ユーザーである弊社に対し、このような訴訟を決断されたことは、改めて大変残念に思います。 (出所:トヨタ自動車

怨みを匿(かく)して其の人を友とするは、左丘明 之を恥ず

 論語「公冶長第五」25 に、「巧言・令色・足恭(そくきょう)なるは、左丘明(さきゅうめい)之を恥ず」とあり、その後、「怨みを匿(かく)して其の人を友とするは、左丘明 之を恥ず」と続きます。

「巧言・令色・足恭、口先が巧み、顔つきが穏やか、媚び諂うことを左丘明は恥じた。また、その人への恨みを隠して友人づきあいをするようなことも恥じた」との意味です。

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 日本製鉄が、恨みを隠して友人づきあいをすることを恥じる「左丘明」のように感じます。

複雑な現代社会においては、感じの悪いさらに憎むべき人物とも交渉を避けられないことが多い。

それをすべて拒否しようとすれば、世捨人になるほかはなかろう。ただそのさいは、自分の気持ちを匿してはならないだろう。清濁あわせ飲むのでは困るからである。 (引用:「論語桑原武夫

 

 

 電磁鋼板にまつわる特許侵害についての争いは、過去韓国鉄鋼メーカのポスコとの間でも行われていました。このときは「方向性電磁鋼板」でした。

鉄鋼技術の流出訴訟が終結 新日鉄住金と元社員が和解:朝日新聞デジタル

 東京地裁に起こされた裁判では、2015年に和解、和解金300億円を受け取ったといいます。

 ただ、当時、旧新日鉄住金がそのポスコを相手に特許侵害を主張し提訴した韓国の裁判所では、「方向性電磁鋼板の関連特許」が無効だという判決が言い渡されたといいます。

POSCO、新日鉄住金と国内特許紛争で勝訴 | 知的財産ニュース - 知的財産に関する情報 - 韓国 - アジア - 国・地域別に見る - ジェトロ

 日本経済新聞によれば、今回提訴された宝山鋼鉄への「方向性電磁鋼板」の技術情報の流出は、ポスコからあったことが、2007年の別の裁判で明らかになっていたそうです。

論語の教え

「何を以て徳に報いん。直を以て怨みに報い、徳を以て徳に報いん」と、「憲問第十四」34 にあります。

「仇(かたき)への怨みに対して怨みで報復するのではなくて恩恵を与えて解決するというのはいかがでしょうか」と質問を受けた孔子が、「それなら恩恵に対して、何をもってお返しするのだ。怨みにも恩恵にも、お返しは同じになってしまうでないか。怨みには怨みのそのままの気持ちを、恩恵には恩恵を、ということでよい」と答えたそうです。

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 電磁鋼板関連の一連の経緯から推測するに、日本製鉄が深い怨みを抱いたままなのでしょうか。そのひとつひとつに対して、裁判で決着していくしかないのかもしれません。

 

 

宝武からの調達はつなぎ役にすぎないのか

新型コロナ: 日本製鉄、電磁鋼板に「チャイナショック」の試練: 日本経済新聞

日鉄は虎の子の電磁鋼板の競争で一歩も引かない構えだ。

8月4日の電話決算説明会では宮本副社長は「(自動車メーカーによる宝武からの調達は)当社の体制が整うまでの渡りの期間の話かな、と認識している」と強気の姿勢を見せた。

日鉄による電磁鋼板の増強投資が軌道に乗って安定して生産量を増やせるようになるまでの一定期間のつなぎ役にすぎないはず、との主張だ。 (出所:日本経済新聞

 もしかしたら、日本製鉄はこうした期待が裏切れたと感じたのかもしれません。だからこそ、日本での販売差し止めと求めたのでしょうか。

 和解という形で決着となるのか、それとも裁判所の判断で決着することになるのか、この先の行方が気になります。

 特許争いが生じることは致し方ないとしても、何事も遺恨を残さず、交渉すべきということなのでしょう。

 なお、産経新聞によれば、日本製鉄はポスコとの訴訟と今回の件は「(提訴の根拠となる)法律や事実関係がかなり異なっている」と説明しているそうです。