「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

実業界に転身する渋沢栄一が大切にした金科玉条 ~ 論語の教え #5 

 

 NHK大河ドラマ「青天を衝け」も回が進み、いよいよ渋沢栄一が実業界に転身、日本資本主義の父となっていくステージに移ってきました。次回放送では、第一国立銀行の設立が描かれるようです。今に続く企業のはじまりにも触れられたりするのでしょうか。

「国を強くするには国を富まさねばならぬ、国を富ますには、商工業を隆盛にせねばならぬ」との信念で、栄一は明治6年、大蔵省を退任し、民へ転身します。

当時はまだ「実業」なる言葉がなく、之を「商工業」と称したものであるが私は商工業を隆盛にするには小資本を合して大資本とする合本組織、即ち会社法に拠らねばならぬものと考へ、この方面に力を注ぐことにしたのである。 (引用:「実験論語処世談」 渋沢栄一記念財団

 江戸期の商工業の商習慣から近代的な商工業へ、そして、今日に至ったのは、栄一が進めた合本組織があってのことなのでしょうか。

 江戸期からの小資本が小資本のままであれば、大きな変化はなかったのかもしれません。それまでの世になかった新たな社会をつくっていくには、既存の資本を集め、進めることは合理的なことだったのでしょう。

 

 

 栄一は、「身を委ぬるに就て則とすべき規矩準縄(物事などの標準や基準になるもののこと。手本。規則)を耶蘇教や仏教より学ぶわけに参らなかつた」といい、「孔子の教えであえば、幼少の頃より親しんで来たところである」といいます。

論語には、日常生活に処する道を一々詳細に説かれてあるので、之に拠りへさすれば万事に間違ひなく、何事か判断に苦むやうな場合が起つても、論語といふ尊い尺度を標準にして決しさへすれば必ず過ちをする憂の無いものと信じた」と述懐します。

 そして、論語には実業家の取つて以て金科玉条となすべき教訓が実に沢山にあるといいます。

論語の教え

「富と貴きとは、是れ人の欲する所なり。其の道を以てせざれば、之を得るも処(お)らざるなり。貧と賤とは、是れ人の悪(にく)む所なり。其の道を以てせざれば、之を得るも去らざるなり」(「里仁第四」5)

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富貴は万人の欲し求むるところのものであるが然し、君子は決して不正当なる手段によつて富貴を獲得せぬものであると、孔夫子は教へられたのであらうかと存ずるのである。

即ち、富貴は決して悪いもので無いが、之を得る手段に就てだけは慎重の上にも慎重の態度に出でねばならぬものだといふのが、此章句に顕れた孔夫子教訓の御趣旨であらうかと想はれるのである。(引用:「実験論語処世談」 渋沢栄一記念財団

 これは、「実業家の如何にして世に立ち身を処すべきものたるかを、明確に説き教へられた」一例だと、栄一はいいます。

 

 

 そうした栄一の志で始まった日本の資本主義であったにもかかわらず、今日の社会は強欲資本主義にすっかり侵された結果か、地球環境は悪化し、荒ぶる気候変動が日々の生活を脅かすようになってしまいました。

 脱炭素に、循環型社会の構築が急務と言われるようになりました。過剰生産、過剰消費を抑えることが気候を穏やかにしていくことと言われます。

 栄一が立志したときと同じように、新しい社会を作っていく必要があるのでしょう。

 INPEX大阪ガスが、水素と二酸化炭素(CO2)を混ぜて都市ガスを製造する「メタネーション」の実証に共同で取り組むと発表しました。

INPEXと大阪ガス、1万世帯分のメタネーション実証: 日本経済新聞

 日本経済新聞によれば、製造能力は世界最大規模で一般家庭1万世帯分に相当するそうです。2024年度後半から製造を始め、普及の壁となる製造コストを30年ごろに4分の1に下げるといいます。

 

 

 花王とコーセーが、持続可能な社会の実現をめざし、化粧品事業のサステナビリティ領域において、包括的に協働していくことに合意したそうです。

花王 | 花王とコーセーが化粧品事業のサステナビリティ領域で包括的に協働

 今後両社は、「環境保護・循環型社会の実現に貢献する取り組み」や「社会課題の解決に貢献する取り組み」で協働するといいます。

昨今、気候変動、資源枯渇、海洋プラスチックごみ等といった社会的課題が顕在化し、グローバルで持続可能な社会への転換が求められています。また、それらの課題は、市場そのものにも大きなインパクトを与え、消費者ニーズに変化をもたらしています。

そのような中、個々の企業の取り組みだけでは限界があるテーマも多く、企業同士が協働で取り組み、協力して進めることができれば、より効果的、かつスピーディに成果に繋がる可能性が広がります。(出所:花王

 気候変動対策に資する技術は既に世の中にありそうです。それらを実用化していくためには、明治期のように社会のしくみを変える必要があるのかもしれません。

 ただ個社の対応だけでは、社会のしくみを変えていくことは困難なのかもしれません。花王が指摘するように企業同士の協働が求められているのでしょう。

 そして、栄一のような高い志をもち、業界を横断的に活動できる人物が求められているのかもしれません。