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『責任ある積極財政』の正体 —— 科学的思考(3MT)で解剖する国家ギャンブルの不確実性

1. 「規律」という心地よい言葉への違和感

エコノミストも評価する「責任ある積極財政」。単なるバラマキではなく「供給力への投資」であり、財政規律は維持されているというロジックは、一見、非常に論理的に聞こえます。

第2次高市政権始動 「責任ある積極財政は規律が効いている」みずほ証券小林氏:日経ビジネス電子版

しかし、3MT(サード・ミレニアム・シンキング)の視点からこれを見ると、ある重大な欠陥が浮かび上がります。それは、**「確証バイアス」と「不確実性の過小評価」**です。「成長がすべてを解決する」という単一の成功シナリオに固執するあまり、失敗の蓋然性(確率)が議論の遡上から消し去られていないでしょうか。

2. 3MTが教える「上限」と「下限」の思考

3MTは、ノーベル賞物理学者らが提唱する「科学的な意思決定のツール」です。その核心は、最良のケースだけでなく、最悪のケース(下限)を確率的に見積もることにあります。

高市政権のロジックをこのツールで検証すると、以下の「下限」が無視されています。

  • 投資のミスマッチ: 国が選んだ「勝者(半導体・核融合)」が、世界の潮流や破壊的イノベーションに敗れた際、その巨額負債をどう処理するのか。

  • インフレの暴走: 供給力が整う前に、円安と物価高が「国民の財布」を破壊し、社会不安を招くリスク。

  • 出口戦略の不在: 期待した成長が起きなかった場合の「損切り(撤退基準)」がどこにも示されていない。

3. 「リベラルの目」による革新的な監視

本来、リベラル(自由主義)の根幹には、既存の権威や「大きな物語」を疑い、客観的なデータに基づいて現状をアップデートし続ける**「科学的精神」**があるはずです。 「規律が効いている」という専門家の言葉を鵜呑みにせず、その数式の前提条件(為替、金利、地政学リスク)を一つひとつ検証すること。そして、政府主導の「国家資本主義」が民間の自由な創意工夫(真のイノベーション)を「クラウディング・アウト(締め出し)」していないか、またで「官民の癒着」はないかを監視すること。これこそが、今求められている「アップデートとしてのリベラル」の役割です。

4. 「大きな物語」の危うさと、きな臭い予感

もし、この「積極財政」というギャンブルが行き詰まったらどうなるか。3MTは、**「集団思考(グループシンク)」**の危うさを説きます。国家資本主義が「強い日本」という勇ましい物語(プロパガンダ)と結びついたとき、異論は「非国民的」として排除されやすくなります。

もし経済的ギャンブルが失敗すれば、政権はその不満を外敵や地政学的緊張へと転嫁する誘惑に駆られるでしょう。私たちが感じている「きな臭さ」の正体は、この**「国家主導の失敗が招く、内から外への責任転換」**への本能的な警戒ではないでしょうか。3MTが教えるのは、こうした「最悪のシナリオ」から目を逸らさない冷徹な誠実さです。

5. 過ちを仰ぎ見られる「正しい道」に立ち返れ

ここで、古典の知恵を借りたいと思います。『論語』にこうあります。

君子の過(あやま)ちや、日月の食(しょく)の如(ごと)し。過(あやま)つや、人皆これを見る。更(あらた)むるや、人皆これを仰(あお)ぐ。(「子張第十九」21)

リーダーの過ちは日食や月食のようなものだ。過ちを犯せば誰もがそれに気づく。しかし、それを潔く改めれば、人々は皆その勇気を仰ぎ見る(尊敬する)との意味です。君子は常に注目される存在であるため、隠し事はできません。失敗も公になりますが、それを隠さず正すことで、かえって徳が高まるというのです。

「責任ある積極財政」に最も欠けているのは、この精神ではないでしょうか。 3MT(科学的思考)において、自らの仮説が間違っていたと認めることは敗北ではなく、真理への一歩です。しかし、現在の国家資本主義的な熱狂の中では、失敗を認めることは「弱さ」と見なされ、プロパガンダによって隠蔽されるリスクが常に付きまといます。

過ちを隠して「きな臭い」強弁を続けるのか。それとも、日食が明けるように自らの予測の誤りを正し、新しい航路を示すのか。高市政権が標榜する「責任」の真価は、投資が成功した時ではなく、想定外の事態(下限の発生)に直面した際の「更(あらた)むる」姿勢にこそ現れるはずです。

6.まとめ:カーニー氏の「戦略的自律」への道

国家の庇護(共同体)に安らぎを求めるのは、もはや現代のアップデートとは言えません。

私たちが目指すべきは、内向きな国家主義への退却ではなく、カナダのマーク・カーニー首相がダボスで説いた**「戦略的自律」**への参加ではないでしょうか。

米覇権含む世界秩序は「破裂」、中堅国が「服従で安全買える」時代は終了 カナダ首相 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News

一国で勝者を選ぼうとする「国家資本主義」の呪縛を解き、価値観を共有する中堅国家と「開かれたルール」で繋がること。それこそが、科学的思考に基づいた、日本再生の「正しい道」ではないでしょうか。

 


 

「孤高」ではなく「熟議」へ。 国家という巨大な船が、霧の中のギャンブルに突き進もうとしている今、私たちに必要なのは、霧の向こうに光があると強弁するリーダーではなく、レーダー(科学的思考)を共有し、共に航路を検証する仲間ではないでしょうか。

「この予算、本当に規律が効いていると思いますか?」「生活実感としての物価と、政府のロジックは整合していますか?」と問いかけたいと思います。

 

「参考文書」

「結局、アベノミクスと何が違うの?」誰も教えてくれないサナエノミクスの正体…リフレ派の経済学者が示す日本を強くする“高圧経済”の真実 - みんかぶ(マガジン)

高圧経済とは 意図的に経済過熱、インフレ加速懸念も - 日本経済新聞