イタリアで開催されているミラノ・コルティナ・オリンピック。華やかな競技の裏側で、現地から届くレポートは、日本の視聴者に残酷な現実を突きつけている。日本は「豊かな国」という看板を、いつ下ろすことになるのだろうか。
【五輪滞在記】日本のカップ麺ミラノで600円 3倍の価格に長野県の記者驚き【14日更新】|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト
「現地のスーパーでは日本のカップ麺の値段は4ユーロ、日本円にして約600円。現地の物価と円安の波に飲まれ、日本の3倍の価格で売られている。」 「オリンピックを現地で同時体験、お気に入りのスポーツ選手を応援しようにも、旅費と滞在費を合わせれば、かつての倍以上の覚悟が必要だ」
世界的なインフレに歴史的なユーロ高、そして「円」の凋落。かつては当たり前だった「海外での応援」や「異国の空気」を味わうことが、今や選ばれた者だけの贅沢になりつつあるようだ。
1. 生活の価格破壊の「逆回転」
この状況を、あの「価格破壊」の視点で見つめ直すと、その皮肉さが際立つ。「価格破壊」を掲げ、日本の消費者に豊かさを届けたダイエー創業者・中内功氏は戦場の飢餓を原体験とし、世界中の豊かなモノを「安く、豊富に」届けることで、日本の生活水準を底上げしようとした。それが彼の考える民主的な豊かさだった。
しかし今、私たちが直視しているのは、その凄まじい**「逆回転」**だ。 為替頼みの「ハック」によって、私たちの労働価値は相対的に下落し、購買力は低下し、世界から「高くて買えない国」へと突き落とされている。中内氏が夢見た「安くて豊かな生活」は、今や「円安で高くて貧しい生活」へと無惨に反転してしまった。
2. 高市円安という「ハック」の正体
日経新聞が報じる「高市円安」という言葉。それは、かつて高市氏が掲げた積極的な金融緩和と財政出動への期待が、さらなる円安を招くというシナリオだった。しかし、蓋を開けてみれば、そこにあったのは「実」を伴わない期待の空転だ。
「高市円安」阻んだ需給均衡の壁 遠のく歴史的円安の再現シナリオ - 日本経済新聞
「日本列島を強く豊かに」というナラティブは、150円台という円安の壁に阻まれている。金利差というシステムのバグをハックして株価を吊り上げ、数字上の景気を演出しても、私たちの実質賃金は目減りし続けている。政治が数字に汲々としている間に、日本円の購買力は、新興国タイの路面店にさえ追い上げられているのが実態なのだ。
3. 「夢のまた夢」になるフランス高級リゾート
日本経済新聞は、次の2030年冬季五輪開催地であるフランスのクールシュヴェルを引き合いに、欧州の豊かな「バカンス文化」を報じている。だが、その記事を眺める私たちの心境は、憧れよりも「隔絶」に近いのではないか。
欧州では雪山のスキーが冬の娯楽であり、社交です。冬季五輪も残り1週間ですが、次回大会の舞台はフランス・アルプス。スキージャンプなどが開催予定のクールシュベルは、屈指の高級リゾートとして知られています。世界中の人々を引きつける冬のバカンス地を訪ねました。https://t.co/pwWmuSixAb
— NIKKEI The STYLE (@NIKKEITheSTYLE) 2026年2月15日
橘玲氏の言葉を借りれば、国力が「ハック」できない段階にまで衰退している証拠だ。株価をどれほど吊り上げても、国民の購買力という「実(じつ)」が伴わなければ、世界との距離は開く一方だ。 バンコクで1杯1,000円のカオソーイに怯え、ミラノの物価に言葉を失う。その先に待ち受けるシャモニーやクールシュヴェルは、今の日本人にとって、もはや「夢のまた夢」の蜃気楼になりつつあるのではないか。
4. 「貧にして怨むこと無きは難し」
生活が苦しくなり、世界が遠くなると、人はどうしても内向きになり、誰かを攻撃することで心の平安を保とうとする。そんな私たちの心の弱さを、2500年前の孔子は見透かしていたかのように語っている。『論語』にこうある。
子曰わく、貧にして怨むこと無きは難く、富んで驕ること無きは易し。(「憲問第十四」10)
「貧しくなって、誰をも怨まずにいることは、本当に難しいことだ」——この言葉に、今ほど深く納得し、共感することはない。日々の生活の「不自由」が積み重なれば、政治への不満、他者への苛立ちが募るのは、ある意味で人間として自然な反応なのだ。
孔子は決して「我慢せよ」と突き放しているのではない。貧しさが心までも蝕み、それでも**「怨み」に飲み込まれない自律(矜)**を持つことの貴さを説いているのだ。
結び:咲き誇るための「実」を求めて
「世界の真ん中で咲き誇る」という政治の言葉が、150円台の円相場の前でこれほど虚しく響くことはない。
私たちが次にクールシュヴェルの雪山を語るとき、それは日経新聞の記事を眺める「観客」としてではなく、自らの足でそこに立ち、世界と対等に語り合える「当事者」としての力を取り戻した時であってほしい。
為替をハックするのではなく、自分たちの「実」と「矜」を取り戻す。その長い道のりの出発点は、今のこの「悔しさ」を直視することから始まるのだろう。
「参考文書」
次の冬季五輪開催地、フランス高級スキーリゾートに見るバカンス文化 - 日本経済新聞
トランプのドル安歓迎は「間違い」だ 強く信頼性ある通貨こそ国力の源泉だ | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)


