「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

対抗エリートの功罪 —「壁を壊す」で進む「戦う主体」の弱体化

 実質賃金が4年連続でマイナス。この深刻な数字は、いわゆる「官製賃上げ」がもはや機能不全に陥ったということを表してはいないでしょうか。また、それは労働組合の弱体化でもあるように見えます。

実質賃金4年連続マイナス、2025年1.3%減 賃上げが物価に及ばず - 日本経済新聞

 かつて経営側と対峙し、分配を勝ち取ってきたはずの労働組合は、今や「政府のお願い」を待つだけの受動的な存在へと変質してしまいました。

この閉塞感のなかで、国民民主党の玉木代表は、既存の権力構造に異議を唱える「対抗エリート(カウンター・エリート)」として注目を集めました。「壁を壊す」という言葉は、あたかも彼が既存システムを刷新してくれるかのような期待を有権者に抱かせました。

1. 異質なカウンター・エリートの「功罪」

 しかし、今回の選挙を経て明らかになったのは、玉木氏という対抗エリートの極めて異質な正体です。「エリート過剰生産が国家を滅ぼす」の著者ピーター・ターチン氏は、「対抗エリート」はシステムの外側から、既存のルールを無視して破壊するとしていますが、玉木氏は既存システムを壊すどころか、むしろ「ナビ役」として政権にすり寄り、その延命を助けています。

【衆議院選挙】高市人気と衝突回避探る 国民民主「ナビ役」・参政「監視役」主張 - 日本経済新聞

 さらに罪深いのは、彼が自らの支持母体である連合や、同じく連合を基盤とする中道勢力に対して、内部からその結束を乱し、弱体化を加速させている点です。

連合・芳野友子会長「中道改革連合の批判控えて」 国民民主党の玉木雄一郎代表に要請 - 日本経済新聞

「中道への批判を控えろ」という連合・芳野会長の要請、そして野党連携を拒む立ち振る舞い。これらは、既存の権力構造に対する「対立の軸」を消滅させ、労働者や国民の声をバラバラに分断する結果を招いたのではないでしょうか。彼が壊しているのは「壁」ではなく、**権力に対抗するための「連帯の基盤」**そのもののように見えます。

2. スタバの教訓:恩恵への依存を捨て、主体性を回復する

この「政治家という代行業者」への依存が招く悲劇の対比として、私たちはスターバックスの事例を見つめ直すべきです。 かつてスタバのパートナー(従業員)は、ハワード・シュルツ氏という「善意の経営者」が与えてくれる恩恵に満足していました。しかし、現場の労働者たちは気づいたのです。経営側の「善意」という名の恩恵に依存し続ける限り、自分たちの真の生活向上はないのだと。

だからこそ、彼らは自分たちで組合を組織し、対等な「交渉主体」として立ち上がりました。 今の日本に必要なのは、玉木氏のような「救世主的なナビゲーター」に熱狂し、おこぼれの解決(部分最適)を待つことではないのかもしれません。労働者自身が、そして国民自身が、依存を捨てて「戦う主体」としての自律を取り戻すことです。

3. 山口周氏が説く「社会運動としての自律」

 山口周氏は『クリティカル・ビジネス・パラダイム』において、これからの時代は、現状を批判的に問い直し、自らが望むアジェンダ(社会のあり方)を提示する「社会運動」的な姿勢こそが価値を生むと説いています。

「官製」の枠組みのなかで、政治家が手配してくれる賃上げを「解決」と呼ぶのはもうやめたほうがいいのかもしれません。それは、権力の側に「飼い慣らされる」ことに他ならないからです。現場から「NO」という声 ノイズを上げ、既得権益や甘えの構造をクリティカル(批判的)に突くこと。政治を消費する「お客様」から、自ら社会を動かす「運動体」へと進化すること。

 

まとめ

「対決より解決」というスローガンのもとで進められたのは、批判の去勢と、抵抗勢力の自壊ということだったのではないでしょうか。4年連続の実質賃金マイナスという現実は、この「すり寄りの政治」が完全な失敗であることを告げています。

論語』に、このような言葉があります。

子曰わく、君子は矜(きょう)にして争わず、群して党せず。「衛霊公第十五」22)

 君子は、自らの信念を毅然と持ちつつも(矜)、無益な争いはしない。志を同じくする者と集い連帯はするが(群)、特定の利益のために結託し、他を排除するようなことはしない(党せず)。

 今の政治に起きているのは、この真逆です。自律を欠いたまま、特定の利益のために「党」を組み、権力にすり寄る。その結果、本来あるべき健全な連帯(群)が壊されてしまったようです。

「壁を壊す」のは、ほんとうは政治家ではないのかもしれません。 依存という名の壁を壊し、個として「矜」を持ち、主導権を自分たちの手に取り戻す。そして、正当な「対立」の先に真の「解決」を見出す。そこにある連帯の力が、日本経済を、そしてこの国の民主主義を再生させる道ではないでしょうか。