「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

「責任ある積極財政」とエコノミストとのコンフリクト

 衆院選の投開票日を前に、高市首相から飛び出した「(円安で)外為特会がホクホク状態」という言葉。これに対し、みずほ銀行の唐鎌大輔氏ら第一線のエコノミストたちが「危うい」と異例の名指し批判を展開しています。

 このコンフリクト(衝突)の正体は、単なる政策の相違ではありません。「現実を直視する実務家の知性」と、「美しい誤解に逃げ込む政治の情緒」の決裂です。

「ホクホク」発言に潜む、PLとBSの致命的な混同

「円安で外為特会がホクホク状態」。この首相の発言に対し、実務家たちが激しい拒絶反応を示したのは、特会の含み益がは、国民全体の富が毀損された結果として生じた「副産物」に過ぎないからです。円安の真因を放置し、表面的な数字で「ホクホク」と語る感性は、山口周氏が説く「貧しい理解」の極致と言わざるを得ません。

「美しい誤解」と「貧しい理解」|山口周

 私の専門のIE(経営工学)の視点で例えるなら、これは**「自社工場が火災で全焼している最中に、工場長が『火災保険金が下りるから、今期はホクホクの黒字だ』と喜んでいる」**ような倒錯です。

 唐鎌氏が『弱い円の正体』で説くように、円安は国富の流出です。工場の再建(通貨価値の回復)を考えず、見舞金で悦に浸るリーダーに、システムの再設計を託せるでしょうか。

「私を潰そうとしている」という対話の拒絶

 こうしたエコノミストたちによる批判に対し「私を潰したい人があの手この手で攻めてくる」、高市首相は佐賀県白石町での衆院選の応援演説で反論したそうです。このレトリックは、あまりにも不誠実です。

高市首相、批判に反論「私をつぶしたい人はいろんなことやってくる」 | 毎日新聞

 河野龍太郎氏が『日本経済の死角』で警告するように、今の日本に必要なのは、耳に心地よい「パイの拡大」という幻想ではなく、低成長と人口減少という現実に即した「痛みを伴うシステムの刷新」です。「生産性が上がっても実質賃金が上がらない」という収奪的システムからの脱却のはずです。これを「攻撃」と捉えて遮断し、被害妄想的に支持者を煽る行為は、「物語の捏造」であり、情報の誠実な読み解きを放棄したポピュリズムの典型です。

「信」なき車は、一歩も進めない

孔子は『論語』為政第二において、リーダーシップの本質をこう説きました。

人にして信無くんば、其の可(か)なるを知らざるなり。大車(たいしゃ)に輗(げい)無く、小車(しょうしゃ)に軏(げつ)無くんば、其れ何を以てか之を行(や)らんや。(「為政第二」22)

 大きな車を牛に繋ぐ「輗(げい)」、小さな車を馬に繋ぐ「軏(げつ)」。それらがなければ、車はただの箱であり、一歩も進むことはできません。 政治における「信」とは、言葉の整合性であり、市場や国民に対する誠実さ、そして通貨の信認です。「責任ある積極財政」という言葉を使いながら、その裏側で通貨の価値を安売りし、専門家の知性を拒絶する。この「信」を欠いたシステムは、どれほど財政という燃料を投下しても、日本という車を前進させることは不可能です。

まとめ

「積極財政」という心地よい響きに隠された、システムの機能不全。 2月8日、私たちが投票箱に託すのは、単なる「誰かの一票」ではありません。

「火災保険で喜ぶ工場長」の言葉を信じて共倒れになるのか。それとも、輗(げい)と軏(げつ)—すなわち「信」を取り戻し、実務的な知性に基づいてシステムを再構築する道を選ぶのか。

私たちの「理知」が、この国の連結器を繋ぎ直せるかどうかが、いま問われています。

 

「参考文書」

「消費税減税ならトリプル安も」BNPパリバ中空氏 市場と有権者を両にらみ:日経ビジネス電子版