2026年1月27日、第51回衆議院議員選挙が公示されました。2月8日の投開票に向けた12日間の選挙戦で、最大の争点は高市早苗政権が掲げる「責任ある積極財政」の是非といわれます。
高市首相は、石破政権までの慎重な財政運営を「大転換」させると宣言しました。しかし、公示と時を合わせるように市場が示した反応は、円安と長期金利の急騰という、ある種の「拒絶反応」でした。その後、日米の協調介入への期待から足元は円高に振れたものの、それを受けて今度は株安が進むという、極めて不安定な状況が続いています。
この市場の迷走は、単なる数字の変動ではありません。私たちが直面している「言葉と実態の乖離」への警鐘ではないでしょうか。
市場が疑う「投資」の正体
高市首相が掲げる「危機管理投資」や「成長投資」は、一見すると「強い経済」を実現するための前向きな言葉に聞こえます。しかし、市場がこれほどまでに過敏に反応するのは、その投資が「実態(供給力の向上)」を伴わない、単なる「需要の積み増し」に終わるのではないかという懸念があるからです。
- 危機管理投資(防衛、防災など): これらは国家の安全に不可欠ですが、経済学的には「消費的需要」になりやすく、直接的に民間の生産性を高める「供給力」に繋がるまでには時間がかかる、あるいは繋がりにくいと市場は見なしています。
- 成長投資(AI、核融合、宇宙など): 夢はありますが、成功の不確実性が高く、足元のインフレを抑えるほどの供給力を今すぐ生むわけではありません。
市場は、「これらは『強い経済』という美しい看板(名前)を掲げているが、実際はただ国債を増刷して『需要』を膨らませるだけ(実態)ではないか?」という、「名」と「実」の解離を鋭く突いているのです。これが、長期金利急騰や円安という形での「拒絶反応」に繋がっているようです。
NewsPicksにおいて、経済評論家の辛坊正記氏は積極財政の成否を決める「分水嶺」を次のように指摘しています。
- 成功の道:財政出動が呼び水となり、日本の**供給力(モノやサービスを生み出す力)**が高まる。その結果、貿易収支が改善し、インフレが収まって円の価値が安定する。
- 失敗の道:供給力が回復しないまま、国家が需要だけを膨らませる。すると、円安とインフレが加速し、金利上昇に歯止めがかからなくなる。
現在、金利が上昇し株価が揺れているのは、市場が高市政権の掲げる「投資」を、後者のシナリオ、つまり国家や企業の器を飾るための「形だけの需要創出」ではないかと見透かしているからかもしれません。
『論語』が問いかける、財政の「主語」
こうした経済の論理を考えるとき、2500年前の『論語』顔淵第十二に記されたある対話が、今なお色褪せない教訓を与えてくれます。不作によって財政不足を嘆く君主に対し、孔子の弟子 有若(ゆうじゃく)はこう答えました。
百姓(ひゃくせい)足らば、君孰(たれ)と与(とも)にか足らざらん。百姓足らずんば、君孰れと与にか足らん。(「顔淵第十二」9)
国民の暮らしが豊かであれば、君主だけが不足することなどありましょうか。国民が貧しければ、君主だけが足りているなどということがありましょうか。
ここで説かれているのは、政治の主語は常に「百姓(国民)」にあり、国家の豊かさはその結果に過ぎないという真理です。
高市首相の「積極財政」の主語は、果たしてどこにあるのでしょうか。もし、防衛力や先端技術といった「国家の器」を大きくすること(国家目線・企業目線)が優先され、国民一人ひとりの「足る」実感(生活者目線)が置き去りにされているならば、それは道理の通らない「言葉だけの政策」になってしまいます。
「デフレ後遺症」を克服できるか
エコノミストの永濱利廣氏は、著書『新型インフレ』の中で、日本経済を蚀む「デフレ後遺症」の深刻さを説いています。 人々が長年のデフレで「将来への不安」を骨の髄まで染み込ませている中では、いくら国家が巨額の予算を積んでも、それが民間の活発な投資や消費という「供給力の強化」に結びつくのは容易ではありません。
言葉だけが踊り、実態が伴わない。その「名」と「実」の解離こそが、いま市場を、そして私たち国民を不安にさせている正体です。
まとめ
2月8日、私たちは一票を投じます。 問われているのは、予算の金額の多寡ではありません。その言葉が、私たちの暮らしを豊かにする「実」を伴っているのか。それとも、単に国家という器を飾るための「需要」の膨張に過ぎないのか。
私たちは、リーダーの掲げる「名前」に惑わされることなく、その政策が誰を主語に語られているのかを、冷静に見極める必要があるのではないでしょうか。
「参考文書」
【衆議院選挙公示】「責任ある積極財政」論戦火ぶた 2月8日投開票、政権評価問う - 日本経済新聞
NY円急伸、一時153円台 日米介入警戒、2カ月半ぶり高値:時事ドットコム


