「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

久米宏さんの空気を壊す「愚」の価値 ~ 今の解散政局の不誠実さをどう弄ったのか

名キャスターの死と、剥き出しの権力

 トランプ氏の言動に揺れる国際情勢、国内では高市首相の「解散騒動」とそれに伴うマーケットの反応。 「情報の武器化」が現実の経済を直撃するなか、私たちは一つの大きな羅針盤を失いました。久米宏さんの訃報です。

〈追悼〉久米宏さん死去 「ニュースステーション」の光と影 筑紫哲也さんが語っていた「久米流」の巧みさ:東京新聞デジタル

 論語に登場する寧武子は、国が乱れたときに「愚か者」として振る舞う賢者でした。久米さんもまた、テレビというマスメディアの中で、あえて空気を読まない辛辣な言葉を投じる「愚」を演じていました。

トランプ氏が「ディール(取引)」で世界を威圧し、高市政権が華やかな外交の裏で政局の波を立てる今。久米さんなら、そのきらびやかな戦略の綻び(ほころび)を、誰よりも先に「愚直な問い」で暴き出したはずです。

 

 

耳を塞ぎたくなるニュースの奔流

 ここで、一見バラバラに見える3つの報道を並べてみましょう。

前代未聞のFRB議長への攻撃

 いま、海の向こうで信じがたい事態が起きています。 トランプ政権がパウエルFRB議長に対し、刑事捜査という「前例のない」攻撃を仕掛けました。これに対し、アラン・グリーンスパン氏ら歴代議長や元当局者らは一斉に**「FRBの独立性に対する重大な脅威だ」**と非難声明を出しました。

歴代FRB議長ら、パウエル氏捜査非難 独立性への前例なき攻撃

金利という「経済の秤」を司る番人を、自らの思い通りにするために法的圧力で屈服させる。これは制度が脆弱な新興国の手法であり、米国民主主義の柱であるガバナンスの崩壊を意味します。

「ドンロー主義」と情報の武器化

 ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏は、2026年最大のリスクとして**「ドンロー主義」**を掲げました。 自らの感情とディール(取引)ですべてを決定し、FRBの独立性を踏みにじり、イランを巡る情勢をも私物化する。そこにあるのは客観的な事実ではなく、権力を維持するための「武器化された情報」です。

 トランプ氏の『内面』と『嘘』を暴いたウッドワード氏の『RAGE』。今、世界で起きているのは、この本で描かれた『個人的な怒りと取引』が国家制度を飲み込むという、最悪の続編です。

共鳴する国内の政局:高市首相と「解散の足音」

 この不透明な空気は、日本にも共鳴しています。 突如浮上した「解散」という政局。マーケットは即座に円安、債券安(金利上昇)、株高で反応しました。しかし、この株高は『期待』ではなく、通貨価値の下落を反映した『資産の避難』に近いものではないでしょうか。

長期金利が一時2.16%、27年ぶり高水準 衆院解散観測で財政悪化懸念 - 日本経済新聞

 市場は、リーダーが「耳の痛い意見」を無視し、自らの任期のために恣意的にルールを書き換える不誠実さを、敏感に嗅ぎ取っています。史上最高値を更新する株価の影で、金利が悲鳴を上げています。長期金利2.16%という数字は、マーケットが政権に突きつけた『耳の痛い警告』そのものです。数字は嘘をつきません。嘘をつくのは、それを解釈する人間の方です。信頼(インテグリティ)のない言葉は、いかに勇ましくても市場に見透かされるのです。

失われた「耳の痛い意見」

「耳の痛い意見」をフェイクニュースとして切り捨てるトランプ的手法が、日本でも模倣されていないのか。久米さんだったら、その共通性をどう弄った(いじった)のか。

 報道が「トランプにどう媚びを売るか」「高市支持か否か」の二元論に終始するなか、久米さんのような「そもそも、これって茶番ですよね?」と冷徹に本質を突く声が消えています。

 

 

論語でまとめ

甯武子、邦に道あれば、則ち知なり。邦に道なければ、則ち愚なり。其の知は及ぶべきなり。其の愚は及ぶべからざるなり。(「公冶長第五」21)

 甯武子は、政治が安定し、国に道義があれば、智者として活躍した。しかし、政治が混乱し、国に道義がなければ、あえて愚か者のふりをして身を守り、主君を支えた。彼の智恵は他人にも真似できるが、あの徹底した『愚』の境地は、誰にでも真似できるものではないと孔子は言いました。

 本当に賢い人は、必要な時に自分の才能を隠す(=愚を装う)ことができるという意味です。自分の有能さを見せつけたい欲を捨て、あえてバカになって泥をかぶる。孔子はそこに、単なる知識以上の「高潔な精神」と「覚悟」を見ていました。

 

「大人の対応」や「引き際」の重要性を示唆する言葉とも解釈されています。時勢に応じて「分からないふりをする」、これもまた重要ということです。相手の意見に耳を傾け、冷静に判断し、時には反発せずに受け流す、そこに人間的成長の深さがあるといいます。 つまり状況判断力と忍耐力を説いているともいわれます。

 リーダーが自分の思い通りになることを楽しみ、不都合なデータを書き換える「情報の武器化」に走るとき、国は崩壊の坂を転げ落ちます。

「邦に道なければ、則ち愚なり」、久米さんが演じた「愚」は、私たちが現実から目を逸らさないための鏡でした。

「耳の痛い真実こそ」が、私たちを自由にする」。政局の喧騒に惑わされず、私たちは久米さんが遺した「疑う勇気」を手に、事実の重みを踏みしめていかなければなりません。ご冥福をお祈り申し上げます。

 

「参考文書」

首相、通常国会冒頭で解散の意向 衆院選、自民幹部に伝達 | NEWSjp

円下落、一時1年半ぶり159円台 衆院解散観測で財政懸念再燃 - 日本経済新聞

日経平均終値1609円高の5万3549円 高市トレード「第2幕」で最高値 - 日本経済新聞

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