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【金利ある世界とは何か? 7】金利ある世界で見直される銀行の存在意義

 全6回にわたる連載の最終回です。私たちは、日銀の政策転換によって訪れる**「金利ある世界」**で、住宅ローンや資産運用、そして各金融勢力の戦略を見てきました。

 金利が上昇し、銀行の資金調達コストが上がると、銀行はもはや預金と貸出の利ザヤ(金利差)だけに頼ることはできなくなります。特に、ネット銀行との金利競争が激化する中で、銀行の生き残りは「金利以外の収益源」、すなわち**「手数料(フィー)ビジネス」**の確立にかかっています。

 今回の最終回では、銀行がDX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使して、私たちが支払う手数料をどこで、どのように稼ぎ出しているのか、そしてその裏側にある**銀行の「真のビジネスモデル」**に迫ります。

 

 

💰 私たちが支払う「手数料」はどこへ消えるのか

「銀行は高金利を払うなら、手数料を安くしてほしい」と私たちは考えがちですが、銀行にとって手数料は、金利競争で失った利益を補填する**「命綱」**です。

1. 手数料収益の二大柱

 銀行の手数料収益は、主に以下の二つの領域で稼がれています。

① 個人向けフィー: 資産運用(投資信託・保険販売)の手数料、ATM・振込手数料、住宅ローンの事務手数料など。

② 法人向けフィー: M&A仲介手数料、事業承継コンサルティングフィー、DX支援サービス利用料など。法人顧客の**「経営課題の解決」**という高付加価値なサービスを提供することで、融資金利よりもはるかに高い収益率の手数料を獲得します。

2. DXによる手数料収益の「効率化」

 銀行DXの裏側にある目的の一つは、手数料の獲得効率を最大化することです。

事例:パーソナライズされた提案

 顧客の口座データ、決済履歴、アプリの行動データをAIで分析し、「今、退職金が入ったばかりの顧客」や「NISA枠を使い切っていない顧客」に対し、最適な投資商品を最適なタイミングで提案。従来の窓口営業よりもはるかに高い確率で投資信託の手数料を獲得しています。

💼 銀行の真の収益源—DXで稼ぐ法人支援ビジネス

 金利のある世界で、銀行が最も収益性を見込んでいるのは、もはや個人向け手数料ではなく、**「法人向けソリューションビジネス」**です。

1. 融資から「経営コンサルティング」への転換

 従来の銀行ビジネスは「融資」がゴールでしたが、現在は「融資」は法人顧客との関係を築くためのスタート地点です。

  • 銀行の戦略: 融資を通じて得た企業の財務データや経営情報という「最強の武器」をデジタルで分析し、その企業が抱える課題(人手不足、事業承継、販路拡大)に合わせたソリューションを提供します。
  • 収益の源泉:
    • M&A仲介・アドバイザリーフィー: 地域企業の事業承継や、成長企業の買収ニーズをデジタルでマッチングし、高額な手数料を獲得。
    • SaaS型DX支援: 提携するIT企業のクラウド会計やRPAツールを企業に導入し、**月額の利用料(フィー)**を安定的に得ます。
2. 地方銀行メガバンクも共通する「脱・金利依存」

 前回解説した地方銀行のDXも、メガバンクの取り組みも、目指すところは共通しています。預貸業務の利ザヤという不安定な収益源に頼らず、**「景気の変動に左右されにくい安定した手数料収益」**を多角的に確保することを図っているようです。

 銀行は、私たちが思う以上に、もはや単なる金融機関ではなく、**「情報と信頼に基づく総合サービス・仲介業」**へとビジネスモデルを根本的に変革しているのです。

 

 

💡 金利のある世界で賢く生きる

金利ある世界」は、単に「金利がつく」という話ではなく、「金融機関の真のビジネスモデルと運用の巧みさ」、そして**「個人の金融選択能力」**が試される時代と言えそうです。

 これからは、より一層、銀行を「賢く利用する」が求められそうです。銀行の戦略を知った上で、私たちは行動すべきです。これまでの記事が参考になれば幸甚です。

論語でまとめ

利に放(よ)りて行なへば、怨(うら)み多し。(「里仁第四」 12)

自分の利益だけを基準に行動すれば、多くの人から恨まれることになると孔子は言いました。 
 これは、行動の動機が「私利私欲」に基づいていることへの戒めです。人として行動する際には、目先の利益にとらわれず、道義や倫理といった普遍的な価値観に従うべきであると孔子は教えます。利益を追求するあまり他者を顧みないと、結果として人間関係が悪化し、恨みを買うことになるというのです。

 これからの「金利ある世界」において、各金融機関にも同じことが求められるのではないでしょうか。自らの社会的価値、そして、それに根差して倫理を再定義してもらいちものです。

 この最終回をもって連載ブログは終了となります。長い間お付き合いありがとうございました。

 


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(今日の中国の歌ではなく、スピッツの「チェリー」。シンガポール駐在時の同僚がよく歌っていました。シンガポール着任時に銀行口座開設のため、現地の銀行に行くのですが、雰囲気からして日本の銀行とは大違いでした。帰任後はしばらく外資系銀行をメインにしていましたが、その後日本撤退となってしまったので、日本の銀行がメインになりました。たまたまかもしれませんが、サービスの質で日本の金融機関は劣っているのではないかと感じることが多々ありました。個人の感想ではあるのですが。)