連日、メディアは、二つの深刻な現実を伝えています。ひとつは、高市首相の発言を発端にした中国の反応(「日中関係悪化は高市氏に責任と名指しで非難」共同通信)。もうひとつは、大型補正予算をめぐる財政の緩みが、国際市場から厳しく警告されている事実です(例:ドイツ銀行のトラス危機への言及)。
この「外部の安全保障危機」と「内部の経済リスク」の交差点で、政府は極めて大胆な政策運営を行っています。それは、まるで、リスクを承知の上で突き進む「戦略的楽観論」に基づくギャンブルのようです。
⚔️ 第1の現実:中国との緊張
中国との緊張状態は、もはや外交摩擦のレベルを超え、軍事専門家が警告する**「戦争の初期段階」**として捉えるべき切迫した状況です。
🔪 外部圧力は「政策推進の燃料」である
軍事研究者の小泉悠氏らが著した**『2030年の戦争』**は、日本に対する様々なハイブリッド的な攻撃がすでに常態化しており、「戦争をどう定義するかによるが、日本も戦争の初期段階に入ってきている」と指摘します。
首相の発言を契機とした中国外交部や軍からの発信、そして武装した海警船による尖閣諸島周辺への領海侵入は、この指摘を裏付けるものです。
- ハイブリッド攻撃の激化: 中国は、外交的な非難(認知戦)と、海警船による威嚇(グレーゾーン事態)を連動させ、日本の国内世論の分断と自衛隊・海保の消耗を狙っているかのようです。
- 「戦わずして勝つ」: これは武力を使わない**「初期の消耗戦」**であり、中国は日本の財政と組織の疲弊を狙う長期戦略を進めているように見えます。
🛡️ 緊張は安全保障政策の合理性である
政府はこの緊張の解決を急いでいないようです。この「脅威の可視化」といもいえそうな政府の対応は、防衛費の増額や「非核三原則の見直し」といった政策転換に、「合理性」を与えてます。
アングル:日中関係は悪化の一途、政府内に二つの打開シナリオ | ロイター
政府は、中国の圧力が「政策推進に利用できるレベル」に留まるという、安全保障上の楽観論に頼っているのでしょうか。
📉 第2の現実:財政リスクを「デフレ脱却」で打ち消す論理
🛡️ 市場の懸念より「デフレ逆戻り」を恐れる
政府は、21.3兆円規模の総合経済対策を決定し、物価高対策としてガソリンの旧暫定税率の廃止など減税分を含め11兆7000億円を充てます。その裏付けとなる2025年度補正予算案の一般会計からの支出は17.7兆円となり、特別会計などを合わせた財政支出は21.3兆円に達するといいます。
政府、21.3兆円の経済対策を決定 家計支援・成長投資に重点 - 日本経済新聞
市場が懸念する**「国債増発による財政破綻リスク」よりも、「今ここで財政を緩めれば、再びデフレに逆戻りするリスク」**の方が、日本の国力にとって長期的に致命的だと判断したのでしょうか。
- リフレ派の論理: 現在の物価高は円安によるコストプッシュ型の「悪いインフレ」であり、需要回復を伴う「良いインフレ」ではない。良いインフレを実現し、経済成長による税収増さえ実現すれば、財政は自ずと健全化する。
- 楽観的シナリオ: つまり、政府は国内の巨額な貯蓄と日銀による金利コントロールが、国債暴落のリスクを食い止められると楽観的に見ていそうです。そして、この「時間稼ぎ」の間に、拡張的財政の投資効果が発現し、市場の懸念を打ち消すほどの成長を達成できることに賭けているのではないでしょうか。
危険な賭け
日本政府は、外部の脅威を国内改革の推進力とし、財政リスクは成長という未来の果実で返済できるという、非常にリスキーな戦略的ギャンブルを仕掛けているようにも見えます。
高市政権襲う「トリプル安」、予算膨張警戒で市場陶酔に終止符も - Bloomberg
市場の警告を無視し、成長戦略に頼り続けることは、本当に「責任ある」と言えるのか?成長が実現しなかった場合の具体的なバックアッププランはあるのか?
この戦略の最大の危険性は、安全保障と経済の両面で「楽観的な想定」が崩れた場合に、致命的な結果を招くことです。
- 市場の信認崩壊: 政府が安全保障を理由に国債増発を続けた結果、市場が「日本は安全保障の名のもとに財政規律を放棄した」と見なした場合、国内貯蓄の安定神話が崩れ、トラス危機のような国債と円の暴落が、成長による税収増が実現する前に発生する可能性があります。
- グレーゾーンの暴発: 中国の「グレーゾーン事態」が、計算外の偶発的な衝突や、中国側の誤認によって、一線を超えた軍事的な緊張にエスカレートした場合、日本の経済活動は急速に収縮し、リフレ政策どころではない経済危機に直面することになります。
このリスクを認識し、政策の透明性と説明責任を強く求めなければならないのでしょう。この「二重の危機」が現実化することは避けなければならないのですから。
論語でまとめ
其の鬼に非ずして之を祭るは、へつらうなり。義を見て為せざるは、勇無きなり。(「為政第二」24)
自分の家の先祖ではない霊(かみ)を祭るのは、ご機嫌をとろうとする卑屈な態度である。人間として正しいことだと分かっていながら、それを実行しないのは、勇気がないからだと孔子は言いました。
この孔子の言葉は、人として取るべき正しい態度について、二つの側面から説いています。自分の先祖でない神や霊を祭るのは、その権力や利益にこびへつらう行為であり、人としての分を越えた卑しい行いとします。また、正しいと頭で理解しているだけでは不十分で、それを実行に移す「勇気」が伴ってこそ、真の人間らしさであると説いています。
この言葉と首相の言動が重なります。自分が信じるものを「義」として、勇気をもって進むのも悪くはないのでしょう。しかし、どうにも「暴虎馮河」的な行動に見えてしまいます。
「暴虎馮河(ぼうこひょうが)」とは、無謀な勇気や思慮の浅い向こう見ずな行いをいいます。孔子は弟子の子路に「暴虎馮河し、死して悔いなき者とは、吾ともにせざるなり。必ずや事に臨みて懼れ、謀を好くして成さん者なり」(論語「述而第七」10)といいました。「素手で虎と戦い、歩いて河を渡り、死んでも悔いないような者とは、私は一緒に仕事はしない。必ずや、事に当たって慎重で、よく計画を練って成功させる人物と一緒にする」との意味です。)
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日本政府ももっと慎重であるべきではないでしょうか。
「参考文書」
小泉悠×山口亮 日本の近くで戦争はすでに起きている | 日経BOOKプラス
【コラム】やり過ぎた中国、高市首相の政策遂行手助け-リーディー - Bloomberg
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(今日の中国の歌ではなく、日本の歌。宇多田ヒカルさんの「ファーストラブ」。シンガポール駐在時、シンガポールの人たちがこの歌を歌っていたことを思い出します。みながもっと仲良くできるんだろうにと思うのですけどね。)


