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最低賃金1,500円目標は撤回?企業優先、「危機だから我慢しろ」の論理なのか

 高市首相の国会での不用意な発言が外交問題に発展しています。これと同時に、最低賃金1,500円目標が事実上撤回されるとの発言もありました。

高市総理が石破政権の最低賃金目標を事実上撤回 「2020年代に全国平均1500円」を明示せず「政府として統一したものはない」 | TBS NEWS DIG (1ページ)

 この一見無関係な二つの動きは、「周縁を無視し、中心の論理を優先する政治的思考」という点で共通性がありそうです。この現状を生成AIとの対話を通じて、中沢新一氏の著作『カイエ・ソバージュ』が説く**「欠落」**の概念から分析、考察してみます。

 

 

日本が抱える「欠落」を否定する政治

カイエ・ソバージュ』において、中沢氏は、民話や神話や思考の根源は**「欠落」から始まると説きます。欠落とは、解決できない矛盾や、システムの外にある周縁的なものであり、これこそが新しい知恵や力が生まれるエネルギー源**とします。

 しかし、現在の政権は、外交における「不測の事態」も、経済における「低賃金」も、この「欠落」を直視せず、「成長」の名のもとに排除しようとする傾向を強めています。

1. 「格差」という名の欠落の構造的無視

 最低賃金1,500円という目標の断念は、「低賃金で苦しむ労働者」や「拡大する格差」という名の社会の最も痛々しい「欠落部」を、構造的に無視する行為です。

  • 政治の論理: 「企業体力を守り、技術に投資することこそが、経済成長となって、長期的には国益になる」という集団的合理化が働いています。
  • 中沢氏の視点: これは、「中心の論理(競争力の回復)」のために、「周縁の声(生活)」を切り捨てる行為です。本来、その痛々しい「欠落」こそが、「経済を根本から作り変える」という新しい政策の動機となるべきはずです。
2. 「成長」という名の閉鎖システム

 高市首相の経済安全保障は、「日本企業が国際競争で勝つ土台を作る」という論理であり、最終的には「強い日本」という閉じられたシステムを構築しようとするものに見えます。

  • 欠落の排除: このシステムは、「安易な分配」や「財政規律」といった、目標達成を邪魔する異質な要素(欠落)を排除しようとします。
  • 「野生の思考」の抑圧: 賃金問題という「矛盾」を解決せず放置することは、「成長の果実を全員が享受できるのか?」という根本的な問いかけ、すなわち「野生の思考」を、「危機だから我慢しろ」という論理で抑圧することに他なりません。

「野生の思考」とは、欠落や矛盾をエネルギー源とし、世界を流動的で開かれたものとして捉え直す力を持っています。中沢氏にとって、欠落は閉鎖的なシステムを壊し、新しい知が生まれる「外側」への窓なのです。

危機回避は「欠落の受容」にあり

 最低賃金1,500円を目指さないという判断を、単なる「悪いニュース」で終わらせてはなりません。中沢氏の教えに従い、この「欠落」を、新しい物語を創り出すエネルギー源として捉え直すべきです。政権が目指す企業優先の方針を「国民優先」へ転じる道を模索すべきなのです。

 なぜなら、現代の経済・経営戦略において、持続的な成長と競争力強化のための必須戦略として「賃金はコストではなく、人への投資である」という人的資本経営の考え方が定着しつつあります。

「欠落の受容」を「効率的投資」に転換する処方箋

 真のリーダーシップとは、この**「人的資本の欠落」を「無駄なコスト」として排除するのではなく、「国家機能の回復に不可欠なボトルネック」**として認識し、最も効率的な投資対象と位置づけるべきです。

1. 人的資本の最大化(生産性向上)

 企業が賃金を引き上げ、研修やスキル開発に投資することは、従業員のモチベーションと**ロイヤルティ(忠誠心)**を高めます。

 結果、従業員一人ひとりの生産性、創造性、定着率が向上し、結果として企業のイノベーション能力やサービス品質が高まります。これは、低賃金で高離職率の従業員を使い潰すよりも、長期的には遥かに高いリターンを生み出すという考え方です。

2. 内需拡大と経済成長の駆動

 マクロ経済の視点では、賃金を引き上げることがデフレ脱却と持続的成長の鍵となります。労働者の手取りが増えることで、個人消費内需)が刺激されます。内需の拡大は企業の売上増加につながり、さらに投資と賃上げを促すという「経済の好循環」を生み出します。

背景: 日本が長年苦しんできたデフレは、企業が賃金をコストと見なし続けた結果、消費が冷え込んだことに主要な原因があるという認識に基づいています。

3. 安全保障の土台強化(レジリエンス

 賃金が投資であるという視点は、経済安全保障の観点からも重要です。

  • 人的資本の欠落の解消: 賃金を投資とすることで、**「低賃金による人的資本の劣化」(労働意欲、スキル不足)**という構造的な欠落を解消できます。
  • 国家の強靭性: 国の安全保障を支える先端技術や基幹インフラは、最終的に質の高い人材によって維持・革新されます。賃金を惜しむことは、この**「国家の強靭性(レジリエンス)を支える土台」を自ら崩す行為であるため、賃上げは「国家生存のための戦略的な投資」**と見なされるべきです。

 

 

論語でまとめ

人遠き慮(おもんぱか)り無ければ、必ず近き憂え有り。「衛霊公第十五」12

 遠い未来まで見通して深く配慮する心構えがなければ、必ず近いうちに、思いがけない心配事が起こるものであると孔子は言いました。

 一見論理性があるように見える政府の諸々の政策も実は遠い未来で見通して計画されたものではないのかもしれません。それゆえ、所外国の思わぬ反応にたじろいでしまったりするのではないでしょうか。

 中沢氏の視点を取り入れ、現在の日本が抱える「多くの欠落部」を、単なる問題(ネガティブ)として終わらせず、むしろ「新しい物語と知恵を生み出すための、未開拓なエネルギー源(ポジティブ)」とすべきなのではないでしょうか。「人への投資」を積極的なものとし、それによってもたらされる恩恵が次の成長の原資とすべきなです。

 むやみに優位性のない領域での消耗戦を求めるのではなく、それを積極的に回避し、土俵そのものを変えることで優位を確立する戦略が求められます。孫子の兵法における「戦わずして勝つ」です。現代の経済安全保障においても非常に重要な概念のはずです。

 

「参考文書」

中国、日本への渡航回避を通知 高市首相の台湾有事発言、報復か:時事ドットコム

 

 


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(今日の中国の歌。台湾の李翊君の「七情六慾」1998年リリース。とあるシンガポール人の十八番でした。ギターの音色が印象的で記憶に残っています。それにしても、緊張を高めるのが政治の仕事なのでしょうか。それが論理の中心になるから無理が生じるのではないでしょうか。もっと思いやりとまごころの政治にならないものですかね)