前回、私は「現金のみ」スーパーの出現を機に、日本のポイント経済圏の熾烈な競争がムダを生み出していると指摘しました。
「現金のみ」スーパーが暴く、ポイント経済圏の"ムダ"と低生産性の病 【ポイント経済圏疲れとZ世代①】 - 「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著
しかし、このムダは単なる販促費の膨張に留まりません。これは、企業のリソース、時間、そして未来の成長を食い潰す「沈黙のコスト」として、日本全体の生産性向上を妨げています。
なぜ、私たちはこれほど非効率な戦いを続けているのでしょうか。それは、競争の軸がグローバルな進化から遅れているからです。
1. コトラー理論が暴く「競争の軸」の遅れ
近代マーケティングの父、フィリップ・コトラーは、企業の焦点を製品(1.0)から顧客(2.0)、そして**価値(3.0)**へと進化させてきました。
現在の日本のポイント競争は、主に顧客生涯価値(LTV)の最大化を目指すマーケティング2.0の手法(顧客をポイントで囲い込む)に留まっています。
しかし、コトラー理論が最新のマーケティング5.0で提唱するのは、AIとデータを活用し、顧客に**シームレスでストレスのない最高の「体験(CX)」**を提供することです。
❌ 競争のムダ:体験より還元率
熾烈なポイント還元競争は、この「体験」を阻害しています。
- 企業:ポイント負債と複雑なシステム維持費という非生産的なムダに資金と人材を投じる。
- 顧客:「経済圏疲れ」として、アプリ切り替え、条件確認といった時間のムダを強いられる。
つまり、ムダな還元コストを増やした結果、顧客に提供すべき**「タイパ(時間効率)」の良い体験**が提供できていないという、競争と生産性の矛盾が生じているのです。
2. 世界との対比:日本の「乱立」が生む非効率
ポイント経済圏の競争は世界でも見られますが、その形態は大きく異なります。この海外の事例と比べると、日本の競争がいかに非効率かが見えてきます。
① コア・エコシステム型の優位性(米国・中国)
米国のAmazon Primeやグローバル企業のStarbucks Rewards は、ポイント還元だけに頼りません。彼らは、自社の強力なプラットフォームを軸に、**「オンデマンドな動画視聴」「パーソナライズされたオーダー」**といった、**利便性(体験)**そのものを顧客への特典として提供しています。
- ポイント: 彼らは、ムダな競争を避け、自社の強みを活かした独自の価値(ブルー・オーシャン)で顧客を囲い込んでいます。
② 日本の「共通ポイントの乱立」が招く非生産性
日本は、巨大資本を持つ企業が、通信、金融、流通といった異なるインフラを背景に、複数の共通ポイントで互いに顧客を奪い合う**「乱立競争」**が特徴です。
この結果、企業間で顧客を奪い合うための多額の広告費や、連携・統合のためのシステム調整費といった、**「誰の得にもならない非生産的なコスト」**が天井知らずに増え続けています。
3. 日本経済を蝕む「リソースの非効率な配分」
このムダな競争の最大の被害者は、日本経済の未来を担うべき人材と資金です。
- 人材の浪費: 優秀なエンジニアやマーケティング人材が、ポイントシステムのごくわずかな還元率の調整や、複雑な連携アプリのバグ修正など、付加価値の低い業務に時間を奪われています。彼らの創造性は、本来、新しいイノベーションや国際競争力を高めるために使われるべきです。
- 資金の偏重: 企業が捻出した資金は、本来、研究開発(R&D)や従業員の賃上げといった生産性に直結する投資に回すべきです。しかし、それがポイント還元という**「一時的な販促コスト」に消えていくことで、構造的な生産性低下**を招いています。
ムダを排し、「本質」への投資へ
私たちは、インフレで生活が苦しい今だからこそ、この**「ムダな競争」の正体**に目を向ける必要があります。
企業は、ポイント還元という古い軸から脱却し、決済手数料の削減、そしてコトラー5.0が提唱する**「シームレスな体験」**への投資へと、リソースの配分を切り替えなければなりません。
論語でまとめ
詐(いつわり)を逆(むか)えず、不信を億(はか)らず。抑(よ)亦(また)先覚(せんかく)なる者は、是(こ)れ賢)なるか。(「憲問第十四」31
人は私を欺くだろうと前もって決めつけたりせず、人は信義に背くだろうとあらかじめ推測したりしない。それにもかかわらず、人の本心や将来の成り行きをいち早く察知できる者こそが、賢者と言えるのではないかと孔子は言いました。
この章は、他人の言動に対して先入観を持たず、無用の疑いをかけない姿勢を説いています。その上で、経験や洞察力によって自然と物事の真偽や本質を見抜くことができる人物こそが、真の賢者であるといいます。真実を見抜く目を持つことの重要性を示唆しています。
次回の記事では、このムダを排し、不確実なインフレ時代を生き抜くための起業家的な思考法、エフェクチュエーションについて解説します。
「参考文書」
タイパ社会へのカウンター? 脱・予定調和で“ムダ”を求める生活者:日経クロストレンド
決算:楽天Gの最終赤字1512億円 1〜9月、携帯事業は赤字縮小 - 日本経済新聞
(今日の中国の歌ではなく、日本語の歌。美空ひばりさんの「川の流れのように」。シンガポール人が歌うこの歌がとても印象的で今でも記憶に残っています。忙しく働いていたときに心になごむ歌声でした。その歌詞にちょっとしんみりもしたものです。)



