私たちは今、大きな経済的な「違和感」の中に生きています。日経平均株価は過去最高値を更新するような高水準を維持し、メディアも「企業の好業績」を報じます。しかし、あなたの生活はどうでしょうか?毎日の買い物では物価が高騰し、頑張って働いても実質賃金は下がり続けている――多くの人が、この「企業は好調、自分は苦しい」という現状に、切実な生きづらさを感じているはずです。
この「違和感」に対し、エコノミストの河野龍太郎氏と熊野英夫氏は、財界オンラインで鋭い「正論」を投げかています。
河野氏: 今の株高と企業の好調は、**「家計の犠牲」**の上に成り立っている。
熊野氏: 今の物価高は明らかに**「輸入インフレ」**であり、短期の対策だけでなく長期の視点が必要。
彼らの指摘は、単なる景気批判ではなく、日本経済の構造的な不均衡を正確に突いた「事実」に基づいています。
しかし、なぜ私たちは、この痛烈な「正論」を知りながら、行動を変えられないのでしょうか?なぜ政府も企業も、この不均衡を是正する道を選べないのでしょうか?
それは、私たち自身、そして政府や企業までもが、過去の成功体験や短期的な常識という名の「呪い」に縛られてしまっているからです。本記事では、この「エコノミストの正論」を妨げ、日本経済を停滞させている見えない「呪い」の正体に迫ります。

2025年のみ、年平均ではなくデータ最新値を使用しています。
(このグラフが示すように、過去数年間で日経平均株価は力強く上昇しました。しかし、同時に追跡した実質賃金指数は、一貫してマイナス圏を彷徨っています。これは、『デフレマインドの呪い』が解けていない日本経済の最も痛ましい証拠です。企業の利益が株主還元に偏り、私たちの実質的な購買力を押し上げるところまで至っていない現状を、この二つの線の乖離が雄弁に物語っています。)
❓ エコノミストの「正論」を阻む、見えない「呪い」とは何か?
私たちの思考や行動を縛る「見えない力」こそが、この議論における「呪い」の正体です。
「呪い」とは、超自然的なものではありません。それは、根拠が薄れたにもかかわらず、社会の「常識」や「前提」として機能し続け、私たちの判断や選択を無意識のうちに制限してしまう思考パターンのことです。
📌 経済における「呪い」の作用
この「呪い」が、政府や企業といった大きな組織にかかると、河野氏や熊野氏が指摘するような「構造的な不均衡」を生み出し、最適ではない行動を正当化し続けます。
| 「呪い」の根源 | 経済への作用 |
| 過去の成功体験 | 環境が変わったにもかかわらず、過去にうまくいった手法(例:金融緩和、コストカット)を唯一の正解だと固執し、新たな問題(例:輸入インフレ)への対応を遅らせる。 |
| 短期的な視点 | 構造改革などの長期的に効果があるが痛みを伴う策を避け、選挙や株価に即座に反映される短期的な対策(例:補助金、内部留保)に走ってしまう。 |
| 思考の硬直化 | 「人件費はコストである」「企業は株主のためにある」といった、デフレ時代に染み付いた旧来の常識から抜け出せず、新しい経済構造(例:賃上げによる需要創出)への転換を妨げる。 |
次のセクションでは、この「呪い」が具体的に政府と企業にどのように作用し、「家計の犠牲」という現状を生み出しているのか、一つずつ解き明かしていきます。
🏛️ 政府・政策を縛る「二重の呪い」:デフレマインドと短期主義
エコノミストの熊野氏が「短期の対策だけでなく長期の視点を」と訴えるにもかかわらず、政府が構造的な問題解決に踏み込めないのは、二つの強力な「呪い」に縛られているからです。
第一生命経済研究所首席エコノミスト・熊野英生「今の物価高は明らかに輸入インフレ。短期の対策だけでなく長期の視点を」 | 財界オンライン
呪い①:「デフレマインドの克服」という名の呪い
- 呪いの根源: 過去数十年にわたるデフレとの闘いの中で培われた「何よりもデフレ再燃を恐れる」という強迫観念。
- 呪われた行動:熊野氏の指摘通り、現在の物価高の多くは円安と海外コスト増による輸入インフレ(コストプッシュ型)です。本来、これには国内需要を冷やす金融引き締めは不適切ですが、一方で、政府は「デフレからの脱却」を強く意識しすぎるあまり、異次元の金融緩和を招く政策を容認し続けています。結果、円安が加速し、輸入物価が高騰。家計の購買力が失われ、かえって国内の経済活動の足枷となっています。「デフレを克服せよ」という目的が、かえって家計を苦しめるという皮肉な結果を招いているのです。
呪い②:「短期的な人気取り」という名の呪い
- 呪いの根源: 構造改革の痛みを伴う政策よりも、国民受けしやすい対策を優先するという政治的なインセンティブ。
- 呪われた行動:例えば、エネルギーや食料品への時限的な補助金は、家計にとっては短期的にありがたい「飴」です。しかし、これは熊野氏が求める「長期の視点」ではありません。本当に必要なのは、日本の国際競争力や生産性を上げるための労働市場の柔軟化や産業再編といった痛みを伴う構造改革です。しかし、これらは選挙前に実行しにくく、「人気取り」という呪いによって、効果が長続きしない対症療法ばかりが繰り返されてしまいます。
🏢企業・経営を縛る「二重の呪い」:株主至上主義と賃金の硬直性
河野氏が指摘する「株高と家計の犠牲」の不均衡は、企業側の行動に深く根差した二つの「呪い」によって生み出されています。
BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎が日本の現状を読み解く「今の株高と企業の好調は、家計の犠牲の上に成り立っている」 | 財界オンライン
呪い③:「株主資本主義」の過度な追求という名の呪い
- 呪いの根源: 企業の利益は株主への還元を最優先すべきであり、短期的な株価上昇こそが絶対的な正義である、という思考の偏り。
- 呪われた行動:企業が円安などで過去最高の利益を上げたとしても、その資金は賃上げや未来の成長投資ではなく、内部留保や自社株買い(株主還元)に偏重されます。これにより、株価は押し上げられますが、労働者への分配は進まず、河野氏の言う通り「家計の犠牲」によって企業が潤う構造が固定化してしまいます。この呪いは、「会社は誰のものか」という根源的な問いを歪めています。
呪い④:「人件費はコスト」というデフレ時代の呪い
- 呪いの根源: 長期のデフレ下で「人件費=削減すべきコスト」という認識が、経営者の間に深く染み付いてしまったこと。
- 呪われた行動:インフレが明確になった現在でも、企業は賃上げを「仕方なくやるコスト増」として捉え、自発的に付加価値を高める「未来への投資」として捉え直すことができません。
賃金を抑え続けることは、社員のモチベーションを低下させ、優秀な人材を流出させ、結果的に「生産性を上げる」という企業の長期的な目標を阻害します。これは勅使川原真衣氏が著作『 「働く」を問い直す 誰も取り残さない組織開発 』でも指摘しています。
💡 呪いの連鎖を断ち切れ!「諦め」を「行動」に変えるために
政府と企業にかかる四つの「呪い」を見てきました。これらの呪いが連鎖することで、「正論」が機能せず、構造的な不均衡が固定化し、結果として私たちの未来への不安が増幅しているのです。
しかし、私たちはこの状況をただ傍観し、「日本に未来がない」という「諦めの呪い」を受け入れる必要はありません。
📌 呪いを解くカギは「問い直し」にある
鈴木祐氏の著書『社会は、静かにあなたを「呪う」』が「呪い」を解くことを目的としているように、この経済の呪いを解くカギは、「思考停止」を脱し、「前提」を徹底的に問い直すことにあります。
| 呪われた「前提」 | 問い直すべき「真実」 |
| 「人件費はコストである」 | 「人件費は、未来の付加価値を生むための投資である」 |
| 「短期的な対策が国民を救う」 | 「長期的な構造改革こそが、国民の持続的な豊かさに繋がる」 |
| 「日本経済はもうダメだ」 | 「構造的な問題があるからこそ、変革の余地がある」 |
📌 私たち一人ひとりが取るべき行動
企業や政府の呪いは根深く、個人でできることは限られていると感じるかもしれません。しかし、私たち一人ひとりの「選択」こそが、社会を変える唯一の力です。
- データ武装と思考停止の拒否: 感情的なニュースや「未来がない」という断定的な言説に流されず、河野氏や熊野氏のような客観的なデータに基づいて現状を理解する力を養いましょう。「呪い」を見破る力を持つことです。
- 自分の価値への意識的な投資と流動性の活用: 企業が賃上げを躊躇し、デフレマインドの呪いに縛られているなら、あなた自身が市場価値を高め、その価値に見合った対価を支払わない企業は見限りましょう。 なぜなら、これはあなた自身のキャリアにとっての賢明な投資であると同時に、労働の流動性を高め、「賃金を渋る企業は優秀な人材を失う」という市場のルールを適用させる、社会的な対抗策にもなるからです。
- 「消費」を通じて企業に投票する: 持続的な賃上げや環境への配慮など、長期的な視点を持つ企業の商品・サービスを積極的に選びましょう。あなたの消費行動は、企業の**「株主至上主義の呪い」を解き、「従業員への投資」**を促す強力な「一票」となります。
「呪い」とは、本質を見失った思考の習慣です。
私たちは、エコノミストの正論を「耳の痛い話」として終わらせるのではなく、自らの未来を奪う「呪い」を解くためのロードマップとして受け取るべきです。構造的な不均衡に目を背けず、行動を変えること。これこそが、私たちが取り戻すべき、真の「未来」への一歩となるのではないでしょうか。
論語でまとめ
法語の言は、能(よ)く従うこと無からんや。之を改むるを貴(とうと)しと為す。
巽与(そんよ)の言は、能く説(よろこ)ぶこと無からんや。之を繹(たく)するを貴しと為す。説びて繹せず、従いて改めずんば、吾(われ)末(つい)に之を如何ともする末(な)きのみ。(「子罕第九」24)
正しい道理を説いた厳しい忠告「正論」の言葉は、誰でも素直に聞くだろう。しかし、ただ聞くだけでなく、その意味を深く理解し、自らの行いを改めることが大切だ。相手の気持ちを和らげるような穏やかで調子の良い言葉「穏やかな賛辞」は、誰でも喜んで聞くだろう。しかし、ただ喜ぶだけでなく、その言葉の裏にある真意や道理を深く探り考えることが大切だ。もし、喜んで聞くだけで真意を探り考えず、素直に聞くだけで自らを改めないようでは、私にはどうすることもできない、成長の見込みがないねと孔子は言いました。
受け身で言葉を受け止めるのではなく、常に深く考え、自らの成長に繋げようとする主体的かつ思慮深い姿勢が重要であると孔子は説きます。
政治家とか企業トップはどうなのでしょうか。まさか自分にとって都合の良い耳障りの良い言葉を聞いているということはないとは思いたいですが....
(今日の中国の歌ではなく、英語の歌で。U2の「One」。Mary J. Bligeとのコラボバージョン。大好きな動画のひとつです。Maryがカッコよく、しびれます。話は変わりますが、高市首相が国会で「存立危機事態」に言及していました。ちょっとこわい話です。呪われていることはないのかと感じます。「高市首相、武力行使をともなう台湾有事は「存立危機事態になり得る」 中国を名指し 異例の言及:東京新聞デジタル」)


