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ノーベル経済学賞から見える「日本の危機」 ~ 経済成長の停滞と「政治倫理」の関係

 今年2025年のノーベル経済学賞は、ジョエル・モキイア氏、フィリップ・アギオン氏、ピーター・ホーウィット氏の3人でした。「イノベーション(技術革新)主導の経済成長の解明」が授賞の理由です。

ノーベル経済学賞、技術革新と成長の研究 トランプ政策を批判 | ロイター

 この研究では、テクノロジーがどのように新しい製品や生産方法を生み出し、古いものに取って代わり、生活水準、健康、生活の質を向上させるのかを説明しています。研究の核心は、「創造的破壊」—古いものを破壊し、新しいものを創造する痛みと成長のサイクル—が持続的な繁栄には不可欠だということです。

 

 

 日本が30年間停滞したのは、この「破壊」が起こらなかったからではないでしょうか?

破壊なき世界:日本経済の「現状維持バイアス

 アギヨン氏は、持続的な成長には既存の非効率な企業や産業が退場し、新しいイノベーターが市場を奪うという「破壊」のプロセスが不可欠だと主張します。長期にわたる日本の低成長は、この「破壊」が十分に機能していないことの裏返しとも言えます。政府や金融機関による既存企業への過剰な保護、終身雇用制度など、変化を嫌う硬直的な制度が「破壊」を遅らせ、生産性の低い企業が市場に残り続けています。

 日本が成長を取り戻すには、政府は安易な救済ではなく、市場の競争を促進し、新しいイノベーションを阻害する既存の利権や規制を「破壊」する介入を優先する必要がありそうです。

「命の経済」 vs. 「政治の利益」 ~アタリ氏の警鐘

 フランスの知性ジャック・アタリ氏は、「命の経済」(公共の利益、環境、教育)への転換を訴えます。これこそが、人類存続の鍵といいます。

ジャック・アタリ独占インタビュー、日本は世界初の「命の経済国」になれる | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 これに従えば、日本は、環境対策(グリーンイノベーション)、医療・教育のDXなど、真に「命の経済」に必要な分野へ資金と人材を振り向ける必要があります。この考えは、ノーベル経済学賞を受賞したアギヨン氏の理論、経済成長とは、イノベーションを通じて非効率な企業が退場し、新しい企業に資本と人材が流れる新陳代謝のプロセスとです。両氏の研究は、一見すると悲観論と楽観論に分かれているように見えますが、実は現代資本主義に対する認識の核で深く共鳴し、補完し合っています。この3つの研究を重ね合わせることで、現代の課題解決には「技術」と「倫理」の両面からのアプローチが必要だという示唆が得られます。

政治の倫理性の問題提起

 アギヨン氏の「創造的破壊」の理論は、イノベーション促進のための政治の介入を提言していますが、同時に、介入の失敗や不正がもたらすリスクについても示唆しています。この「戦略的な介入」が成功するかどうかは、介入を行う政府の公平性にかかっています。

創造的破壊を阻害する「レントシーキング」のリスク

「政治とカネ」の問題は、経済学でいう「レントシーキング(Rent-Seeking)」の温床となるといいます。

「レントシーキング」とは、企業や団体が、生産的な活動ではなく、政治的な働きかけ(献金、ロビー活動など)を通じて、規制緩和補助金といった優遇措置(レント=超過利潤)を得ようとする行為をいいます。「レントシーキング」が蔓延すると、政府による資金供給や規制緩和の恩恵が、真に破壊的なイノベーションを目指すスタートアップや競争力のある新しい企業ではなく、政治的なつながりを持つ既存の非効率な企業に偏るおそれもあるといいます。これは、アギヨン氏が理想とする「過去のイノベーターが未来のイノベーターの邪魔をするのを防ぐ」という競争促進の原則に真っ向から反します。

「命の経済」を歪める公共性の喪失

 アタリ氏が訴える「利他主義」に基づく「命の経済」への移行は、公平な社会基盤が前提です。医療、教育、環境対策など、「命の経済」の分野への財政支出は、国民全体の利益と公平性に基づいて配分されなければなりません。しかし、政治とカネの問題は、この公共的な財源が特定の団体や業界に不透明に流れ、格差を固定化するリスクを高めてしまいます。国民の多くが、政府による戦略的な介入が「国民全体の利益」ではなく「特定の政治家や支援者の利益」のために行われていると疑念を持てば、どんなに経済的に正しい政策(例:炭素税やリスキリングへの支出)であっても、国民の信頼を失い、介入の正当性の喪失となって、実行そのものが困難になります。

 

 

 創造的破壊を阻む「信頼の危機」

「政治とカネ」の問題は、なぜノーベル経済学賞の提言を実現する上で致命的なのでしょうか?

 政治献金や不透明な資金の流れが、補助金規制緩和を「イノベーションの担い手」ではなく「政治的つながりを持つ既存の非効率な企業」へと歪めます。政治的な働きかけによる超過利潤(レント)追求が横行すれば、真のイノベーターは資金を得られず、「創造」のプロセスそのものが停止することになります。

 国民が「政府の介入は、自分の利益ではなく特定の支援者のために行われている」と感じるなら、どんなに正しい成長戦略も機能しません。政治の信頼性こそが、経済成長のための「インフラ」なのです。

🌾 コメ政策に見る「創造的破壊」の停滞

 アギヨン氏の理論では、持続的な成長のためには非効率な資源利用(土地、労働力、資本)が市場から淘汰され、効率的なイノベーターに再配分される必要があります。日本のコメ政策は、長らくこの「破壊」を意図的に阻害してきました。コメ政策は、農業団体の組織票と政治献金を背景に、特定の利益団体に有利な政策が維持されやすい構造を持っています。これは、アタリ氏が懸念する「利己主義」による公共性の歪みの典型です。また、現在の農政は、高コスト体質の維持や環境負荷の高い農法を助長する側面があり、真の意味での「命の経済」への転換を妨げています。

 コメ問題は、構造改革(創造的破壊)の必要性と、その改革を阻む政治的な利己主義(レントシーキング)の連鎖が、最も長く、深く根付いている日本の構造的な課題の例といえそうです。

熱狂から「真の成長」への目覚め

 今、日本に必要なのは、特定の政治家への熱狂ではなく、「公平なルール」と「未来への戦略的な投資」を実現できる政治に対する冷静な監視と要求です。政治の倫理と透明性の回復なくして、ノーベル経済学賞が示す「イノベーション主導の持続的成長」はあり得ません。真の経済成長のため、私たちは政治に「公平性」を問うべきなのです。

論語でまとめ

季康子、政(まつりごと)を孔子に問う。孔子対(こた)えて曰く、「政は正なり。子 帥(ひき)いるに正を以てせば、孰(たれ)か敢(あ)えて正しからざらん。( 「顔淵第十二」17)

 季康子が孔子に政治の要諦を問いました。「政治とは、すなわち正しくあることです。あなたが率先して正しい行いをすれば、誰が正しくあろうとしないでしょうか(皆、自ずと正しく振る舞うようになるでしょう)」と孔子は言いました。

「為政者」政治を行う者の姿勢の重要性を説いています。孔子は、法律や罰則で人々を強制するのではなく、リーダー自身が道徳的に正しい行いを実践することで、民衆も自然とそれに倣うようになると主張しています。これもまた今年のノーベル経済学賞に通ずる言葉ではないでしょうか。さて、日本の政治はどうなんですかね。

 


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(今日の中国の歌もお休みで、英語の歌。Bob Dylanの「Forever Young」。1974年リリース。生まれてきた息子に向けて、こう育ってほしいという父親からの思いを伝えるために作ったと言われています。「いつも勇気を失わず、まっすぐに立ち、強くあるよう、いつまでも、若くあれ」とディランは歌います。心しびれるバラードです。米国競馬のGⅠレースのBCクラシック(2000メートルダート)で日本の「フォーエバーヤング(4歳牡馬、坂井瑠星騎乗)」が優勝しました。BCクラシックはダートの世界最高峰競走で、日本馬の制覇は初めてだそうです。単純ですが、ディランの歌を思い出しました。大谷さんのドジャースワールドシリーズ制覇👏 日本のスポーツは好調なんですがね)

 

「参考文書」

ノーベル経済学賞はイノベーションが主導する経済成長を解明した3教授に授与、なぜ1820年に突如として経済成長が始まったのか? | 経済学 | 東洋経済オンライン

ノーベル経済学賞にモキイア氏ら、新技術による経済成長を解明 - 日本経済新聞