「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

彼が遺したもの、問い続けなければならないこと、野田氏の追悼演説

 

 野田佳彦元首相が追悼演説をされました。

安倍晋三とはいったい、何者であったのか。あなたがこの国に遺したものは何だったのか。そうした「問い」だけが、いまだ宙ぶらりんの状態のまま、日本中をこだましています。(出所:NHK

【全文】野田元総理「私はあなたのことを 問い続けたい」 追悼演説 | NHK政治マガジン

 言葉の力を感じる追悼だったのではないでしょうか。

 光と影、その功罪の輪郭が薄らぼんやりと見えたのかもしれません。

 菅前首相の弔辞でもそうでしたが、やはり故安倍首相には人を惹きつける力とリーダーの才覚があったのでしょう。それはもしかして野田氏が指摘した挫折の中で培ったものかもしれません。

 不屈の闘志と再チャレンジの精神。強力なチームを作り上げ、優先順位を違えなければ、目標の達成に近づくことできます。国をよくしたという大きな志をもち、それが自身の目標となったのでしょうか。そうしたことに私たちが見習うべきことがあるのかもしれません。

 

 

 しかし、時に手段を選ばず、時に強引に国を導く手法は批判の的になりました。手段を選ばずに、過程を重んじることのない目標は野望と化すようになっていくのかもしれません。

 もう少し遵法精神に徹し、徳を重んじることがあれば、その尊大さ、傲慢さという影が薄らぎ、この国はもっと違った方向に導かれることになったのかもしれません。

 また、「法に触れていない」というような不誠実な人物が大臣に任命され、その徳の薄さから辞任するようなこともなっかたのかもしれません。

英雄と悪漢

「真の英雄は天寿を全うする」と私の友はいっていました。他者に恨みを買うでもなく、まして凶弾に倒れることもない。

 友はよく坂本龍馬を事例にしていました。龍馬が襲撃され若死にすることがなかったのなら日本はもっと違っていたのかもしれない.....、その時代に急進的過ぎる思想は不平を買うことになったのでしょう。龍馬の人間的魅力とその思想が時代を動かしたのかもしれませんが、龍馬の理想はそのとき実現することはありませんでした。

 私の友にすれば、龍馬は奸知に長けた奸物に過ぎない、それは時の権力者の見方と同じだったのかもしれません。それ故の悲劇だったのでしょうか。

 

 

 野田氏は、民主主義の必要性を説き、「私たちは、言論の力を頼りに、不完全かもしれない民主主義を、少しでも、よりよきものへと鍛え続けていくしかない」といい、「あなたの命を理不尽に奪った暴力の狂気に打ち勝つ力は、言葉にのみ宿るからです。暴力やテロに、民主主義が屈することは、絶対にあってはなりません」と訴えました。

 防衛費の増額が俎上に上がってきています。国を守るためといえば、聞こえはいいですが、しかし、武力を増強すれば、凶器になりかねません。

 国をいかに守るということも安倍氏の残してくれた遺物なのでしょう。民主主義のもと、十分な議論をしなければ、その遺志を引き継ぐことにはならないのでしょう。

論語に学ぶ

与(とも)に学ぶ可(べ)きも、未だ与に道に適(ゆ)く可からず。与に道に適く可きも、未だ与に立つ可からず。与に立つ可きも、未だ与に権(はか)る可べからず、と。

唐棣(とうてい)の華、偏(へん)として其れ反せり。豈(あに)爾(なんじ)を思わざらんや。室(しつ)是れ遠し、と。子曰わく、未だ之を思わざるか。何の遠きことか之有らん、と。(「子罕第九」30)

「その人と共に学ぶことができたとしても、その人と人の道を行くことができるわけではない。その人と人の道を行くことができたとしても、その人と信念を同じくして世に出ることができるわけではない。その人と同じ信念で世に出たとしても、その人と一つ一つのできごとに対して同じ判断を下せるわけではない」と意味します。

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 後段の「唐棣」とはニワザクラのことで、その咲き方は普通の花とは反対に、まず開いた後で、花びらが蕾のように合するそうです。この詩句はいわゆる「逸詩」で、孔子は俗謡を引いて、いかに遠くても愛はそれを近づけるという意味といわれます。

「人と人とが合致することは学問の上でも、実生活においても、至難ではあるが、人間社会には愛というものがあると言いたかったのでしょうか。

 

 

 野田氏は、「あなたがこの国に遺したものは何だったのか」と問いかけました。さらに「その「答え」は、長い時間をかけて、遠い未来の歴史の審判に委ねるしかないのかもしれません。そうであったとしても、私はあなたのことを、問い続けたい」と続けました。

 そして、「国の宰相としてあなたが遺した事績をたどり、あなたが放った強烈な光も、その先に伸びた影も、この議場に集う同僚議員たちとともに、言葉の限りを尽くして、問い続けたい。問い続けなければならないのです」と語りました。

 安倍晋三氏、英雄と呼んでいいのでしょうか、それとも奸物だったのでしょうか。

歳 寒くして、然(しか)る後に松佰(しょうはく)の後れて彫(凋)(しぼ)むを知る。(「子罕第九」28)

 寒いと、常緑樹以外の樹木は早く枯れ萎み、そのときになって、松、伯が他の木々よりも遅れて萎むことを知ると意味します。

 その後に残ったものは何だったのでしょうか。安定なのか、それとも混乱だったのでしょうか。

 いずれにせよ、彼が7年余りの歳月で敷いた路線の延長に私たちの未来はあります。過去は変えることはできなくとも、未来は変えることができます。「よくよく考えよ」、それが安倍氏が遺してくれたものなのでしょう。

 

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