下落する円のチャートを眺めていると、いつまで日本がもつのだろうかと思ってしまいます。
円安で期待できるのはインバウンド特需、その効果は日銀が為替介入した200億ドル規模の円買いよりも円安を是正するには効果が大きいとの意見もあるそうです。
こうした背景があってか否かのことかはわかりませんが、首相が「円安メリットを活かすさまざまな企業1万社を支援していく」と語ったといいます。このメリットを生かし海外への展開を考える中小企業を支援すると発表したそうです。
首相の「円安メリット生かす1万社支援」方針に「我が目を疑った」元内閣官房参与の京大教授「そんな暇があるんなら…」:中日スポーツ・東京中日スポーツ
円安を是認した発言に聞こえてしまいます。財界からも円安是正を求める声が上がりつつある中、なぜこうした発言を安易にしてしまうのかと疑問を感じることが増えています。
論語に学ぶ
富と貴きとは、是れ人の欲する所なり。其の道を以てせざれば、之を得るも処(お)らざるなり。貧と賤とは、是れ人の悪(にく)む所なり。其の道を以てせざれば、之を得るも去らざるなり。君子、仁を去りて、悪(いず)くにか名を成さん。君子は終食(しゅうしょく)の間も仁に違うこと無く、造次(ぞうじ)にも必ず是に於いてし、顚沛(てんぱい)にも必ず是に於いてす。(「里仁第四」5)
富と地位は、人間誰しも欲するものでありますが、正当な方法を用いなかった結果であるならば、たといそれを得たとしても私はそこにいない。貧困と低い地位は、人間みな嫌うものでありますが、正しい方法を用いなかった結果であるなら、たといそうなっても私はそこから出ようとはしないと意味します。
『仁は最高の基本的価値であって、財産も地位もそれを動かすことはできず、また仁は日常坐臥いかなる瞬間にも君子の生活の中心にならなければならぬ』
その仁は外に飾り付けたものではないだから、机に向かって冥想しているときだけでなく、どんな瞬間的、また異常な場合にも腹の中におさまっているもの、つまり人間の血肉となっているはずのものだ。だから食事をしている間も仁から離れるわけはない、つまづいて倒れそうなときでも仁を離れないと解されます。
仁の徳を守る人はおのずと富みかつ貴くなるはずであり、不仁者は貧しく賤しい地位に落ちるはずであるという考えに立っているといいます。不幸な例外があるともいいますが、徳なくして富貴となった人物が長くその地位にとどまることはないともみていたようです。
円安是認がはたしていいことなのか。それで苦しむ人が多くいるのなら、それは人の道から外れているということではないでしょうか。
円安を活かすための短期的な刺激はあってもいいのかもしれませんが、それに傾注すればするほど、人の道から外れ、目先の利益に走る人を増やすだけになってしまうのかもしれません。それは長続きせずに、情勢に変化があれば、また苦境に立たされ、人々もまた翻弄されることになってしまうことになるのでしょう。
まずは円安対策なのでしょう。そして、できることなら、これからの日本の未来像を示すべきではないでしょうか。しかし、今の政府にちょっとできそうにはありません。首相にビジョンを描く力、想像力に欠けるところがあるのかもしれません。
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英国では、物価対策で大胆な政策を掲げたトラス政権が、市場の動揺を受けて方針を大転換しました。政局になりかねない事態といいます。
英トラス首相、財務相解任し法人減税撤回 政権の足元揺らぐ | ロイター
たとい看板政策であっても信頼を失うのであれば、転換する勇気を貫く、そういうことなのでしょうか。看板政策にこだわるあまり国民に混乱が生じれば、「仁」人の道から外れてしまうのだから。
自身の政権運営能力に疑義が生じても、国民を混乱に貶めた悪名高き宰相になるよりは、一時の非難を素直に受けれ入れるべきなのかもしれません。
経済同友会が、「『生活者共創社会』で実現する多様な価値の持続的創造」という政府への提言を発表したそうです。政府に対し、出生率改善のため、「中福祉・中負担」の国家に転換するよう訴えたといいます。
経済同友会代表幹事「中福祉・中負担」提言 消費増税や出生率改善 | 毎日新聞
日本の国家像として、社会保障が小さく「自助」を中心にした米国型と、「公助」が手厚い福祉国家の北欧型の「中間を目指すべきだ」(同友会幹部)と提言した。日本には自助、公助に加え、地域社会や社会貢献活動に参加する「共助」の仕組みに強みがあると分析。自助や公助でカバーできない部分を共助が補うことで「経済成長、社会包摂、持続可能性のバランスを保ちながら高い水準になる。それは日本らしさとも言える中庸(の考え方)だ」と指摘した。(出所:毎日新聞)
同友会の提言に100%賛意を示すことはできないませんが、こうした議論が今一番求められているのではないでしょうか。目指す行先がはっきりすれば、為すべきことはおのずと見えるはずです。
国を守れなければ未来はないとの意見もあるのでしょうが、国を守ろうとして増税してまで防衛費を増大させれば疲弊感が増します。防衛費問題は要検討事項なのでしょうが、最優先事項ではないのでしょう。
将来不安の解消が求められているはずです。そのためには国家像をはっきりさせるべきなのでしょう。
「参考文書」