「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【思い邪無し】恥じることのない経営を求めた名経営者、故稲盛和夫さんを忍んで

 

 稲盛和夫氏が亡くなれました。享年90歳。老衰、天寿をまとうされたということでしょうか。

アメーバ経営」「フィロソフィ経営」、そんな言葉を思い出します。稲盛氏の著作を最初に読んだのは「成功への情熱」でした。感動したことを思い出します。悩める後輩にその本を手渡したことを思い出します。

 稲盛和夫さん、京セラの創業者にして、DDI 第二電電を設立、その後、KDDなどと合併してKDDIを誕生させました。2010年には経営破綻したJAL日本航空の再生を託され、2年8か月という異例の早さで再上場を果たすなどした稀代の名経営者でした。JALの再建では、社員に対して採算性の意識を徹底して持たせたといいます。

 

 

論語に学ぶ

詩三百、一言以て之を蔽(おお)えば、曰わく、思い邪(よこしま)無し。(「為政第二」2)

 詩三百篇、一句で断定すれば、「思い邪無し」、こころのままのまっすぐな表われであると意味します。

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 稲盛さんは鹿児島の出身。その鹿児島の名君「島津斉彬」の座右の銘がこの言葉であったといいます 。また稲盛さん半生を振り返った本のタイトルも「思い邪無し」になっています。

 

 

敬天愛人

 人伝に京セラの社是が「敬天愛人」と聞き、この言葉に興味をもったことを思い出します。西郷隆盛のことばで、「天を敬い、人を愛す」という意味です。

道は天地自然の物にして、人はこれを行なうものなれば、天を敬するを目的とする。天を敬い、人を愛し、天を知り、己を尽くし、人を咎めず、我が心の誠の足らざるを尋ねべし。天は人も我も、同一に愛し、給うゆえ我を愛する心を以て、人を愛するなり

京セラは創業3年目の社員の反乱を契機に、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ということを企業の目的にしました。これは、西郷が説く「敬天愛人」の「愛人」であり、広く人々を愛することだと改めて理解しました。(出所:稲盛和夫OFFICIAL SITE)

 資金も実績もない町工場でも、みずからの技術を信じ、私利私欲のためではなく、一緒に働く仲間を信じれば道がひらけると、「敬天愛人」が京セラの社是になったといいます。

郷土愛

 NHKによれば、稲盛さんと親交のあった鹿児島市の森前市長は「郷土愛にあふれた方」と振り返ったとそうです。森氏が市長在任時には、稲盛さんが20億円寄付し「かごしま国際交流センター」が完成したといいます。「大学や高校にも私財をなげうってくださって、郷土愛にあふれた方でした。温かい志に感謝申し上げます」と述べたといいます。

フィロソフィ

 経営哲学「フィロソフィ」、稲盛さんは自身の経験則から編み出されたものといいます。現在の言葉でいえば、「存在意義」パーパスと、「価値観」バリューいうことでしょうか。

人間として何が正しいか」を判断基準に、人として当然、持つべき根源的な倫理観や道徳観、それに社会的規範にしたがって誰に対しても恥じることのない公正明大な経営や組織運営を行っていく重要性を説いた。(出所:NHK

京セラ 稲盛和夫名誉会長が死去 90歳 一代で世界的な企業に | NHK | 訃報

 稲盛氏の経営哲学は、京セラやKDDIのほか、日本航空の経営再建にも生かされましたとNHKはいいます。

 

 

 また、京都の若手経営者が稲盛氏から教えを請いたいと「盛和塾」という勉強会を立ち上げ、国内外のおよそ1万5000人が塾生として参加し、稲盛氏の経営哲学などを学んだといいます。そして、その半数超にあたる7600人は、中国やアメリカなど、海外の経営者といいます。

【追悼】稲盛和夫氏 受け継ぎたいことば | NHK | ビジネス特集 | 訃報

「人として何が正しいのか」「人は何のために生きるのか」という問いに向き合う考え方で、著書にも「大きな志を持つこと」「常に前向きであること」「誠実であること」「挫折にへこたれないこと」といったことばが並ぶ。

具体的な経営手法とはイメージが異なるかもしれない。しかし、稲盛氏は、経営をするうえで、「人として正しいこと」を考え、行うことが最も重要だと説い続けてきたのだ。(出所:NHK

 こうした稲盛さんの言葉に多くの人々が影響されたのがわかるような気がします。意外なことは米中の多くの経営者が稲盛フィロソフィを学んでいたことでしょうか。それが今日の米中の企業の勢いの強さの一因になっていたりするのでしょうか。

 

 

 稲盛和夫さんと関わられた方々が言葉を残されています。

 盛和塾で学んだ愛知県のスーパーマーケットの経営者は、稲盛氏に手紙を送り激怒された経験があるといいます。NHKによれば、自社株の移転にあたって有利な税制について相談しようと手紙で相談したところ、「私欲に根ざすことについてはコメントしません。もっと会社の継続性と社会的意義、従業員のことを考えなければならない」と書かれた返事が来て、稲盛氏の怒りを感じたといいます。

 「2000年の3社合併は、小異を捨て大同団結することで、かつてない歴史的な業界再編に至りました。これは稲盛和夫最高顧問の『真に国民のための通信サービスを提供しよう』という新たな大きな志が導いたものと思っています」と、KDDI田中孝司会長は述べ、高橋誠社長はDDIの設立と同時に京セラから移った人で「稲盛和夫最高顧問の経営哲学がしたためられた『KDDIフィロソフィ』は現在も弊社の礎になっています」と語ったといいます。

 また、稲盛さんによって再建された羽田空港にあるJALの格納庫には、「新しき計画の成就は只不屈不撓の一心にありさらばひたむきにただ想え気高く強く一筋に」という、稲盛さんが会長就任時に社員に送った言葉が記されているそうです。

 ロシアでは、冷戦終結に導いたソ連最後の指導者、ゴルビーこと、ゴルバチョフ元大統領が死去されたといいます。享年91歳。天寿を全うされたのでしょう。

 時代の移り変わりを感じます。稲盛和夫さんのご遺志を語り継いでいくべきとも感じます。稲盛さんは最後の盛和塾で、次のように語っていたそうです。「思い邪無し」ということなのでしょうか。

「フィロソフィを説く私のベースにあったのは、何よりもみんなに幸せになってほしいという純粋な思いでした。『こういう考え方で生きていけば、充実した幸せな人生を送ることができるはずだ』と強く思っていたからこそ、多くの人々にそのことを知らせたかった。

『従業員に素晴らしい人生を送ってほしい』という強い思い、限りない愛がすべての根底になければなりません。経営者本人が常に自らに厳しく規範を課し、人格を高めようとし続ける姿を示すならば、それを見た従業員もおのずからフィロソフィの実践に努めようとするはずです。従業員のために社長が誰よりも苦労している姿ほど、共感を得るものはありません。ですから、会社のなかで経営トップがいちばん苦労しなければなりません。そうすれば、従業員は必ずついてきてくれるものです」(出所:NHK

 心よりご冥福をお祈りいたします。