「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

大き過ぎる衝撃、引きずる遺志、引きずられる人

 

 選挙期間中にあってはならない事件が起こり、衝撃が走りました。その選挙では自民党が大勝しました。異様な雰囲気下での選挙後終わり、首相が党総裁としての記者会見を行いました。感情を揺さぶられたことは理解しますが、一国の宰相として冷静に対処して欲しいと、報道内容をみてはそう感じずにはいられません。

岸田首相、内閣改造など人事「党の結束が大事」: 日本経済新聞

安倍氏の思いを受け継ぎ、特に情熱を傾けてこられた日本人拉致問題憲法改正など、安倍氏自身の手で果たせなかった難題に取り組んでいく。(出所:日本経済新聞

 さらに「安倍氏が残した様々な功績の上にさらなる取り組みを進め、日本を次の世代に引き継いでいかなければならない」と述べたといいます。

 

 

 海外の要人が相次いで弔意を表すほど国際的にも影響があった人であったということなのでしょう。ただ一方で、そうした功績の影には批判もあります。

「世論を二分する国家主義的な政治信条を携え、史上最も長く日本の総理大臣の座にあった」と英フィナンシャルタイムズは評し、英BBCは、「ナショナリスト的で軍備強化を重視する安倍氏の姿勢は、国内に深い分断をもたらした。平和憲法を大切にする一部の国民は、愕然(がくぜん)として強く警戒するようになる」と指摘します。

安倍晋三氏、日本の憲政史上最長の首相が残したレガシー - BBCニュース

人気を誇る一方で批判も多い政治家として、大衆の感情を強く揺さぶることは、安倍氏の政治手法の一部だった。安倍氏は大衆が必ずしも友好的ではないこと、そして批判には対抗していかなくてはならないことを、幼い頃から知っていた。(出所:BBC

 その強い影響力を国際政治でも行使したことはないのでしょうか。自国第一主義が世界的に台頭したことへの影響は国際政治学者の分析に委ねる必要はあるのでしょうが。

 どれが正当な評価とするかは難しいことなのでしょうが、国内を分断するようなことになってはならないのでしょう。それこそ、民主主義への攻撃であり、民主主義の危機に陥ることではないかと感じます。

 

 

論語に学ぶ

子は怪、力、乱、神を語らず。(「述而第七」20)

「怪」は怪異。「力」は信じられないような体力。「乱」とは臣が君を、子が父を殺すといった秩序の破壊。「神」とは鬼神のこと。

 孔子は、そういうことを口にすることを好まなかったといいます。この世にあってはならない非合理的なことだからだということが理由のようです。

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 昨今は秩序の乱れについての議論が増えていないのでしょうか。イデオロギーが単一となればいいのかもしれませんが、現実の世界では様々な思想が存在し、それぞれを信奉する人たちがいます。否定し得ない事実です。孔子ではないですが、不必要に語れば、無用な対立を煽ることになるのかもしれません。

 

 

 選挙期間中におきた奈良の事件を、多くの政治家やメディアが「民主主義への攻撃」とか「テロ」などと表現しました。その衝撃の大きさ故のことだったのかもしれませんが、あまり適切ではなかったように感じます。

テロ、民主主義の根幹揺らす: 日本経済新聞

 容疑者が逮捕され、事件の解明が進むと、政治信条に対する恨みではなく、母親にまつわる個人的な怨みと報じられています。政治的な意図はなかったことにもかかわらず、2021年におきたトランプ前大統領支持者による連邦議会襲撃事件を彷彿とさせる表現は不適切といっていいのではないでしょか。

「目標を大きく超え、与党で改選前議席数を上回るという結果が得られた。いただいた議席の数が示すのは自公政権、岸田内閣への信任だけではない」と、岸田首相は選挙結果を振り返ったといいますが、「だけ」には何の意味があるのだろうと邪推してしまいます。

其の鬼に非(あら)ずして之を祭るは、諂(へつら)うなり。義を見て為さざるは、勇無きなり。(「為政第二」24)

「鬼」は祖先の霊魂をさし、子孫以外の者が、祖先を祭ってはならない、そうであるにもかかわらず、自分の祖先の霊魂でもない、有力な他家の鬼を祭るのは、その有力者に対する諂いであると意味します。こうした祭祀に関してなすべきことと、なすべからざることを、はっきり見定めたうえ、なすべきことをせずにすますのは、勇気がない、つまり卑怯であると意味します。

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 「義を見て為さざるは、勇無き也」という言葉は、そこだけ切り離されて、現代の私たちでさえ、この言葉が決定的瞬間に正義の行為への発動を支えているように思われると、桑原武夫はいいます。

 

 

 岸田首相の発言が、亡くなられた安倍元首相の力を利用したいとのように聞こえ、諂いのように映り、不義と感じてしまいます。

 NEWSPICKSによれば、日本政治研究の第一人者のジェラルド・カーティス コロンビア大学名誉教授が、「この事件を受けて、日本の政治指導者たちが今後、どのように日本を導くかが重要です。事件だけでなく、戦後の様々な政策が行き詰まっていることは間違いありません」と述べたといいます。

【追悼】日本人が知らない、安倍晋三のリーダーシップ

ここで一旦、冷静になって、国内の治安問題についても、 外交・防衛問題についても戦略的に推進していけるか。あるいはアメリカのトランプ前政権や、一部のヨーロッパの国々で見られるようなポピュリズムに走ってしまうのか。

ポピュリストはこうした時に、国民の不安をあおることで自分の力を増すというやり方をとります。(出所:NEWSPICKS)

 選択を間違えて欲しくないものです。微妙な時期に差し掛かっているのかもしれません。

 

「参考文書」

岸田首相の11日の記者会見要旨: 日本経済新聞

[FT]安倍晋三氏、日本政治家で比類なき影響力(評伝): 日本経済新聞

「サンモニ」姜尚中氏、テロに疑問「メディアが先に行きすぎる危険感じる」安倍氏銃撃/芸能/デイリースポーツ online