兵庫県尼崎市の全市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーの一時紛失事故がありました。この問題について、市から業務委託を受けた情報システム大手の「BIPROGY(ビプロジー)」(旧日本ユニシス)は、USBを紛失したのは「協力会社の社員」としていましたが、「協力会社の委託先の社員」の誤りだったと発表したそうです。
USB紛失は「協力会社の委託先の社員」 市の委託業者、説明に誤り:朝日新聞デジタル
朝日新聞によると、尼崎市との契約書では、業務の一部を委託する際は市の許可を取ることになっていましたが、BIPROGYは許可を得ずに、協力会社に委託し、協力会社がさらに別の会社に委託していたといいます。この件について尼崎市は、紛失発覚後に初めて知ったそうです。
また、BIPROGYは「協力会社から聞き取る中で認識を誤った」と弁明し、「あくまでも責任は弊社にある。重ねておわびする」と謝罪したそうです。
少々お粗末と感じてしまいます。結果論かもしれませんが、個人情報を扱うという極めて重要な業務を、大手とはいえ管理能力のない企業に業務委託していることには驚愕です。
私が経験した製造業における取引先選定との違いが感じます。単純比較は出来ないのかもしれませんが、その根幹においては差はないように思います。業務遂行能力、その正確性と安全性(品質)、迅速性、コスト、そして、対話性、そうしたものが尺度になって、取引先は選ばれるべきものではないでしょうか。
論語に学ぶ
有子曰わく、礼の用は、和を以て貴しと為す。先王の道は斯(これ)を美と為す。小大之に由れば、行われざる所有り。和を知りて和すれども、礼を以て之を節せざれば、亦(また)行なう可(べ)からず。 (「学而第一」12)
弟子の有子は「礼、作法おいては、「和」なごやかであることが基本である」と説いたといいます。古代のすぐれた人たちのありかたも、なごやかであることを善とし、美としていた。しかし、誰もがどの場合でも「なごやか」に過ぎれば、「なあ、なあ」主義の狎れあいとなり、礼も作法が乱れてしまう。「和」なごやかさを活かすにしても、礼に作法の正しさを忘れず、節度をもち、それを維持していかなければならない。そうしなければ、礼や作法は崩れてしまう」と意味します。
仕事におけるマナーや作法(物事を行う方法、きまり、しきたり)を表現しているのがルールだったり、規則だったりします。それを失念、逸脱すれば、問題が起きるのは当然なことではないでしょうか。また、こうしたことから秩序が壊れていくのもごく自然なことのように思えます。
取引先を評価、格付けし、それを維持管理していく。3か月ごとに定量評価し、それを取引先にフィードバックして、来期の仕事量を調整する。そんなルールが務めていた電機会社にはありました。
そして、優秀な成績の取引先があれば表彰する。成績が悪ければ、改善プログラムを立ち上げ、取引先と関係する部門が協力して、改善を図ります。
評価は、品質管理部門、技術部門、生産管理部門、調達部門などが各々関係する業務を通して行います。定性的な評価になることを避け、定量評価できるよう工夫しました。不正につながりかねない個人の意思を排除することも考慮しています。
評価・格付けは手間の折れる仕事です。評価担当者は専任でなく、日々担当業務を行っています。ルーチン業務をこなし、日々問題があれば、それにも対処しなければなりません。そうした中にあっても、3か月ごとにやってくる評価のことを念頭におき、どんな視点で取引先と接していくべきかも考えなければなりません。
君子重からざれば、則ち威あらず。学びても則ち固ならず。忠信を主とし、己に如かざる者を友とする無かれ。過ちては則ち改むるに憚ること勿れ。 (「学而第一」8)
「上に立つ者は、重々しい態度をしていなければ威厳がたもてない。人々にあなどられてしまう。しかし、上に立つ者でも学問しないものが多く、それでは考えが固定して融通がきかなくなってしまう。学びは続けなければならない。「忠信」、まごころがあって嘘をつかない人と馴れ親しんで、自分より劣るものを友人とするな、過ちを犯したならば、素直に改心して改めるべきであって、こだわってはならない」と意味します。
「忠」とはまごころ、「信」は約束を違えぬこと。「忠信」とはそうしたよい性質をもつ人間を指します。
日々の定常業務をこなしつつも、学びの精神を忘れずに学び、それをまた業務に活かすことができるようにするのが、理想的な仕事なのかもしれません。
定常業務の効率を改善できれば、1日の時間のうちに空き時間を作ることができます。その空き時間を使って学習したり、次の改善策を考えたり。
また、そうした行為は単独で行うのではなく、協力者を求め、できれば協働していく。そして、その協働においては、「忠」と「信」を育み、それに近づくよう、また日々努力する。そうしたことの中でまた、ルールや作法が作られていくようになればいいのではないでしょうか。
ついつい定常業務を行うことだけが仕事だと思い込んでしまいます。しかし、それで終わってしまったら、 尼崎で起きたUSBの紛失事故のようなことは、これからも起きるのではないでしょうか。
「参考文書」
尼崎の市民情報入りUSB 紛失したのは再々委託先と訂正: 日本経済新聞