日銀黒田総裁が「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」などと発言し、批判を受けて謝罪、発言を撤回しました。
そうはいっても日銀の政策に変化があるわけでもなく、また、円安が加速しています。
「日本で悲願のインフレ到来」と英BBCは報じています。しかし、悪夢に転じる可能性もあるといいます。
日本で悲願のインフレ到来 なぜ悪夢に転じうるのか - BBCニュース
その背景は、いうまでもなく、この30年間、賃金がほとんど変わっていないことをあげます。
今回のインフレは世界的なもので、各国が影響を受けている。ただ、何十年も値上がりを経験してこなかった日本では、国民への衝撃がひときわ大きい。(出所:BBC)
賃上げのためには「生産性を向上させなくてはいけない」と、サントリーの新浪社長がBBCのインタビューで述べています。しかし、日本にとって生産性の向上は、デフレ脱却と同じくらい長年の課題とBBCは指摘しています。
一方で、「うちの課長職は疲れている」という社内調査結果がまとまり、その対応に奔走するNECの本部長をForbesが紹介しています。
「日本一働きがいのある会社にしたい!」NECの若手リーダーと組織開発プロの挑戦 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
中間管理職が疲弊していては組織の生産性向上どころではないのでしょう。こうした状況に危惧を感じてのことだったのでしょうか、NECでは課長職を対象とした「チームの器をつくる」「己を知る」というふたつをテーマにしたマネージャー研修を実施したそうです。
お互いについてさらけ出すことをマネージャー同士でやったことで、コーチングの能力を身につけながら、連携のレベルも上がった。組織が変わったなと思ったし、もっと早くやっていればよかったと思いました。(出所:Forbes)
こうしたことで組織の生産性向上につながっていくのでしょうか。
「自分の仕事もやらなければいけないし、人の仕事も見なければいけないと思うと、負担感が半端なく大きい」と、この研修実施責任者は指摘、「自分の認知を高めていく、自分の器を広げる、という意識でやればよいのではないか。そういうスタンスで人と接していくと、自然と人はエンパワーされていくのではないか」と述べています。
確かに、一人ひとりが自発的に行動できる力を身につけることができれば、生産性は向上するのかもしれません。
論語に学ぶ
君子は器にならず。(「為政第二」12)
「君子は専門家ではない。器はすべて特定の用途のために作られ、それ以外の用途には適さない。舟は水に浮かべるが山に登れない、車は陸を行くが海は渡れない。君子は用途のせまい器のような専門家であってはならない」と、桑原武夫は解説します。
「不器(器にならず)」とは、専門技能の否定ではなく、すべての人が技能を当然持ちながら同時に、広い視野と行動力を持ちうるようでありたいという希望を示すものと桑原はいいます。
NECで実施した研修の目的と通じるものがあるのでしょうか。上に立つ者であるなら、単なる「器」になってはならないということでしょうか。
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ドル円相場について、様々な予測がなされるようになっています。140円くらいまで円安になると、黒田総裁がアクションを起こすとの予想があるといいます。
黒田総裁は優れた経済の専門家なのかもしれませんが、もうしかしたら総裁の「器」ではないのかもしれません。
さて、いつになったら他の国なみに賃金が上昇することになるのでしょうか。生産性向上ばかりを唱える経営者も「その器ではない」ということなのかもしれません。
「参考文書」
日銀の年内緩和修正観測が後退、140円に円安進行で対応も-サーベイ - Bloomberg