「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

困らないから智慧もない、「なにかあったらどうすんだ症候群」

 

 元陸上選手で、400mハードルの日本記録保持者の為末大氏が、私たちの国は「なにかあったらどうすんだ症候群」にかかっていると発信しています。

なにかあったらどうするんだ症候群とその対処法|Dai Tamesue 為末大 (株)Deportare Partners代表|note

 日本経済新聞はその内容を以下に要約しています。

それは社会に安定と秩序をもたらすが、副作用として停滞を生み、個人の可能性を抑制するという。この症候群は、未来を予測してコントロールできるものと考え、その逆算でしか物事を判断できない。だが、実際には予想しないことが必ず起きる。それをイノベーションという国もあるが、この国では「危ない」や「予想外」となる。ここから抜け出るためには「やってみよう、やってみなけりゃわからない」を、社会の合言葉にしなければ――。(出所:日本経済新聞

 

 

 どの国でもそう考える人は一定程度いるはずで、日本特有のものでもないような気がします。停滞している日本という視点で観察すれば、こうした考察に行きつくということは理解できます。

「なにかあったらどうするんだ」「失敗したらどうするんだ」、そうなったら対処するしかなく、それが学びの機会になって、次の挑戦の材料になるはずですが、そうはせずに、失敗を恐れるばかりに、何もせずに現状維持に終始していたら、いつまでも成長がないのは自明ではないでしょうか。

 困らなければ、「チエ」は生まれません。困ったからこそ、智慧を使い、進歩してきたのでしょう。

論語に学ぶ

 子張問えらく、十世知る可(べ)きか、と。子曰わく、殷(いん)は夏(か)の礼に因り、損益する所知る可し。周は殷の礼に因り、損益する所知る可し。其れ或いは周に継ぐ者、百世と雖(いえど)も知る可きなり、と。(「為政第二」23)

  孔子の弟子で、若く秀才であった子張が、「このあと周王朝についで次々とあらわれるであろう十の王朝のことを、今から予知できるでしょうか」と質問をしました。孔子はお前の質問は何かはったりめいて好ましくないと前置きしたそうです。そして、子張の得意とする礼を例にして、空論を排し、合理的に推論し、答えたといいます。

お前のよく知っている礼楽をみても、それは予知できるはずではないか。殷の王朝は前の夏の王朝の礼制を受け継いだ、そのさい廃止(損)あるいは付加(益)したところはわかるはずだ。周王朝の殷王朝に対する関係も同じことである。したがってもし周を継ぐ王朝がいろいろでてくるにしても、十代どころか百代さきのことまで予知できるはずではないか。(引用:「論語桑原武夫

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 この世には不変なものと変化するものが混在しているのではないでしょうか。水は高きから低きに流れ、その法則性は不変であるが、その流れによって自然は変化していく。

 孔子人間性の本質の永久不変性を信じて、その社会における具体的表現である礼なるものは、部分的改変はさけられないにしても、その基本は永続すべきものとしたといいたかったのではないかといいます。

 

 

 万物は流転する、この世にあって未来を正確に予測することには困難なことではないでしょうか。孔子が生きた時代では、その2500年後に人工知能なるものが登場し、デジタル社会になるとは正確に予見することはできなかったのでしょう。

「非連続の深い自覚がへることなくして、安易な文明の連続をとなえることは許されない」と桑原武夫は指摘、私たちが「十世知る可し」と言いうるためには、それなりの決意が不可欠であろうといいます。

之を知るは知ると為し、知らざるは知らずと為す、是れ知るなり。(「為政第二」17)

 「知っているとは知っているとし、知らないことは正直に知らないとする。それが真に知るということ」と、孔子が弟子の子路に教えたといいます。

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 有名なソクラテスの「無知の知」とおおむね同じ意味なのでしょうか。 

「自らの無知を自覚することが真の認識に至る道である」(出所:コトバンク

知っていることと、知っていないこととの区別を明確にすることが、個人としては、行動を明確にするし、また、学問、技術などの進歩のもとになる。また、人類全体としてみれば、その区別を明確にすることによって、未知の領域の開発が可能になる。(引用:「論語桑原武夫 P56)

 それが時に、イノベーションといわれるもののネタになるのでしょうか。

 人間の世界では、未知の領域のほうがまだ既知のそれより広大なのだと桑原武夫はいいます。

 

「参考文書」

日本にはびこる「なにかあったらどうすんだ症候群」: 日本経済新聞