熊本県産のアサリにおいて産地偽装の疑いがあるとして、熊本県は「県産アサリ緊急出荷停止宣言」を行い、出荷を停止すると発表しました。
この出荷停止措置により、熊本生産活きアサリは、2月11日以降、市場から姿を消すそうです。
西日本新聞によれば、生産に携わる地元漁協の幹部は「生活と経営のためだった」と、偽装を黙認してきたと打ち明けたといいます。
「アサリ産地偽装は何十年も続いてきた」熊本の漁協組合長が語った偽装の実態|【西日本新聞me】
「以前から知っていた。漁業者も漁協も、食っていくためだった」
組合長によると、この漁場では業者が輸入した中国産や韓国産のアサリを1週間から半年間ほど養殖し、問屋の求めに応じて出荷する。
組合長は「産地を偽装しているのは問屋で、漁協は直接関与していない。ただ短期間で市場に出すので違法だとは分かっていた」と明かした。(出所:西日本新聞)
熊本県のアサリは昭和50年代には、全国の約4割を占め、昭和52年には65,732トンを漁獲していたそうです。そのアサリ漁獲量が2008年頃から急減、10,000トン近くあった漁獲量が令和2年には、21トンまでに落ち込んだといいます。
組織ぐるみの偽装行為だったということでしょうか。
論語に学ぶ
「孰(たれ)か微生高(びせいこう)を直と謂う。或るひと醯(けい)を乞いたるに、諸(これ)を其の鄰(となり)に乞いて、之に与えたり」(「公冶長第五」24)
「誰が微生高をまっすぐな人と言ったのであろう。ある人が微生高に酢を借りに来たことがあった。わざわざ自分の隣の家から酢を借りてきて、その人に与えた。そこまでして、それが真直ぐな人なのか」との意味です。
自分のところに酢がなければ隣から借りて融通してあげる、それがどこが悪いのか、「隣の酢を自分のもののような顔をして融通したところで、立派ではないにしても、何も悪いことではない」と、桑原武夫はいいます。
酢を借りに来た隣人に、自分の家に酢がなく、他家から借りてきた酢を又貸しすることは問題はないかもしれませんが、水産物では法規制もあるので、そうはいう訳にいきません。
「人の生くるや、直たれ。之 罔(な)くして生くるは、幸いにして免(まぬか)るるのみ」(「雍也第六」19)
人間は生きてゆくとき正直であれ。それがなくて生きたとすれば、それは幸運にも失敗を免れただけのこととの意味です。
邪まことをすれば、心は落ち着かないものです。慣れはあるのかもしれませんが、常に後ろめたい気持ちを心のどこかで抱えることになるのでしょう。正直であるべきということなのでしょう。
「人の生くるや、直たれ」
「出荷を停止している間に、産地偽装を根絶する仕組みを構築します」と蒲島熊本県知事はいっています。
県・漁業者・販売事業者などによる「熊本産アサリブランド適正化協議会(仮称)」を立ち上げ、産地偽装を抑止し、ブランド力を高める検討を進めるといいます。産地偽装を防ぐ仕組みが構築できた段階で、熊本県産アサリの出荷を再開するそうです。
☆
ただ気になることがあります。なぜ熊本のアサリはここまで漁獲量が急減したのでしょうか。乱獲の影響があったのでしょうか。それともそれ以外の要因もあるのでしょうか。
アサリの漁獲が急減した時期に、対岸長崎県諫早湾の干拓工事が完了しています。諫早湾近隣ではそのころアサリのえい死が多く確認されたといいます。何か影響があったりするのでしょうか。
産地偽装は言語道断、もっとの他なことです。しかし、かつてのように有明海で豊富にアサリが取れていたのなら、こうしたこともなかったのかもしれません。産地偽装を防ぐ取り組みばかりでなく、アサリ急減の原因を究明し、資源回復を可及的速やかに、強力に進めていくべきではないのでしょうか。それなくして根本的に再発を防ぐことはできないのではないでしょうか。
「参考文書」
アサリの出荷停止要請 熊本県漁連が捕獲禁止を漁協に通知|NHK 熊本県のニュース
【令和4年2月1日】知事臨時記者会見(アサリ産地偽装対策について) - 熊本県ホームページ
広域小売店におけるあさりの産地表示の実態に関する調査結果について:農林水産省