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「行蔵は我に存す」と決意を表す首相と「カネ余り」の日本

 

「日銀に預けているメガバンク当座預金の一部にマイナス金利が適用される」、2016年の制度導入当初を除き、大手行にはこの仕組みが適用されていなかったといいますが、6年ぶりに三菱UFJ銀行に適用となるといいます。

逃げ道ふさがるマイナス金利、三菱UFJ銀行に6年ぶり適用: 日本経済新聞

 日本経済新聞によれば、超低金利環境の長期化で行き場を失ったマネーが預金に積み上がり、コロナ禍で支給された給付金などが拍車をかけたといいます。カネ余りということでしょうか。

 

 

 一方で、手数料が高騰するど預金者負担は年々増していないでしょうか。何か矛盾を感じてしまいます。

 地方銀行や信託銀行、ゆうちょ銀行などには既にマイナス金利が課されているそうです。

持続可能な経済社会の実現に向けて

 岸田首相が17日、施政方針演説を行い、「経済再生の要は「新しい資本主義」の実現」と改めて主張しました。

 これまでの新自由主義的な考え方が、「中長期的投資の不足」など様々な弊害を生み出してきたと批判し、持続可能な経済社会の実現に向けて、「経済社会変革」が必要といいます。

市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる、中長期的投資の不足、そして持続可能性の喪失。

行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差。自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機。(出所:NHK

 

 

 現実の金融では金が余り、資金需要が乏しく資金が向かう先がないというのに、一方で、首相は「中長期的投資の不足」を指摘しています。

 一体どういうことなのでしょうか。問題の根が深さを感じてしまいます。

「羣居(ぐんきょ)すること終日、言 義に及ばず、好んで小慧(しょうけい)を行う。難(かた)いかな」(「衛霊公第十五」17)。

「群れて一日中雑談し、話す中身に「義」はなく、小才を巡らす話ばかりに熱中している」との意味です。

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 もしかして、これまでの為政がそうであったということなのでしょうか。小賢しいことばかりで、社会全体が善い方向に向かうことがなかったのかもしれません。

勝海舟の「行蔵は我に存す」とは

 施政方針演説の最後に、首相は勝海舟の言葉を引用しました。

「幕末を生きた勝海舟は、「行蔵は我に存す」とともに、「己を改革す」、自らを律することに重きを置きました」、そして、「今、新たな時代を切り拓くに当たり、統計の不適切処理はもとより、我々政治・行政が、自らを改革し、律していくことが求められています」と述べました。

 

 

「行蔵は我に存す」

 福沢諭吉が「瘦我慢の説」を書き、その公表前に、写しを海舟に送り、感想を求めたといいます。すると、海舟は返書で、「批評は人の自由、行蔵は我に存す」と記し、公表されても差し支えないと答えたそうです。

「行蔵は我に存す」の後には、「毀誉は他人の主張、我に与からず我に関せず存じ候」と続いていたそうです。

「行蔵」とは、世に出て道を行うことと世をのがれて才能を表に出さないでいること。一般に、出処進退。

「毀誉」とは、けなすこととほめること。悪口と称賛との意味。

 今の言葉でいえば、「行いは己のもの。批評は他人の自由。知ったものか」との意味でしょうか。

 海舟は著作「氷川清話」でもこのことを述懐し、次のように言っています。

福沢は学者だからネ。おれなどの通る道と道が違うよ。

つまり「徳川幕府あるを知って日本ある知らざるの徒(ともがら)は、まさにその如くなるべし、唯百年の日本を憂うるの士は、まさにかくの如くならざるべからず」サ。(引用:「氷川清話」勝海舟 P152 福沢諭吉

 首相はこの言葉を「自分の行動の責任は自分で負うということで使い、決断について「自分が全て負う覚悟」との決意をアピールしたのだといいます。この決意に、大臣や官僚たちは応えることはできるのでしょうか。

 

 

 さらに、首相は「信頼と共感」の政治に向けて、謙虚に取り組んでいきますと述べ、「共に力を合わせ、この国の未来を切り拓くため、心より、国民の皆さんの御理解と御協力をお願いいたします」という言葉で結びました。

論語の教え

「君子は義以て質と為し、礼以て之を行ない、孫以て之を出だし、信以て之を成す」と、「衛霊公第十五」18にあります。

「君子は、「義」道理をもって根本とし、礼に従って実践し、謙遜して発言し、誠意をもって貫く」との意味です。

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 よくわかりませんが、首相は道理を説いたつもりでいるのでしょうか。そうであれば、この先、「礼」、規範やマナーに従った行動を示していくことが求められはずです。

 さしあたっては、日銀黒田総裁の後継人事が気になるところです。金融政策の転換はあるのでしょうか。

 染みついた悪習を正す、社会変容、変革には長い時間を要するものです。その一歩になればいいのかもしれません。