「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

富の集中と格差社会 満足すべきことは「奪う」ことではない

 世界上位1%の資産が、世界全体の個人資産のおおよそ38%であったとの報告書がまとまったという。コロナ禍による景気刺激策で株価が急騰したことも格差拡大の一因といわれる。日本においても世界全体に比して顕著ではないものの、広がった格差に改善は三らていないとの結果となっているようようだ。

 こうした状況の改善策を世界の国々は見出すことができず、日本においても同様で、親から子への「貧困の連鎖」が深刻とも言われる。「新しい資本主義」が定着すれば、こうした問題は解決に向かうことはあるのだろうか。

 

 

人から欲しいものを奪い取らないと、満足できなくなってしまう

「君子は食飽くを求むること無く、居安きを求むること無し。事を敏にして言に慎む。有道に就いて正す。学を好むという可きのみ」と、論語「学而第一」14にある。

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 君子はたらふく食べ、安楽な住居に暮らすことはさして難事ではないが、そんなことに満足してはならない。公の事に務めるべきで、その才、行動の敏捷、発言の慎重さが求められ、道に従い自分の行いを正す。こうしたことができる人が学を好むと言えると意味する。

 こうした言葉が理解されていれば、格差が年月に従い広がっていくことはないのだろう。

 科学知識が進歩し、産業が興り、利益が増大する、そのための学問も発達し、歓迎され、おおきな勢力になったと渋沢栄一が「論語と算盤」で指摘している。それによれば、豊かさと地位を求めることは「人間の性欲」と等しく、初めから道徳や社会正義の考え方がない者に、利益追求の学問を教えてしまえば、火に油を注ぐようなものだという。

 自分が関わる事業を繁栄させようと、努力するのは実業家として立派なことだ。また、株主の利益に忠実なのも悪くはない。しかし、こうした気持ちが実は自分の利益だけを図ろうとする利己心でしかないなら、これは問題であると栄一はいう。

「人から欲しいものを奪い取らないと、満足できなくなってしまう」という孟子の言葉につながることを危惧する。

 

 

論語の教え

 何事にも競争はあるものだが、度が過ぎれば道徳を失うことになると栄一はいう。

 読書にも競争があり、徳の高い低いにも競争はあるが、これらは激しい競争ではない。「あいつよりも、財産を多く持ちたい」と始まると、「目的のために手段を選ばず」というようになることがある。つまり同僚を騙し、他人を傷つけ、自分自身を腐らせてしまう恐れがある。「財産をつくれば、仁の徳に背く」だという。

 一方、論語には「苟(いや)しくも、仁に志せば、悪をなす無き也」(「里仁第四」4)にある。 

 萩生徂徠は「仁に志しても人間は過挙(あやまち)を犯すが、ことさら悪事をすることはなくなる」と読み、一方、伊藤仁斎は「仁に志せば、人を慈しむようになり、おのずと悪(にく)まれることがなくなる」と読む。

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 道理に従って世の中をみてみれば、 格差が広がるのもよくわかる。いわゆる富裕層の人たちに君子の心構えが備わればいいのだろう。「学ぶ」ということは何かと考えさせられる。