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ワクチン接種証明アプリとデジタル庁の苦悩、国のデジタル化は進むか ~ 論語の教え #21

 

 新型コロナワクチンの接種を証明する政府のスマホアプリの運用が始まったといいます。早速、色々と問題が露見、デジタル庁が、誤った内容が表示される可能性があるとして注意を喚起、使用前に確認するよう求めているそうです。

 システムに登録された接種記録情報の入力ミスや漏れがあり、各自治体で修正作業を続けているといいます。また、この他にも、スマホアプリでの証明書の発行には、マイナンバーカードの読み取りが必要で、マイナンバーカードの普及率が足かせになっているそうです。そればかりでなく、マイナンバーカードに旧姓が併記されていると、システム上、証明書が発行されないといいます。

 いやはや、前途多難、この国のデジタル化が心配になります。

 

 

デジタル庁も紙文化なのか

 このアプリを主導したデジタル庁の問題をBusiness Insiderが指摘しています。記事によれば、想像を絶する紙文化だといいます。

デジタル庁に乗り込んだコンサルが見た、想像超える紙文化と改革を阻むもの | Business Insider Japan

 デジタル庁の現場に入ったコンサルの苦悩が描かれています。

 染み付いた悪習を正していくのなら、べき論では厳しいように感じてしまいます。徹底した問題点の分析と真因の追求、そしてその上でしくみをつくることが、効率化改善の常套手段です。ただあまりも大き過ぎる官庁という組織であれば、大雑把ながら正確に問題把握をしたうえで、象徴的事例から始めるのがいいのかもしれません。

 紙文化、ペーパーレス化を進めるのであれば、今回のアプリ不具合の問題や国交省での統計データの二重計上を事例分析するのがいいんかもしれません。なぜミスが起きるのか、その要因分析を行い、その真因を徹底追及するのです。想像を排し、「なぜ」「なぜ」「なぜ」これを5回繰り返せば、真因に突き当たると言われます。真因がわかれば、その対策は容易になるといわれます。あとは再発防止のためのしくみづくりと水平展開です。

 

 

失敗に終わった孔子のビジョン、その反省を活かす

「吾 衛 自(よ)り魯に反(かえ)る。然(しか)る後、楽 正し雅頌(がしょう)各々其の所を得たり」と、論語「子罕第九」15 にあります。

 孔子が、衛より魯に帰って見ると、古来周の礼楽を伝えていた魯も、この時には全く道が衰え、礼楽も廃れていた。そこで孔子はその間違から正し、足らぬ所を補い、誤りがないようにしたと、渋沢栄一がその意味を解説します。

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「周の政治は、「礼」と「楽」とを非常に貴んだものであるが、「礼」とは、国を治むる規範であり、「楽」は人の心をやわらげもし、また勇めもするものである。雅頌とはその楽の一つで、当時朝廷の楽は雅を歌い、宗廟の楽は頌を歌うものであった」といいます。

 まずは出来ること、そして、効果的なことから着手すべきということなのかもしれません。

 この後、孔子は書を著すようになり、また弟子の教育に力を注いでいくことになっていきます。

孔子の王道を行うという大抱負は、悪るく言えば失敗に帰し、数十年に亘る努力も徒労に終った。それで経書を以て世を益そうとした」と、栄一は言います。

 国のデジタル化もまずはビジョンを封印し、出来ることに集中すべきなのかもしれません。できるはずのペーパーレス化から進め、その定着を図り、しくみを作り、標準化、ルール明文化していくのがいいのかもしれません。このプロセスを何度も繰り返すのです。いわゆるPDCAを回すです。もちろん、これらすべてがデジタル化されることはいうまでもありません。

 

 

論語の教え

 弟子の樊遅(はんち)が、孔子に「仁」を問い、「知」を問うと、孔子は、「人を愛し、人を知る」ことと教え、さらに、「直(なお)きを挙げて諸(これ)を枉 (まが)れるに錯(お)けば、能(よ)く枉れる者をして直から使(し)む」と諭しています。

 理解ができなかった樊遅は、同じく弟子の子夏(しか)にその意味を尋ねます。

 すると、子夏は、「舜(しゅん)の天下を有(たも)つや、衆より選びてで皐陶(こうよう)を挙げ、不仁者(ふじんしゃ)は遠ざかる。湯(とう)の天下を有つや、衆より選びて伊尹(いいん)を挙げ、不仁者遠ざかる」と、その意味を教えたと、「顔淵第十二」22 にあります。

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直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直から使む」。

「これは、良い者を挙げて、尊重していると、その下にあるものは何故に彼が尊重されるのであらうかと考えるようになる。そして彼は正しい為めに挙げられ、しかも尊重されるのだと云うことが判る。そこで自分もまたこうなろうと云う風になる」と、栄一は解説します。

例えば、正直な人が上に挙げられて尊重されると、彼の人は正直だからであると思って下のものも、これに倣って正直になる。勉強する人が上にあれば、他の人も皆勉強するやうになり、社会の人もまたその通りになるものである。(参考:「実験論語処世談」渋沢栄一記念財団

求められるデジタル相、行革担当相の手腕

 デジタル相、行革担当相の牧島かれん氏の差配が重要になるのでしょう。改善・改革推進者となる直き者をアサインできるか否かにかかっているのかもしれません。

 これまでは先にビジョンやあるべき姿が示されていいましたが、それが必ずしも正しいものではなかったのかもしれません。気づけば、張りぼてのシステムが出来上がり、いつしか使われなくなってしまう。同じ過ちは避けるべきではないでしょうか。

 真に改善・改革を進めようとするなら、まずは現場の問題を正しく把握することから始めるべきです。そこには疑問的、科学的態度が求められます。これが改善・改革、効率化の王道なのです。

 

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